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肩を並べて歯を磨いて、だらだらと着替えを済まし、てきとーにヘアセットをする。上鳴さんはなんだかこだわりの髪型があるらしく、今日はキマらないと言って苦戦していた。
俺はといえば、毎回気分で変えたりするから、まぁこんなもんかなって早々に切り上げている。
「そういえば上鳴さん、どこ行くの?仕事?」
「んぇー……、あー、あのーワックスがなーもう無いから買いたくて……仕事はやすみでー……」
多分セットに集中してるんだろう、歯切れの悪い間延びした返事にくすりと笑ってしまった。
そうして待つこと数分。他にも色々買いたいんだよね、と言って戻ってきた上鳴さんを見ればビシッとキマっていて、うんさすが、イケメンだ。
「あー、俺も新しいワックス欲しいんだよね、普段どこで買ってるの?まだ時間あるし、ついてって良い?」
「え、いいよ?っても別に専門店とかじゃねーけど」
「全然、面白そうだから行きたい。どんなの買ってるのか興味あるだけだよ」
「おー、零音くんがつまんなくねーなら一緒に行くか」
「うん、ありがとう、……準備出来たなら出よっか?」
「うぇーい」
やる気無さげなそのゆるい返事が、俺は割りと好きだったりする。
帰りが一緒になる事はあっても、並んで家を出るなんて今まで無かったかもしれない。その新鮮な感覚に自然と気分が上がっていく。
「零音くん外に出たら尻尾と耳隠しちゃうよなー、勿体ねぇ」
「え、何それ。……だって、なんか恥ずかしいじゃん、耳とか」
「えーそう?可愛いっつか、癒されるから好きだけどな」
アパートを出て駅前までの道すがら、指摘されたそれ。
もごもごと口先で言い返す俺にそう返してくる上鳴さんは、手でぴょこぴょこ、耳の仕草をして笑う。なに、可愛いんだけど、この人不意打ちで俺を殺す気なのかもしれない。
そんな事言われたら、ちょっと外でも出しとこうかななんて血迷ってしまいそうになる。
「家だけで勘弁してくれない……?」
「えー、まぁ、家で見れるならいっかぁ……俺あれ地味に癒しなんだわ」
謎の納得をされてしまって、逆にどういうリアクションが正解なのかまったく分からなかった。っていうか、癒しなの……?ケモ耳が……?もしくは尻尾のほうかもしれないけど……。
いや、まぁそもそもの話、個性の関係で人と見た目が違うなんていうのはもう世間の常識だから、気にする方が変わってるんだけど。そういうの突っ込んできたりしない所が、優しいなと思う。
特に何も考えてないだけかもしれないけど、それでも。
「えーと、店……駅のとこ?」
「いやーあそこさぁデカイ割りに品揃え薄くね?それだったら俺手前のドラストのが良いと思うんだよね〜」
「あー、確かに……。女性向けな感じするよなーあそこ、メンズの棚すごい狭いし」
「わっかる!?いやー零音くんなら絶対分かってくれると思った!洗面のとこさ、結構ワックス種類置いてんじゃん?あれめっちゃ感動しちゃってさーやべーって」
半ば無理やり変えた話題にもちゃんと乗ってくれて安心した。
興味本位で試しに買ってしまうから、確かに俺の家の洗面台には色んなワックスが置いてあるんだけど、俺は上鳴さん程こだわりがあるわけじゃない。とは言えどうやらしっかり見られていたらしいそれらに、なんかちょっと気恥ずかしくなる。
「でも俺、いっぱいあるけど使うの大体一個くらいだよ」
「えーマジ!?何でもったいねぇ!あれ、あの緑のパッケージの奴とか見た事ねーんだけど、今度使ってみてい?」
「あー……、うん、あれ店の子に貰ったんだ。いいよ、っていうか、他にも気になるのあったら全然使ってくれていいよ?」
うっそまじ!?神かよ!って楽しそうに笑うから、胸の辺りがじんわり暖かくなった。
俺の行動や言動で楽しんでくれるなら、それはとても本望だ。
そんな風に話しながらドラストに着いて、これは匂いがキツイとかこれは固すぎて髪がバシバシになるだとか、さらにワックス談義を続けながら物色する。
「んー、やっぱこれリピ買いすっかなぁ……」
「悩むなら俺の試してから買っても良いんじゃない?」
唸りながら手に持ったワックスは、きっと普段使っているであろうシンプルなパッケージの奴。
気に入ってずっと使ってる奴から変えるのって割りと勇気が要る事だし……と思って提案してみれば、なんか凄くキラキラした目でこっちを見られてぎょっとした。
「さっきもそれ言ってくれたけど、え、マジで?マジでいいの?」
「うんあの……さっきも言ったけどいいよ?」
俺はまったく冗談を言ったつもりは無かったのだけれども、どうやら社交辞令だとでも捉えていたみたいだ。キラキラがまぶしい……。
「やっり!じゃあ明日から試させて!色々試したくてもさー、一個買うと多いじゃん?それでハズレだった時まじで超へこむんだよなーあれ」
「あは、分かる分かる」
そう、嬉しそうに話しながら手に持ったワックスを棚に戻す上鳴さんに、俺もへらっと笑った。
それから無くなりそうだった歯磨き粉とか柔軟剤とかを手に持って、あと何か買い足す物あったかなーって考えてたら、後ろから上鳴さんがカゴを差し出してくれた。
「お客様ーこちらお使いくださーい」
「ふは、ありがとー」
そんな風に笑いあいながら、もう大丈夫だろうとそのままレジに向かった。
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