必殺技

 「仮免取得が当面の目標だ」
「夏の合宿で伸ばした個性を、ここに活かすってワケ!」

 バチコーンとミッドナイトがウインクした。
 ヒーローは免許と実技が必要な専門職だ。そのため在学中に仮免を取得し、卒業後即戦力となれるように経験を積む。まあ、卒業後の進路はほとんどがヒーローのサイドキックで、即戦力となれるのはほんのひと握りであるのだが、足でまといになるかならないかは大きな差だ。

「私はぶっちゃけ、家系的に必殺技とか割とあって」
「なるほどねぇ〜」
「今新技の手がかりを掴んだので、その発動ロスを減らして技として通用するくらいにしたいです」

 円がキラリと目を輝かせて言うと、ミッドナイトはにっこり笑う。

「それはあっちが専門」
「ああ」
「技名やポージングの時は、私に声をかけてね」
「分かりました。早速エクトプラズムせんせのところに行ってくるので、失礼します」

 円は足早にミッドナイトの元からエクトプラズムの元へ移動した。エクトプラズムは物理法則をねじ曲げでしまえるほど、複雑だが強力で歴史ある個性の新しい可能性に、当人と同じように楽しそうに相談に乗っている。
 そういえば、円の期末試験の試験監督はエクトプラズムだった。提出された個性届ではアバウトすぎて詳細が分からず、過去のデータを照合しても電気系統の個性としか分からなかった。円の協調性のなさを、個性を制限する常闇と組ませ、どう動くか。数の有利を殺せるエクトプラズムが最適だった。
 教師たちの思惑に反し、円はチームメイトを気遣うことが多い。大局を見据えて、どう駒を動かせばいいのか分かるほど、個性を使った戦いに慣れている。そして、エクトプラズムはいたく円を気に入っていた。本人にその気があるなら、オールマイト引退後のNO.1ヒーローにすらなれると絶賛した。
 ミッドナイトにはそこまでの資質や気力が見えず分からなかったが、ああしてエクトプラズムと話しているところを見ると、なんとなく納得する。ミッドナイト的には、あの全てを諦めて死んだような目をしていた子が、目を輝かせて自己研鑽している姿が青くてイイ。

「というわけで、発火までは行けました。でもこれをどう爆発まで持っていくか、そしてその道筋の最適解を出して公式化しないといけなくて」
「ホォ オモシロイ。手順を紙に書き出して見たり、手本を参考にすればいい」

 エクトプラズムはスっと指さす。その先には爆豪が汗を流しつつ、必殺技の練習に励んでいた。爆破の範囲を絞り、貫通性を強化したやり方に、円は舌を巻く。メソッドなしに必殺技を次々と開発する爆豪は、やはり天性のセンスがある。
 ひとまず工程を紙に書き出し、エクトプラズムとチェックしながらまとめるものはまとめ、削除するものは削除し、あえて短い文節をそのまま残したりした。
 エクトプラズムと別れ、それを実践に移す。感覚的に、なんとなくのズレがあり、発動速度は変わらない。他のみんなが二つ程度必殺技を考案し特訓している中、円はかなり出遅れていることに焦っていた。必殺技とだけならメソッド通りにやれば条件を満たせるが、それではズルをしているだけなので、個人の力は伸びない。追いつかなくては、と意気込む。

「数をこなすことも大事です」
「セメントスせんせ」
「駒木さんは個性柄か頭脳派なので、反省をしっかりしますよね。それはとても大事なことですが、時には数をこなして、感覚の面で得られることもありますよ」
「そうですね…。やってみます!」

 円が個性を使うと、手のひらを起点にばちばちと放電が起きる。それを見事に制御し、やがてその放電が火花へと変わり、小爆発による炎に変わる。まとめて、放つ。思っているより爆発が近く、そこまでのダメージでは無い。目眩し程度だろう。
 うーんと唸り、一連の動作を行った後、自身から連なる形で爆炎が上がった。多分、轟の個性に寄せて指向性を高めた結果だろう。実験としては成功しているが、それが円の求めていた結果かはわからない。
 前はこれでいいんでしょ、文句ないでしょ、と言わんばかりの態度だった。彼女の背景を思えばこそ、当然の反抗期だった。その彼女がこんなに真剣に自己研鑽に励むのが意外で、同時に教師としてもっと助けになりたいと思う。
 セメントスはササッと円周囲の地面を補修して、ニコリと先を続けるよう促した。

「だァー!難しい!」

 寮に戻ってシャワーを浴びたあと、談話室のソファからずりおちそうな体勢で、円は吠えた。駄々っ子のように両手足をブンブン振っている。
 今まで見なかった円の様子に戸惑いながら、八百万が側へ行ってお茶を入れてくれる。

「まあ、お悩みですの?」
「リンゼイの教本にない個性の使い方ができるのは最高に気分がいいんだけどね〜。こう、火とか爆発系の技にしたいのにイマイチ納得がいかない。美しくない」
「んなら轟と爆豪だべ!頭良いしなんか詳しそうだから緑谷も呼ぼうぜ」

 上鳴は早々に考えるのを放棄し、頭脳派を呼び付ける。円は再び個性の説明をし、行き詰まっていることを相談する。

「火花まで来てんだ。後はバッてやるだけだろ」
「そんなんただのブッパじゃん。ブッパは楽だけど、技として磨いたらもっと輝くし美しくない?」
「美しい…のか?」
「1+1を1(1+1)-1って表記するの、どっちが美しい?技にもそういう洗練された感じあるんだよ」
「舐めプ野郎は個性ブッパ癖ついてっから、その辺わかんねぇだろ」
「はぁー、この違いがわかんないのかねぇ。より美しい公式に整理されれば、ロスが減る分発動時間の短縮に、コスパも上がるって言うのに、勿体ない」

 轟は超絶感覚派らしい。感覚も大事だが、基本は論理派の円とは相容れない。戦力外通告だ。

「駒木さんって個性に指向性を持たせるの上手いけど、どうやって絞ってるの?」
「相手を円環に取り込めれば百発百中。そうじゃないなら、空気中の塵とかその他成分で道を作ってるかな」
「円環……」
「この個性使い勝手悪いんだよね。どこかしらに円環を見出して指定しないと、それこそドカーンだからさ」
「敢えて触れるので発動とか?」
「あぁー、確かに。私中遠距離型だから、近接も力入れた方がいいか」

 緑谷と話し込んでいると、その間少し考え込んでいた爆豪が口を開く。

「お前の強みが遠距離型なんだから、殺してどう済んだよ。それに、爆破で近接なら、俺の下位互換になるぞ」
「それ最悪。近接は却下で」
「なら爆破の対象を相手じゃなくて、なんか別のもんにすればいいんじゃないか?」
「本体攻撃しなくてどうすんのさ。足場崩したりは、お金的なコストが高い」

 轟が混ざってきたが、君は戦力外なんだ。見当違いなこと言ってないで、自分の必殺技について考えた方が建設的だと思う。と円は酷評する。

「いや、それありだぞ。円環なら定義したあと工程を途中でやめたり、再開したりは自由なんだろ」
「私が個性使ってる限りはね」
「それならトラップになるんじゃ……」
「はぁあん、それ採用。地雷超得意かもしれない」

 この後は爆破に一家言ある爆豪と円の独壇場だった。分からない組には八百万や緑谷が解説しているが、本当に理解してくれたかは定かでない。