18
酔い覚ましにもなるだろうしと、二人でのんびり歩いて帰る道すがら。なんだか分からないけどいやに上機嫌な上鳴さんを横目に、気を引き締めないといけないなーと改めて考えていた。
「今日迎えに来てくれてありがとなー」
「ううん、たまたま仕事が早く終わったから、気にしないでいいよ」
掴まれてた手は店を出たところでぱっと離されてしまったので、今はぷらぷらと揺れるだけ。良かったのか残念なのか、どっちともつかない気持ちを持て余していたりする。
そんな気持ちを紛らわす様に、違う話題を探そうと頑張ってみるけど、どうでもいい事とか、今話す事じゃなくない?みたいな事しか思いつかなくて口を開閉するだけになってしまう。
「零音くんって、やっぱ優しいよな」
「……え?別に、そんな事ないと思うけどなぁ」
「そんな事あるよ」
色々考えを巡らせていただけに、ちょっと反応が遅れてしまった。けど、特に気にする素振りもなく返事をくれた。
別に俺は優しくない。……ただ、上鳴さんが好きなだけだ。
「俺なんかをずっと家に置いてくれてるし、こうやって迎えに来てくれるし、俺はさー、そういう零音くんが好きだよ」
「……は?」
何も取り繕わずに、声が漏れた。
あの、それは一体どういう意味で……。
「…だからさ、これからもよろしくー」
へらっと笑って、上鳴さんはそう言った。
──あぁ、なるほどな、と納得してしまった。
他意は無いんだろう。ましてや、そこに恋愛的な意味は無く、人としての好意……だと、思う。
なんかちょっとそういう風に期待してしまった自分が居て、それが凄く嫌になる。
ぎゅうっと、胸の変なところが痛んだ気がした。
「はは、俺も、上鳴さんのことすきだよ」
だから、これからもよろしく。そう、胸の痛みには気付かないフリをして、笑顔で答えた。
……おれ、今上手く笑えてるのかな?何で一瞬、期待してしまったんだろ。
「上鳴さん」
「んー?」
「おれ、ちょっとコンビニ寄ってから帰るからさ、先に帰っててくれる?家までもう少しだし、大丈夫だよね?」
これ以上、上鳴さんの隣を笑顔で歩ける気がしなかったから、逃げる道を選んだ。
ちょっと頭を冷やすだけ、そしたら、いつも通りに戻れるから。だから。
「おー、割と酔いも醒めてきたし、すぐそこだしなぁ、全然おっけー。っつか、コンビニ行くだけなら待ってるけど?」
「いや、いいよ。先帰ってお風呂入っててよ」
今は、その優しさが痛いんだよね、とは、言える訳もなく。
そう?じゃあ先に行ってるわ、と手を振って歩き出す彼の背中を見ながら苦笑いを溢した。
期待しちゃいけないって分かってた筈じゃん。何で期待しちゃうの、俺ってやつは。
コンビニの自動ドアを通って、やる気無さげな店員の声を聞きながら溜息を吐いた。
「…………伝わんない、なぁ」
入店の時の軽快な音と、店員の声に掻き消されて、小さく呟いた上鳴さんの声は、俺に届く事は無かった。
もやもやした気持ちを持て余したまま、のろのろと店内を歩く。
でもさぁ待ってよ、俺の事好きって言ってくれたんだよ?これからもよろしくって、それって最高の言葉じゃない?何を落ち込む必要があるんだよ。
悶々と考えながら、引っ掴んだカゴにチューハイの缶をガサガサ詰め込み、つまみになりそうなのを2、3個入れてレジに向かった。
そもそも俺が勝手に好きなだけ。同じ様に好きになってもらえるだなんて、そんな奇跡無いでしょって、この間本人と話してたところだっていうのに、自分が弱すぎて嫌になる。
「あーっしたー」
だらけた店員にお金を払ってレジ袋を受け取る。もうこれは帰って飲むしかない。上鳴さんは、申し訳ないけど先に寝て欲しいと思う。っていうか寝てください気まずいから。
「……っぁー、しっかりしろおれー……」
眼鏡を取って、顔を洗う様にぐいぐいしながら夜道を歩く俺は、多分変な人だろうな。
でも今日は一旦この嫌な気持ちを忘れるしかない。大きく深呼吸をひとつしてから眼鏡をかけ直し、ふと反対側の歩道を見ると、見覚えのある金髪が。
「ぁ、」
苦笑いする上鳴さんと、そんな彼にしなだれかかり腕を組んでいる煌びやかな女性が居た。人もそれなりに通る往来でぎゅうぎゅう引っ付いて、端から見ればバカップルだ。
あれは誰なんだろう、と素直に思う。正直今の心境では見るに堪えない光景に、まさかな、いやでも、なんてグルグルと思考が回る。
その女性はにこやかにタクシーを止めて、そのまま上鳴さんを引っ張って乗せてどこかへ行ってしまった。
──乗り込む前に、頬にキスをしてから。
「は、はは……、何これ、きっつ……」
まさかとかでもとかそんなのぶっ飛ばす様な光景に、思わずその場にずるずるしゃがみこんで、俺は暫く、その場から動く事が出来なかった。
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