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上鳴Side



『ね、俺はすきだよ、』


苦しむ様に、苦いものを吐き出す様に絞り出されたその声が耳から離れない。
思わず突き飛ばしてしまって、それからすぐに後悔した。何故なら、零音くんは凄く傷付いた顔をして、俺に謝って、そのまま家を出て行ってしまったから。

あの時、何であんな態度を取ってしまったのか。もっと他に掛けるべき言葉があったんじゃないか。そもそも最初に俺があんな事言わなけりゃ、こんな事態にはなっていないんじゃないのか。
そう、冷静になってからすぐにメッセを送ったけど、それは未だに未読のままだ。
次の日は何度か電話もかけてみたけど、それも出てはくれないし、その夜も、零音くんが家に帰ってくる事はなかった。

「俺まじでどーしよ……、電話にも全然出てくれねーし……」
「そりゃあお前、拒否られた相手からの連絡なんか見たくもねーだろ」

カラン、とグラスの中の氷を揺らして、瀬呂はからかう様にそう言った。
薄暗い店内で、隣に座っているその肩を小突いたら更に笑う。悪い、なんて謝る気もないだろうに。

「まーでも、お前は気に入ってんだろうなとは思ってたけど、あっちもとはね。今まで問題起きなかったのが不思議なくらいだし、なるべくしてなったんじゃねぇの?」

ま、お前の対応は最悪だけどな!って刺してくる瀬呂にぐうの音も出ない。まじで、ほんとうに、それは反省してるんだってば……!
だけどそんな事は零音くんからしたら知ったこっちゃない訳で、どうにかして謝りたいし仲直りしたいと思うのに一向に連絡がつかない。

「男相手っつのは驚いたけどさー、今時そんな珍しくもないからそれは別にいいわ」
「瀬呂さんが寛大な男で助かりますわー……」

へへって笑えば怪訝な顔をされてしまった。すんませんねテキトーで。

「まぁー何で?とは思うけど、お前ノーマルタイプじゃなかったか?」
「モンスターみたいに言わんでくんね?……んー俺もわっかんねんだけど、思えば最初から?目で追ってた?みたいな」
「ほーん、で、自覚は?」
「元カレもどきが襲来した時」

はぁ?っていう顔を隠さない瀬呂に、思わず笑いそうになった。
まぁ、そういう反応するよな、普通。俺だってそんな感じの反応すると思うもん。

「え、零音くん元々そっち?」
「たぶん。いや、本人に確認した訳じゃねーから分からんけどそうじゃねぇかな、と、思う……」

はぁーまじかなるほどね、って謎に納得された。いや物分かり良すぎじゃね?って思うけど、説明せずに済むならそれはそれで良いや。
気持ち悪い笑顔貼り付けたあの男の事を思い出すと、今でも腹立つし一発ぶん殴っときゃ良かったとも思う。
眉間に皺寄せてギリギリしてたら、何があったんだって突っ込まれた。それに返そうと口を開けば、言葉はするすると漏れていった。

「零音くんがいかに可愛いかを熱弁されて、お前じゃ釣り合わないとか俺が一番あの子の事分かってるとか気色わりー事散々言うから腹立って、うるせぇもう俺のだから手出してくんなって言って追い返した」
「うっは!なんだそいつやべーなって思ったけどお前もう完落ちじゃねーの!」

多少堪えながら笑う瀬呂を黙らせるのは諦めて、盛大に溜息を吐いた。……だよな、やっぱ。
男を追い返して、扉を閉めた後にうわ俺何言ってんだろって思ったよ。めちゃくちゃテンパって戻るの遅れたし、戻ったら戻ったで零音くんやたら可愛く見えて駄目だったしあー俺もうどうしたらいいんだよってなったっつの。思わず家間違えたらしいよとか意味わかんねー事言っちゃったし。

「ってかもーさぁ、そんなに好きなら店にでも乗り込めば?」
「ド直球言われると否定したくなるなしねーけど……。いやでも、職場に乗り込むのってどうなの?って感じしねぇ?」
「それ言いだしたらもうお前どうしようもねーよ」
「言葉や行動で示さないと、相手には伝わらないもんですよ」
「……おにーさんまで言う?」

カウンター向こうのバーテンのお兄さんも加勢してきて、瀬呂と二人で頷き合ってる。おい仲良しかよ。

今までビビって行動しなかった俺が悪い。
それは分かってるし、零音くんにあそこまでさせてしまった事も申し訳ないと思う。っていうかそんな素振り見せなかったくせになんて思うけどそれはお互い様だから何も言えない。

「……おれ、店に会いに行ってくる」
「お、ついに決心したか、えらいえらい」
「うっせー」

頑張れよってバシッと肩を叩かれて、ちょっと気合が入った。学生の頃から、こいつはサッパリしてて付き合いやすい奴だよ、ほんと。
あーだこーだうじうじ悩む自分なんて昔からしょっちゅうで、でも、それでも気になるなら行動するしかない。
有耶無耶なままにしてるのは良くないから、色々ハッキリさせないと。

「ありがとな、瀬呂」
「いーってことよ、あーでも、上手くいったら飯奢ってくれ」

それに軽く笑ってから、瀬呂を置いてバーを出た。
─そういや、あの男の事ちょっと調べといた方が良いかもしれないな。
そんな事を考えながらその足で向かうのは、零音くんの店だ。






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