Pumpkin pie

※轟×年上美容師男主




「てってってれれれてってってー」
「ねぇ、」
「てってっててれれれてー」
「聞けよ」

某テーマパークみたいに陽気なBGMを厳選して流している店内で、俺は着ている服をもふもふとしながら項垂れていた。
今流れているBGMを知っているのか、松戸は歌って俺の話を全然聞いてくれないし、もう一人の同僚はと言えば夢中でお菓子を頬張って噎せてるところだ。

「何で俺だけ女装なん!?」
「名前さん可愛いから」
「しょーとくんはすっげーカッコいいよね!」
「ん、ありがとう」

魔女っこ帽子を取りつつしょーとくんに八つ当たりしてみたけど、やっぱり華麗にスルーされてしまった。うん、分かってたよ。
ヒラヒラするスカートがうざったいなぁと思いながら、着てしまったんだからこれ以上とやかく言ってもしょうがないと思い直すも出てくる溜息は止められない。

「イケメンの吸血鬼とか眼福だなぁおい」
「ねー、ずるいわー」

眉間に皺を寄せて言う松戸に、どもっす、と返すイケメンことしょーとくん。ちなみに松戸は白衣を着て医者風だ。

10月31日。ちょうど定休日とハロウィンが被ったこの日、店に集まってハロウィンパーティーするぞって言いだしたのは騒ぐの大好きな松戸。そこにたまたま居合わせた店長が、じゃあ店でやりゃあ良いって言いだした事で逃げられなくなったのが3日前の事……。

「風宮は似合いすぎな」
「ふははー、にゃーん」

いつも眠そうにしている同僚こと風宮はチェシャ猫の着ぐるみを着ていて、松戸が言うように、確かにめちゃくちゃ似合ってる。猫っぽいもんなぁこいつ……。
そいで何故か俺が魔女っこ。これに関してはまじで意味分かんない。

「落ち込んでんのか?似合ってるけど」
「細くてちっこいし?サイズ感ぴったりでびっくりーって感じだけどー、魔女っこ似合うのはさ、嬉しくないよ?」

男としては……としょぼくれる。
テーブルの上にあるお菓子を取って開ける俺の頭を、そうか?って言いながらさわさわと撫でるしょーとくん。
さわさわ、さわさわ。なんかちょっと気持ちよくなってきた。

「むー」
「ふわふわだよな、名前さんの髪」
「気を付けてるからねぇー、でもしょーとくんも髪サラサラじゃん」

いつもと違ってキッチリヘアセットしてて、実のところまだ直視出来てなかったりする。
少しだけ振り返ってしょーとくんの髪を撫でるも、今はワックスで固められてるからサラサラ度が下がってた、ざんねん。
そう思った事が顔に出てたのか、ふっと笑われてどきっとした。

「残念そうな顔してんなよ」
「見透かさないでもらえますぅー?」
「はは」

見ない様にしてたのにイケメンを直視してしまった上に、楽しそうな笑顔に心臓が痛くなった。吸血鬼とか駄目だまじで、似合いすぎる。
可愛い、って思ってるのが分かりすぎるくらいの視線を浴びながら、顔に集まる熱をどうにも出来なくて目線を逸らすしかない。
逸らした先にニヤニヤした松戸が居たから全力で後悔したけど。

「美男美女がイチャイチャしてるーう」
「てめ、バカにしてんだろ……!」
「はっはっは!」
「ぐっ……もートイレ行ってくる!」

この場に居るのに耐えられなくなって足早にトイレに向かう……けど、別に本当に行きたかった訳じゃないから、途中でバックヤードに逃げ込んだ。
ひとまずこの顔の熱さえ抑えられたらそれで良いや……、ってとぼとぼと奥にある椅子に座る。

もー俺でろでろに溶けそう……。ふぇーって情けない声と一緒に長く息を吐いてたら、名前さん、と声が掛かってびっくりした。

「……わーしょーとくん、いらっしゃい」
「大丈夫か?」

どうやら心配して来てくれたらしい。座ってる俺の頭をするりと撫でて、両手で顔を包んで上を向かされた。

「顔、赤ぇけど熱でもあんのか」
「いや……ベタな事言うね……しょーとくんのせいだからね……」
「あ?……あぁ、なるほど」

薄く笑みを浮かべながら納得したらしい彼は、そのままゆっくりと顔を近付けてきて。

「んむ」

唇を合わせてふにふにと食む様に口付けるから、思わずぎゅっと目を瞑った。わーっと思って咄嗟に離れようとしたけど、顔に添えられた手がまったく離してくれなかったので、行き場を失った手はしょーとくんの服を掴む事にした。
湿らせる様に唇を舐めるのが気持ちい。だめ、って言おうとして開いた隙間から舌が入り込んできて、その音は言葉にならなかった。

「ん……はっ……」
「…ふ、名前さん」

掠れた声で名前を呼ぶ。薄目を開ければ、欲に濡れた瞳があって、ぞくりとした。
何度も、何度も、角度を変えて口付ける。息もしづらいし、頭がふわふわしてきて、ぁーしょーとくんのキス気持ちい……って事しか考えられなくなってくる。
ちゅ、と音を立てて離れたけど、今にもまた再開しそうな距離で見つめてくるしょーとくんに、息を上げながら小さく首を傾げてみる。

「なぁ魔女さん、俺にその血をくれねぇか……」

あ、ずるい、と思った。
そんな瞳して、スカートの裾から手差し込んできて、俺に拒否権なんて無いくせに。

「家、かえるまで……我慢して」

でも多分、俺も人の事とやかく言えない顔してるんだろうなぁと思いながら、そう言って悪戯する手を止める。
はあっと大きな溜息を吐いて離れていくしょーとくん……、もーそんな顔しないでよ。俺だってもっと引っ付いてたいんだから。
なんかちょっと申し訳なくて、手を伸ばそうとした時、ぐいっと勢いよく椅子から立たされてバランスを崩した。

「わっちょ!?」
「なら、今から帰るぞ」
「へぁ!?」

コケかけた俺を危なげなく支えて、イケメンフル活用の笑顔でそう言われて唖然。あれよあれよと、まじでそのまま俺の家まで連行が決まってしまった。
松戸も風宮も店長もそのままスルー……。
もはや誰も止めないこの状況って、喜ぶべきなのだろうか……!

「今から二人きりでハロウィン、な」

とびきり甘い笑顔を貰ってしまって、まぁ、こんな日も悪くないかななんて。





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