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上鳴Side
「あ?零音なら今日休みだぞ」
「え、あー……まじすか……」
店に普通に入るか裏から回るかで悩んでウロウロしてたら、ちょっといかついお兄さんに声を掛けられて、零音くんの事を聞いたらこの有様だった。
休みの可能性を全然考えてなかったのがちょっと恥ずかしいんだけども、目の前のお兄さんは、つか、お前よ、と言葉を続ける。
「零音と一緒に住んでんじゃねぇのか?熱出してぶっ倒れてるって聞いたんだが、まさか知らねえのか」
「……は?」
─熱出して、倒れてる?
俺の反応を見て知らないと判断したのか何なのか、溜息を吐いて何かを呟いたお兄さんを見ながら、じゃあ今何処に居るんだ?と思う。まさか家に戻ってる訳でもないだろうし、さっきの口ぶり的に、このお兄さんの所では無さそうだし。
っていうか何でこの人俺が一緒に住んでるって事知ってるんだろうと思ってたら、お前の事は零音からさんざ聞いてんだよ、って言われて納得した。たぶん、仲良いんだろうなと思ってちょっとモヤついたけど今はそれは置いといて。
「はぁ、ちょっと待ってな」
「あ、え?はい……?」
めんどくさいっていう態度を隠しもしないで、お兄さんはそう言い置いて店の中に入って行った。
えー……?まぁ、待ちますけども。
暫く手持無沙汰に待っていたら、中からさっきのお兄さんとキャバ嬢さんが一緒に出てきた。あ、この人。
「上鳴くん、いらっしゃーい!」
井崎さんが好きな子だ。と思いながら、ひらひら手を振って満面の笑みで挨拶をしてくれる、えーっと、沙里ちゃん。
ちょっと戸惑いながらもぎこちなく会釈を返すと、その瞬間ぱっと笑顔が消えてぎょっとした。
「あんたどういうつもりなの?」
「は……」
「おい沙里、冷静に話せっつったろがよ」
驚いてる間に後ろのお兄さんが何やら止めてくれてるものの、だってあんた冷静に話せって方が無理でしょ!なんてやいやい言ってる。えーと、これは一体。
「零音くんの事、これ以上傷つけたくないと思うならもう近付かないでちょうだい」
友達だと思うなら、尚更ね。
まっすぐな目で、俺を見てそう言う沙里ちゃんに、あぁたぶんこの人は何があったか知ってるんだなって悟った。だから、零音くんを守ろうとしてる。
その威勢の良い姿を見て、何でか俺が嬉しくなってしまった。
「……なに笑ってんのよ」
「いや、すんません。零音くん愛されてんなーって、嬉しくなっちゃって、……大丈夫っす、俺もう友達のままで居たいなんて思ってないんで」
ヒーローとは言え、絶対守るなんて大それた事は言えないけど。傷つけないなんて保障も出来ないし、それでも。
俺の顔を見てきょとんとする沙里ちゃんはでも、すぐに吹き出した。
「っふ、あはは、なんだ!その顔じゃあ大丈夫そうね!もー零音くん死にそうになってるからアタシてっきり!」
「おい、おいおい、誰か俺にも分かるように説明してくれや」
「修次は別に知らなくてもいいわよ」
ぺしんと軽く叩かれながら言われて、お兄さんは不満そうだ。俺が説明しようかと思ったけど、良いのよ後で言っとくから、って事だったので放っておく事にした。ごめんお兄さん女の子には逆らえない。
「それであの……、零音くんと会って話したいんすけど」
おずおずと切り出した俺に対して、やっぱり沙里ちゃんは渋い顔をする。一応悩む素振りはしてくれたものの。
「今あの子ほんとに熱で起きれてないからねぇ……、明日なら話せるようにはなってるかもしれないけど」
「まぁ……そっすよね、お見舞いとか行きたいとこだけど負担掛けたくないし、ちゃんと回復してからにしますわ」
「そうしてくれると嬉しい。零音くん、暫くはアタシの家に居ると思うから、元気になったら連絡するわね?」
「はい、よろしくお願いしまっす」
にっこり笑顔で頷いて、沙里ちゃんは連絡先を教えてくれた。
大丈夫、今は焦って動くと余計に駄目になると思う。零音くんの為にも、沙里ちゃんの連絡を待っていようと決めた。
それじゃあ、と沙里ちゃんは仕事に戻って行った。ちなみにお兄さんは少し残ってくれて、修次さんって名前で、女の子達の送迎の仕事をしてるのだとか色々話をしてくれた。
「お前が変な男だったら俺が一発殴ってるとこだったが、まぁ普通そうだな」
「えーいやいや、物騒っすねーやめてくださいよ」
なんとなくだけど、これから仲良くなれるんじゃないかなって気がする。なんとなくだけど。
帰ったら、あのムカつく男の事も調べとこう。何も無いと思うけど、用心するに越した事は無いし、情報って奴は持っていて損な事はないから。
そう決意して遅くまで調べていた。
─その日の深夜、沙里ちゃんからの連絡で飛び起きた俺は、慌てて家を飛び出したのだった。
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