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なんだ、そうか。満更でもなさそうな感じがしたから、俺はてっきり。
「でも、そんな嫌そうに見えなかったけどな」
「うぇ!そう!?いやーヤだったって!俺飲むなら零音くんみたいな子が良いし、ってか、零音くんが女の子ならなー、みたいな?ドストライクまっしぐらって感じなんだけどー」
「は……?」
──俺が女の子だったら、って。なに。そんなの、俺が一番思ってる事だよ。
その言葉を聞いて、カッと頭に血が上った気がした。あぁだめだ、と頭の片隅で思う。横に座って喋ってた上鳴さんの肩を掴んで、ぐっと押し倒した。
「う、わっ」
「女の子が、好きだもんね上鳴さん。俺が女の子だったら、好みだった?こんな風に押し倒してた?」
そのまま馬乗りになって言う俺に、帰ってきた時以上に困惑した表情を見せる上鳴さんは、何も言わない。
何でこんな事してんだとか、何でそんな言い方しか出来ないんだとか、脳裏でぐるぐる回るけど止まらなくて。
「個性で性別も変えれたら良いのにな、そしたらこんな苦しまなくて済むのに」
ふっと笑って頬を撫でると、ビクリと震えた。酔った頭では正常な思考が出来ないのか、勢いのままに言葉を紡いでいく。
「ねぇ、俺を女の子にしてよ、慣れてるから、負担少ないし」
「ちょ、」
上鳴さんのベルトを外そうと手を伸ばす。最近してないから痛いかもしれないけど、上鳴さんと出来るならそんなのは構わない。
警鐘を鳴らすみたいに頭が痛みだしたけど、気付かないフリをしてズボンをおろした。
上鳴さんらしい、明るい色のボクサーに手を這わすと、息を詰めたのが分かった。
「ね、俺はすきだよ、」
すきだよ、上鳴さん。
それが音になっていたか分からない。きっと通じ合う事なんて無いだろう気持ちを、無意識に吐いた。
興奮してる自分と、冷えた自分が混在していて、ひどくふわふわした気分だった。
「待っ、零音くん……!!」
「ッ……!」
体を起こした上鳴さんに強く押されて、どす、と尻餅をついてハッとした。そのまま俺の下から抜け出す彼を見て、ようやく、自分が何をしたのかを自覚して。
「なぁ零音くん、俺は、」
「ぁ……ごめ、ごめん!!!」
何かを言おうとしている彼を遮って立ち上がり、謝罪もそこそこに財布とスマホを引っ掴んでそのまま家を飛び出した。
横目に、上鳴さんが手を伸ばしたような気がしたけど、それには気付かないフリをした。
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「布団とか無いけど、うちのソファなら十分寝れるでしょ、毛布はあるからそれで良い?」
「はい……すみません……」
「ほんっとにバカね、あんたって子は」
そう言った沙里さんは、本当に大きな大きな溜息を吐いた。
家を飛び出した後、走って走って、気が付いたらノクチルカの前に居た。たぶん無意識に、通い慣れた道を通ってきてしまったんだろうと思う。
店だってとっくに閉店している時間だったし、こんな時間に連絡出来るような友達も居ないし、どうしようかと思ってた時、零音くん?って声を掛けてくれたのは沙里さんだった。
振り向いた俺を見た沙里さんはぎょっとした顔をして、それから問答無用で彼女の家まで連行されたという経緯。
「でも沙里さん居てくれて良かったです……おれ、あのまま路頭に迷うかと思いました……」
彼女の家までの道中でざっくりと何があったのかを説明したけれど、話すにつれて、途中からどんどん顔が険しくなっていくのを見てるのはめちゃくちゃ怖かった。
襲って拒否られて逃げました、って締め括った時には、盛大に溜息を吐かれた上に頭を叩かれて、それが痛かった訳じゃないけど、ちょっとだけ泣いた。
「ほんとよ、あんたあのままだったら、変なおっさんに誘われてもそのままついていきそうな雰囲気だったわよ。どんなに時間が遅くても、絶対連絡しなさい」
まったくもう、って怒りながら、ふわふわの毛布でぎゅうぎゅう包まれてまた泣きそうになってしまった。
「ごめ、なさい」
「別にアタシに謝らなくていいわよ、此処にはいつまで居ても良いからとりあえずあんたお風呂入ってきなさい」
オーバーサイズで買ったらしい部屋着と、何故かあった新品のパンツとタオルを持たされて、俺は風呂場に押し込まれたのだった。
眼鏡を外して、のろのろと服を脱ぐ。明日出勤じゃなくて良かったな……、沙里さんも、確か休みだった筈……。
案外広くて、綺麗にしてる浴室。中に入って熱いシャワーを頭から浴びていたら、お湯じゃないもので視界が滲んだ。
──おれ、なんであんなことしたんだろ……。
長い前髪をぐしゃりとしながら、ついさっきまでの行動をただ悔やむしかなかった。
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