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色んな匂いが混ざり合ってる店内は、慣れるまで拷問部屋か此処はってくらい思ってた。
今となっては嗅覚が鍛えられたのか、だいぶ匂いの判別が出来る様になってるよなぁ、って、上鳴さんのジャケットを手に取った時の微かな匂いを思い出す。
別に、今思い出さなくても、今からその主が居るだろう部屋に帰るんだけどもなぁなんて小さく笑う。
これから明るくなってくるんだろう空を見上げていると、ポケットが震えた。長めのそれは恐らく電話の着信で、取り出して見ると知らない番号が画面に表示されていて首を傾げる。

「だれだろ」

間違い電話か何かだろうか。基本的には知らない番号のは出ない様にしているから、スマホはそのままポケットにしまって、アパートの階段を上りきる。そもそも数少ない知り合いの誰かなら既に番号は登録済の筈で、となれば知らない人だろう。たぶん。
用があったらまた掛かってくるだろうし、帰ったら上鳴さんの寝顔でも見れたらいいなぁなんてぼんやりと思いながら、鍵を回した。

「ただいまー……」
「あ、今日ちょっと早め?おかえりー!」

きっと返ってこないだろうと思いながら控えめに呟いた声に返事があって、思わず目を見開いた。
慌てて顔を上げて見れば、部屋の奥からひょっこり顔を覗かせて笑う上鳴さんがそこに居て、途端に嬉しくなってしまう。

「うん、今日は後半お客さん少なくて……、っていうか上鳴さんまだ起きてたの?」
「おー、たまには待っててみようかなーって思って。眠そうな零音くん出迎えてやろーとか考えてたんだけどあれだな、全然普通じゃん」
「いやまぁ……流石に夜には強くなっちゃったよね」

ほんとは疲れてるし眠いんだけど、上鳴さんが起きて待っててくれたから目が覚めました。なんて言ったら、この人はどんな顔をするんだろうか。
困らせる様な事はしたくないから、それは言わないけど。

「夜強いの良いよなぁ、俺すぐ眠くなっちゃうから尊敬するわ。……あ、零音くん飯は?ちゃんと食べた?」
「うん、店の賄い食べたから大丈夫。そっちは飲み直し?」
「あー、いや……実は零音くんと飲もーとかって思ってたんだけど、待ちきれなくて一人で始めちゃった」

ゆるく申し訳なさそうに笑う上鳴さんの言葉にドキッとするのは、もう完全に惚れた弱みだ。
寝ずに待っててくれただけでも嬉しいのに、そんな事言われたらもーしんどいです。しかも言い方可愛いしノックアウトだ……。

「なにそれうれし……、すぐシャワー浴びてくるから、もうちょっとだけ待っててくれる?」

一緒に飲も、と付け足してへらっと笑えば、んじゃあ待ってるって返ってきて。
単純な俺は、舞い上がってふわふわした気持ちのままお風呂場へ向かった。





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急いでシャワーを浴びて出てきた俺を見た上鳴さんが、へにゃっとしながらおかえりって出迎えてくれて溶けるかと思った。

「ただいま、ごめんね待たせちゃって」
「いやいやぁ俺が勝手に待ってただけだから全然気にしなくていいんだってばー、それよりほら!カンパイ!」
「あっわっ、かんぱい……!」

ぷしゅっと勢いよくプルタブを開けた缶ビールを慌てて受け取って、その勢いのまま乾杯をして。
めちゃくちゃ上機嫌の上鳴さんはずっと笑顔で居るから、見てるこっちも自然と笑顔になってくる。

「ずっとさー、零音くんとゆっくり飲みたいなぁって思ってたんだよね俺」
「え、そうなの?なんでまた」

俺なんかと、って言葉は飲み込んだ。そういう言葉は相手に対して失礼だって事は学んだから。
そんな俺を気にする風もなく、だって、って言葉を繋ぐ上鳴さんに首を傾げた。

「突然転がり込んで来たのにこんな良くしてもらってさぁ、ほんとありがてぇっつーか。でもずっと仕事ですれ違ってばっかだったじゃん?だから一回ゆっくり話したかったんだよ」
「あー……まぁ、たしかに……」

それに関しては俺も同感。ちゃんと話したいなぁって思ってたのは本当だし。
だけど、すれ違ってて寂しいなっていう気持ちは俺の恋心のせいだから、きっと彼には無いものだろうって思ってたんだけど。たとえ想う気持ちが無くても、家に人が居ないのは普通に寂しかったのかもしれない。

「だから今超嬉しいわけよ、分かる?」
「……うん、俺もこうして飲めて嬉しいから分かるよ」
「マジ?おーっし良かった俺だけかと思った!」

そう言って屈託無く笑うから俺も釣られて笑うと、笑ってる顔のが好きだぜとか不意打ちのパンチを食らった。
我ながらチョロイと思う。
他意の無い純粋な好意なんだろうと分かってはいても、舞い上がってしまうのは仕方ないよね。





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