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結局、目的のワックスは買わずにドラストを出て、用事を思い出したらしい上鳴さんとは店の前で別れる事になった。

「ごめんなー、事務書類やってないの忘れてて、あれやってなかったら絶対怒られるから、こっそりやってくるわ」

いたずらっ子みたいな顔で、井崎さんには内緒な?って言う上鳴さんがおかしくて笑いながら内緒のポーズを返してみる。

「今日店に井崎さん来たら面白いのになー」
「ちょお!?やめてよそんなフラグ作んの!」
「あっはは」

フラグ回収しないように祈っとくよーなんて言いながら、駅前で手を振ってバイバイ。
一生の別れでも何でもないし、さっきの買い物がデートだった訳でもないのに、背中を見送ると途端に寂しくなってしまう。ぅあー、これから出勤とか憂鬱すぎる……。
駅前から裏に回って歩いて数分。あっという間に店に着いてしまって、思わず溜息が漏れた。

「おはようございまーす……」
「お?なんだよ浮かねぇ顔してんなーお前」
「修次さん……あれ、今日早くないですか?どしたんですか?」

店に入れば、送りの筈の修次さんが居て首を傾げた。オープンから居るの、珍しい気がする。

「いや、ちょっと車の事でな……、じゃなくて、俺ぁお前の事聞いてんだよ、元気無ぇの、なんかあったか?」
「え?別に、なんもないですよ?」
「なんもないって、お前がそういう顔してんの……」

珍しい、って言葉を続けようとしたのと、その修次さんの顔にバァン!とドアが当たったのはほぼ同時だった。
……え、えっ!?

「ちょっと零音くん居る!?あっ居た!ねぇ、ねぇ、上鳴くんとすっごい仲良くなってるじゃない、なんなのー?あんな笑顔な零音くん見た事ないわよー?」
「あ、え!?沙里さん!?」

勢いよくドアを開けた犯人は沙里さんだったらしく、入ってくるなり俺に弾丸トークを繰り広げてきた。挨拶をする間もなく、というか、修次さん、修次さんは大丈夫なんだろうか!?
そう思ってちらりと沙里さんの後ろを伺ってみれば、いかつい顔がさらにいかつくなっていてびくりとしてしまった。

「おい沙里」
「いだっ!?は!?ちょっと何すんのよ商売道具よ!?」
「うるせぇドアは静かに開けろバカ野郎、俺のナイスな顔にぶち当ててんだよ」
「どこがナイスよ顔面偏差値上げてから言ってくれない?」

沙里さんの背後から両手で肩にチョップを落として文句を言う修次さんに、負けじと言い返す沙里さん。
あー、この光景、久しぶりに見たな。
修次さんはオープン当初から居て、沙里さんも店に居る期間は俺よりも長い。とすれば仲良くなっていてもおかしくないのだけども、どうにも馬が合わないらしい。

「って、もーあんたに構ってる場合じゃないのよ。ねぇちょっと、あんなキラッキラな笑顔見た事ないんだけど、何があったの零音くん」

ノクチルカ名物だなぁなんて思いながら見てたら沙里さんの矛先がこっちに向いて、え、と声が漏れた。

「上鳴くんにあーんな笑顔向けちゃって、アタシにだって向けてくれた事ないじゃない、なんか嫉妬しちゃうわー」
「何言ってるんですか沙里さん、そんな事ないですよ」

なんかこの流れ、墓穴を掘ってしまいそうだ。
どうにか話題を逸らせないかなぁと考えながら、ぷりぷりする沙里さんを宥めようとしていたところで、修次さんが、あ、と呟いてドキッとした。何を言うつもりでしょうか……!

「お前ら、まだ一緒に住んでんのか?」

そう、修次さんの手で墓穴を掘られてしまった俺は、あー、終わった、と思った。
案の定沙里さんは修次さんの顔を見た後、ぐりんと勢いよく俺の顔を見て目を輝かせた。なんですかね、その顔……。

「え、待って?あんた達一緒に住んでんの?」
「なんか零音が拾ったらしいぞ」
「零音くんが!?えっちょ、イメージ逆なんだけど!?」

なにやら好き勝手に言われている……。まぁ俺犬だしね、拾われるとしたら俺でしょうよ……なんて、心の中で耳を垂らして尻尾を揺らしてみる。
もうそれ以上突っ込んでくれないでーって思いながら空笑いをする俺に気付く筈もなく、二人は会話を続ける。

「へぇ、ふーん、じゃあ零音くん今同棲中なんだぁ、へぇー」
「え、」
「……え?」

にやにやしながらそう言った沙里さんの言葉に、ぼぼぼ、と顔に熱が上がった。
ど、同棲……?ぇー、あー、そうなるの……か……?

「あらあら、あらら?」
「………お前、そんな分かりやすい奴だったか?」

ゲスイ笑いを一層深めた沙里さんとは対照的に、呆れた様に息をついた修次さん。

まって、うん、俺もそう思う。





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