6

それから、慌しく駆け回る上鳴さんは捕まえた敵を警察に引き渡したり、周辺住民の救助やアフターケアなどなど、色んな事後処理に追われていた。
忙しいだろうに、彼は俺の肩に着ていたジャケットを掛けて、大丈夫、と笑顔で言ってくれた。
その瞬間胸がぎゅっと締め付けられて、あーすきだ、って思ってしまって、我ながら単純だなぁと思う。でもきっと、たぶん、恋のキッカケなんてそんなものだ。

「ごめん零音くんッ……怪我とか無かった?」
「あ、上鳴さん……もう大丈夫なの?」

パタパタと俺が居る簡易テントに走ってきてくれた上鳴さんは、どこか疲れた様な顔をしている。そんな中で、わざわざ俺を気にかけてくれた事はめちゃくちゃ嬉しいけど、無理はして欲しくないなぁ。

「うん、大体は落ち着いたから、後は警察の仕事かな。街の被害はデカイけど、怪我人が少ないのはラッキーだ」

溢す苦笑いに胸が痛む。ヒーローっていう仕事は輝いた表舞台だけじゃなくて、やりきれない時もあるんだ。
そこに上鳴さんが立っているのだという事に苦しくなって、無意識に彼の手をぎゅっと握ってしまってハッとした。

「零音くん……?」
「ッあ、えっと……ごめん、いや、…助けてくれて、ありがとう」
「ん?どういたしまして」

出会って間もないこんな男に手握られて、嬉しい筈もないのに、上鳴さんはそう言って強く握り返してくれる。優しい人だ。
でもきっと、それは他の人でも同じ事をするんだろうなと思って、ちょっと落ち込む。身勝手も良いところなんだけれど。
いい加減長居し過ぎだし、帰らないと。パッと握っていた手を離して立ち上がって、にこりと笑う。

「上鳴さん、ほんとにありがとう。俺、帰るね」
「もう帰るん?もうちょいゆっくりしてっても良いんだぞ」
「いや、甘えてばっかりも悪いし、上鳴さんも疲れてるでしょ」

正直まだ此処に居たい気持ちはあるから引きとめないで欲しい、とかワガママかな。
きょとんとした上鳴さんは、家の方が落ち着くとかあるかもしれないしなーって笑って気を使ってくれた。

「ジャケット、洗ってから返すね。汚れちゃったし」
「え!いやいいよいいよ、そこまでしなくて大丈夫!」
「借りもんだし、俺がそうしたいからさ」

へらりと笑って言えば、零音くんがそう言うならって頷いてくれた。良かった。上鳴さんとの繋がりをまだ切りたくない、そんな俺の打算はバレませんように。

じゃあまた連絡するね、って手を振って今度こそ家路につく。
一人になった途端、ドッと疲れを感じて大きな溜息を吐いた。思ってたよりも身体が疲れてるのを実感する。
帰ったらこのまま寝てしまいたい衝動に駆られるけど、色々汚れてるだろうしまずシャワー浴びないと……そんで上鳴さんのジャケット洗って……。
疲れてはいるし、夜になれば仕事が待ってるのに、握り締めたジャケットの持ち主の事を思うと浮かれ気分になってしまう自分が居て、単純だなぁと改めて思った。






∞----------------------∞






「ねぇ零音くん、ストッキングあるー?」
「あ、はい、ありますよ。ちょっと待って下さいね」
「もうやだー電線しちゃってー」

ぷりぷりしながら大胆にストッキングを脱ぐ沙里さんに苦笑いする。俺まだ同じ控え室に居るんだけどねー。
どうもこの人は俺を男だと思ってない様な節がある。なんか気を許してくれてる感じがして嫌じゃないけど、ちょっと複雑。

「はい、どうぞ」
「ありがとー。……ねぇ零音くん、今日井崎さん来るって言ってたのに全然連絡無いんだけど、どう思う?」
「え、そうなんですか?」

井崎さん、って名前にちょっとドキッとした。
井崎さんが来るからと言って、一緒に上鳴さんが来るとは限らないのに。
あの人連絡マメなのにおっかしいなー、なんて言いながら渡したストッキングを穿き始めたから背中を向ける。流石にパンツ見たら殺される。

「…あ、今日敵が発生してたんで、その処理に追われてるのかもしれませんよ」
「え?そうなの?何で知ってるの?」

あ、もう良いわよって許可が出たので振り返って、今日上鳴さんに助けて貰った事を伝える。話していくうちに、どんどん沙里さんの顔がにやにやしていくから首を傾げる。

「あんた達いつの間にそんな仲良くなったのー?今日上鳴くんも連れてきて貰える様に頼んであげよっか?」
「はっ!?いや、いいですよ何でですか……、あでも、売上になるなら頼んでください」
「現金!」

アハハ!って笑い転げてるけど、まったくもう、この人はどこまで聡いんだろう……。





前へ次へ