零さんと音信不通になった後、俺は荒れた。きっとあの変な雰囲気は別れを切り出そうとしていたのだろう。別れを告げられる理由が分からなかったし、残された謝罪の一言は何に対してなのか検討もつかない。…もしかして、他に好きな人が出来たのかな。けれど、その前に会った日だってたくさん好きだ、愛してると言ってくれたし、もう嫌だ、と言ってもしつこく愛された。仮に零さんに好きな人が出来たとしても、彼はそれをちゃんと告げてくれるはずだ。…考えたくもないけど。

めちゃくちゃになった室内を見渡して、それでも腹の底がぐつぐつと煮えたぎっている。何で、何で、何で。それしか思い浮かばない。またイライラしてきて、そばにあった携帯を掴んで振り上げたところで視界の端に映りこんだものに気をとられる。
それを見て、俺は握りしめた携帯からある連絡先を引っ張り出した。











「アンタ、あの話本当なの?」
「…うん。俺も信じられないけど」
「相手は、」
「母さんもよく知ってる人」
「…彼には伝えてあるの?」



母さんの問に返そうとして、喉が引きつる。何も言えずに泣き出した俺を、母さんは優しく抱きしめてくれた。落ち着くまで何も言わず、ただ背中を撫でてくれるのが心地良くて、何年ぶりかに大声をあげて泣いてしまった。



「…ごめん」
「謝らなくて良いわよ。不安だったでしょ」



不安。そう、不安。
男の俺がするはずのない妊娠をして、それだけでも大分動揺していたのに追い打ちをかけるかのような零さんの失踪。いや、捨てられたのかなこれ。まさか俺が妊娠するとは露にも思わないはずだから、それ以外の理由。…嫌になったんかな、好きな人が出来たのかな。ぐるぐるとネガティブな考えが頭を支配していく。すると母さんに両側から頬を叩かれた。



「シャンとしなさい。腹の子にストレスは大敵なの。零くんが居なくて不安なのは分かるけど、この子にはアンタしかいないのよ」



出来ることなら母さん何でも力になるから。



そう言って微笑む母さんにまた涙が出てくる。母親ってかっけえな。俺もこんなふうになれるかな。



その後、帰ってきた父さんにも報告した。上手く呑み込めていないらしい父さんをなんとか説得して産むことに頷いてもらって、それまで実家にいさせてもらうことになった。それなら、あの部屋ももう引き払わなきゃな。あ、零さんに渡してた合鍵どうしよう。…まあもう使うことはないだろうし、俺が退去したら鍵も変わるはずだから関係ないか。











「順調に育ってますね。体調に変化はありませんか?」
「今のところないです」
「それは良かった。…お?」
「?どうかしたんですか?」
「この週にしては大きい子だな、と思っていたのですが、どうやら双子のようです」
「ふたご」



ほら、こことここ。

エコーで映し出された胎内をじっと見つめて、医者が指で示す境目を探す。うっすらとだけれど、見えた。…そっか、そっかあ。双子だったのか。



「男性妊娠だけでも珍しいのに、双子だなんて聞いたことがないですよ。大変ですが、我々も全力を尽くしますので遠慮なく頼ってくださいね」
「…ありがと、ございます」



医者の優しい言葉と隣の看護師さんの微笑みにうっかり泣きそうになってしまった。