13

「ねぇ俺……、何で零音くんの隣で寝てたの?」

昼過ぎに起きてから、まず初めに上鳴さんが発したのはそんな台詞だった。
ぴょん、と寝癖の付いた頭をわしわしとかき混ぜてから伸びをする姿を眺めながら、残り少ないペットボトルの水を飲み干した。なんで、って言われても、それは俺が聞きたいくらいなんだけどな……。

「俺も起きたら横に居たから分からないよ、昨日ちょっと肌寒かったし、寝ぼけて入ってきたとか?」
「まじでぇ?ちょっとー零音くん無防備すぎじゃねぇ??」
「警戒しろって方が無理あるでしょ……」

本当は、ほんの少しだけ先に起きたからめちゃくちゃ動揺した。だって起きたら同じベッドだよ?焦るに決まってる……。でも、何度も深呼吸してようやく落ち着いた辺りで上鳴さんが起きてきたから、そんな素振りは出さずに済んだんだよね。
朝方一回起きて会話した気はするけど、あれは寝惚けてたからノーカンで……。

俺の言葉を聞いて、確かにーってけらけらと笑う声と同時に、上鳴さんのお腹が盛大な音を鳴らして思わず噴き出してしまった。うん、そうだなお腹すいたね。

「はーー、恥ずかしいわこれ……」
「もうお昼過ぎてるし、しょうがないしょうがない。にしても凄いでっかい腹の虫だったけど」
「あーやめて!ちょっともう、なんか食べよ!?」

ばたばたと手を振って誤魔化そうとするの可愛すぎやしないでしょうか。
にへっと緩んでしまった顔はそのままに、部屋の隅に置いたレジ袋からカップ麺を取り出す。とんこつと、醤油ラーメン。
上機嫌に尻尾がぷらぷら揺れるのを感じながら、こういう時料理が出来たらポイント高いだろうになぁなんて考える。鍋でお湯を沸かしてる間にべりっと蓋を剥がして粉末スープを入れて、いやポイントって何だよ、俺のポイントが上がったところで何にもなんないだろと、脳内で一人漫才が繰り広げられる。
恋をすると頭ん中がうるさいですよ。それはさておき。

「醤油ととんこつ、どっちがいい?」
「おれとんこつー」

ぴんぽん、
じゃあ俺醤油かな、って返事をする前に、玄関のチャイムが鳴った。うん?あんまり家に来るような人居ないんだけど、誰だろう。なんかの勧誘とかだろうか?なんて考えながら首を傾げた。

「あ、俺出るよ。零音くん火見てて」
「え?あ、いやいいよ俺出るし」
「いーからー」

無駄に良い笑顔でそう言って玄関へ向かってくれたけど、俺のお客さんだったらどうするんだろうかあの人……。
どちらさんですかーって言いながらドアに向かった上鳴さん。それからは、何かを話す声は聞こえるものの、内容までは聞き取れない。
カップ麺にお湯を注ぎながら待ってみるものの、俺を呼ぶ声も無いので少し不思議に思う。宅配を頼んだ覚えも無いし、やっぱり何かの勧誘かな、実際、たまに来るし。



「なんか家間違えたみたいだわー」

暫くして戻ってきた上鳴さんは、ベッドに腰掛けてそう言った。家間違えたって……。

「隣と間違えたとか?」
「んーそうじゃない?なんかめっちゃびっくり顔されたわ」
「ふーん……?」

俺だってびっくりするっつーのな!ってケラケラと笑って言う。この辺は似たようなアパートも多いし、まぁ、無くはないんだろうなそういうのも。
けど、それなら尚更俺が出た方が良かったんじゃないかなぁと申し訳なくも思う。

「変な人の対応してもらってごめんね」
「いやいや、むしろ貴重な体験させてもらってありがとー的な?あんなにきょとんとされたの初めてだわー」
「あはは、そっか。じゃあごめんじゃなくてありがとうだ」

ローテーブルにカップ麺を二つ置いて謝罪とお礼を言った。
昔、何かで見た事がある。人に何かをしてもらったら、ごめんよりありがとうの方が良いって。でもそれを実践するのは、俺にはどうもまだ難しいようで。
気にすんなって言ってニッと笑う上鳴さんに、俺も笑い返した。

「これ3分?」
「んーん、5分のやつ」

そう答えたのに、4分くらいで開けてしまった上鳴さんは硬い方がお好きらしい。俺はと言えば、きっちり5分待ってから開けた。
湯気で曇るからなぁと思って外した眼鏡をテーブルの脇に置いたら、あ、と前から声が聞こえた。

「眼鏡無いの新鮮で良いねぇ。……じゃなくて、今日は零音くん夜仕事?」
「あー、うん。出勤だね」
「そうかー、え、何時くらいに出んの?もし良かったらさー途中まで一緒に行かね?」

そう言ってずるずるーっと、とんこつラーメンを啜る。
どう?なんて、そんなの断る選択肢も理由も無いよ。何より上鳴さんと一緒に出勤出来るなんて、途中までとは言え、そんなの嬉しくない訳がない。
16時くらいかなぁ、上鳴さんが良ければ一緒に出ようか、って笑えば、屈託の無い笑顔が返って来た。





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