Sweetie pie

※轟×年上美容師男主
※可愛い名前だと可愛いです(?)





軽やかに、だけど会話を邪魔しない程度に調整されたハウスミュージック。店内を流れているそれに何となくリズムを合わせて身体を揺らしながら、今日も中々忙しかったなぁと、ワックスの在庫を数えつつぼんやりと思う。
まだ最後のお客さんが残ってるけどもまぁそれは俺の担当じゃないから、もう閉店みたいなもんだ。

「ありがとござっしたー気をつけてねー」

気の抜けたお見送りをする同僚は、これまたゆるーく手を振ってへらっと笑っていた。今は店長居ないから良いけど、見られたら怒られそうだなぁあれ。
店の外に出てしまったからその後何を話してるのかは分からない。別に盗み聞きするつもりもないし、そもそも今は無くなりそうなワックスを注文しとかなきゃならないしとそっちに集中する事にした。

「名前ちゃーん」
「んぁ?」

バインダーに挟んだ注文用紙を取って、今まさに書き始めようとした時に横から名前を呼ばれた。なんだろと顔を上げたら、眠そうな顔をした別の同僚が店の入口付近を指差している。

「ほらーお出迎えしなくて良いのん?」
「お出迎え?なんでー今日のお客さんもう終わりでしょ??……ん、ぁーなるほ……」

ついさっきラストのお客さんを送り出してたのに変な事を言うなと思いながらも指差す方へ目を向けたら、納得。
さっき外に出てた同僚と話す、見覚えのある赤と白のヘアカラー。へらへら笑う同僚とは対照的に表情を変えないその男の子は、最近よく来てくれる高校生だった。

「しょーとくーん、今日もう閉店なんだけどー?」
「…………」

ぱたぱたと駆け寄り俺がそう声を掛けると振り返ってくれた、けど、じっと見つめたまま何も言わない。あれー、えーっと……?
首を傾げていると、さっきまで話してただろう同僚がぽん、としょーとくんの肩を叩いた。なんかニヤニヤしてる、何。

「……名前ちゃん」
「ふぁっ!?」

あまりに突然の事にずさーっと飛び退いてしまったのはしょうがない、と思う……!
えっ何!どういう心境の変化なんだろう!?だって今まで!

「名前さんじゃないの!?なんで!?」
「ぶわっは!お前名前なんつー顔だよ!ははは真っ赤だけど!」
「あぁいや、松戸さんが」

混乱している俺にちゃんと説明しようとしてくれてるのか、しょーとくんは隣でゲラゲラ笑ってる同僚の松戸を指差してくれた。
そんなしょーとくんと、未だにヒーヒー言ってる松戸を交互に見て、なるほどコイツの仕業だったかぁと合点がいった。

「なんっだよ松戸どいうこと!?」
「ひーっ、ひひ」
「笑うな説明しろ!笑い方魔女かよ!」

まだ笑い続けてる松戸に流石の俺も焦れてくる。あーもう!ってなってる俺と笑う松戸と傍観するしょーとくん。たぶん凄い変な絵面だ。
説明する気が無さそうだからもう諦めようかと思ったその時、後ろから脇腹を突かれてびくっと跳ねてしまった。

「俺の真似したんじゃあないのー??ほらぁ俺の呼び方名前ちゃんだしい??」
「あ、そうすね」
「えーあーそういうー!?もう早く言ってよめっちゃびっくりしたしー!」
「ところで松戸早くしないとー店長帰ってくるよーカルテ出しっぱー」

そんな同僚の声に松戸は慌てて奥へ引っ込んでいった。まったく、しょーとくんを使って遊ぶのはやめてほしいもんだよ、いっそそのまま店長に怒られてしまえ。
むすーっとしながら松戸の背中を見送っていると、横から名前さん、と声がかかった。耳によく馴染む、少し低い声。

「もう終わりますか?一緒に帰らねぇかと思って」
「あ、うん、もう終わるけど……そーそれだよ。どっか出掛けてたの?こんな時間に外出てたら怒られるんじゃ……」
「まぁ、そうっすね」
「やっぱそうじゃん……!もぉー俺も一緒に先生に怒られたげるから、学校まで送るからね!」

雄英が寮制になってから、たぶん自由に外出出来る時間は減ってる。俺はただの美容師で、しょーとくんは将来有望なヒーローの卵で。
前途ある若者に何かあったら俺が世間に叩かれそうでこわいのである。

「いや、俺が名前さんの顔見たくなっただけだから」
「まったそんな事言って……!」
「俺が送るから、気にしなくていい」
「……ぅあー、うん、あい」

……なんてのはタテマエで。俺だってこの人との時間をもっといっぱい取りたいっていう本音があったり。
俺よりも高い位置にあるイケメてる顔が、ふっと笑う。するりと俺の頭を撫でて、少し伸びましたねなんて言いながら俺のくすんだ金髪をくるくる遊ばれる。
あぁ、心臓が破裂しそう。
何個も年下の高校生相手に、立派な成人男性が何言ってんだって感じだけど、事実なんだからどうしようもない。少し前の俺からしたら、こんな事になるなんて考えもしなかった事だろう。

「しょーとくん、」
「ん?」
「名前さん茹だってしにそうだよ……」
「いや、それは困るな」

好きだって言われて、何回も此処に通い詰められて、どんどん絆されていった俺はたぶんチョロ甘なんだろうな。そうは思えど、なんかもう今更なくらい熱が上がってる。

「ちょーっとそこのバカップル!イチャついてねーで片付けしろ!こら名前聞いてんのかー!たらしーちびー」
「うひっ!わーごめんてーつかバカップルってなに!あと後半まったく関係ない悪口だね!?」

ひょっこり、奥から顔を出した松戸に怒られて首を竦めた。自分が恋人居ないからって人をバカップル呼ばわりするのはどうかと思う。あとな、ちびは気にしてんだやめろってぎゃあぎゃあ反論したけど松戸は聞いちゃくれない。くそー。
さわさわと未だに俺の髪を弄ってる手をやんわりと握って、へらっと笑う。

「ごめんねしょーとくん、片付けてくるからそのへん座って待ってて」
「あぁ、慌ててコケんなよ」
「誰に言ってんのー?コケないよー」

そう言った尻から目の前にあった椅子に躓いてめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、振り向いたらしょーとくんは見てなかったみたいだからノーカンにしよう。

「あ、名前さん」
「んーなーに?」
「俺はちいせぇ名前さん、可愛いと思うぞ」
「は!?ばかなの!?」

驚いて手に持ってたカルテをバサバサと落としたらしょーとくんは笑うし、松戸には頭を叩かれるし、なんだか散々な目にあった。

このやろう……絶対たらしはこの人の方だと思うんだけどな!天然たらし!





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