19

部屋の電気も付けずに、ガサリと、持っていた袋を床に置いてベッド脇で膝を抱えた。

正直、あの後自分の家までどうやって帰ってきたのか覚えてない。外でしゃがみこんでから何を考えてたのかとか、そういうのも、記憶が曖昧で思い出せない。
でも今ハッキリ分かるのは、上鳴さんが女の人と何処かに行ってから、うちには帰ってきてないという事……。

「……、ぅー……」

情けなくも涙目になりながら呻いて、抱えた足を力いっぱい握る。痛いけど、同じくらい胸も痛かった。
どこいったんだよー上鳴さん……。なんて心の中で呟いてみたところで、返ってくる言葉もある訳がなく。

ガラ、と袋の中で缶が倒れた音がした。
飲んで気を紛らわしてやろうなんて思ってたのに、それどころじゃなくなってしまった。今、自分の中に溢れてる色んな感情をどうしたら良いのかも分からず、途方に暮れるだけで。
──逆に飲んだら、忘れられるかもしれない……。
ふと過ぎったそんな感情も、気力が湧かず、ただ袋を眺めるだけになる。

たぶん今は混乱してるだけだ……。落ち着いたら、元に戻るはず。でも元にってなんだろう。戻ったところで、俺が上鳴さんを好きな気持ちはきっと消えてはくれない。
そんな風に考えていたら、ピロン、とポケットに入れたスマホが通知を告げた。
のろのろとスマホを見てみれば沙里さんからで、「超嫌な客当てられた!零音くん居ないと最悪!今日めっちゃ飲むから!」ってメッセージが来てて、思わずふっと笑ってしまった。
そうだなぁ、俺も嫌なの見ちゃったから、やっぱ飲もうかな。
俺も最悪だから、今から飲みますって返事を打って、買ってきたチューハイを開けて飲み始める。つまみはポテチに決定。

「かんぱい」

吐き出したその言葉が思った以上に弱弱しくて、自嘲気味に笑った。







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最初はうだうだうじうじ考えてたけど、考えはループするし考えたところで何にもならないから、4本目に突入した辺りで考えるのをやめた。
そもそも、あんまり強くもないのにこんな早いピッチで飲んでるから、思考は散らばるばっかりだ。
食べてたポテチもすぐに無くなって、今は家に置いてあった韓国のりをパリパリ食べてる。

大体、上鳴さん恋人居ないって言ってたんだから、必要以上に落ち込む必要なんてない筈なんだよ。ただ、俺に希望が無いなって現実を改めて突き付けられた気がして沈んでただけ……。

涙は暫く前に止まったけど、すんと鼻をすする。
テーブルの上に散乱してるのりの粉をゴミ箱に追いやってたらガチャガチャ、と鍵が回る音がした。

「ただいまー、ごめん遅くなっちゃって……って、零音くん……?」
「……」

困惑した顔の上鳴さんをちらりと見てから、ぐいぐいと自分の顔を拭う。なんだよ、けろっと帰ってきちゃってさ、先帰っててって言ったのに連絡もしないで。もう夜中も夜中だって、分かってるんだろうか。

「どした……?え、なんかあった?」
「……さん、が」
「え?」
「上鳴さんが、帰っててって言ったのに居ないし、」

ずいぶん喋ってなかった所為か上手く声が出なかった。
掠れた声で聞き取りにくいだろうに、おろおろしながらも俺の話を聞いてくれる。

「変な女の人に、連れてかれてるし……」
「え゛っ……、み、みてたの……?」
「そうだよ……」

まじかよ……って項垂れてるけど、ねぇそれどういうリアクション。まずいとこ見られたな、みたいな反応されると、それがどういう事か何も分からない癖に心がざわつく。
そんな俺の機微なんてお構いなしに、いや、さ、と言葉が続く。

「あのー、井崎さんが贔屓にしてるキャバの子で、たまーに行ってて、めっちゃ気強いんだけどさぁタゲられてんだよあの子に……そんで、さっきも店に連行されちゃって……」
「キャバ嬢……」

そう!ってうんうん頷く上鳴さんを見ながら、あー同業だったのか、とストンと腑に落ちた。キラキラしてたしな、あの女の人……。
訳分かんない絡みされるし、俺あの店あんま好きくないからさっさと逃げようとしたんだけど、全然ダメでさ、なんて話す声が少し遠くに聞こえる。





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