仮免試験 開始

  TDLでの必殺技訓練がいいところまで来たが、ちょうど入れ替わりの時間に差し掛かってしまったようで、B組の面々が覗き込んでいる。

「ねえ知ってる!?仮免試験って半数が落ちるんだって!君たち全員落ちてよ!」

 B組の物間の言葉には、A組が落ちた分B組が全員受かると、副音声付きだ。

「しかし最もだ。同じ試験である以上、俺たちは蠱毒……潰し合う運命にある」
「蠱毒って。例えが魔術寄りでびっくり」
「だからA組とB組は別会場で申し込みしてあるぞ」
「ヒーロー資格試験は毎年6月と9月に、全国三ヶ所で一律に行われる。同校生徒の潰し合いを避けるため、どの学校でも時期や会場を分けて受験させるのがセオリーになってる」

 物間がホッ吐息を着いたあと、直接手を下せないのが残念だ!と高笑いする。

「病名のある精神状態なんじゃないかな」
「つけるとすれば演技性か自己愛性パーソナリティ障害ってとこ?」
「詳しいとこは俺もわかんね」

 物間を上鳴と嫌煙つつ、仮免試験の厳しさを何となく察する。



「フェェェ、毎日大変だぁ」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」
「あと一週間もないですわ」

 風呂上がりの女子たちで、なんとなく集まって 話す。普通の女子高生なら恋バナの一つや二つで花を咲かせるのだろうが、悲しいことにヒーロー科は課題が中心だ。
 先日随分相談に乗ってもらったので、今日は聞きやすに徹する。八百万はやりたいことをするだけの体がない為、当面は個性磨きを継続。梅雨ちゃんは蛙らしい新技が完成間近。
 お茶子に話振るが上の空で、芦戸がふざけて恋だ、と言うと面白いくらいに赤面する。否定しながら、パニックになってお茶子が浮く。

「飯田か緑谷?一緒いること多いよねぇ!」
「ゲロっちまいな?自白した方が罪は軽くなるんだよ」
「違うよ本当に!私そういうの本当に、分からんし…」

 そんなんじゃないのに…と否定するお茶子だが、これはみんなの言う通り緑谷に気があるのだと思う。そっちに気を取られていると、まさかの被弾だ。

「なら駒木だ!」
「私?」
「この前爆豪と内緒話してた!駒木って爆豪と接点多いよねぇ。あと切島」
「あれは神野でのこと、お礼と謝っただけなんだけどなぁ。今は必殺技のことで爆豪を参考にしてるし。切島はなんかよく話しかけてくるけど、別に特別な好意はお互いないでしょ」
「駒木はどう思ってんの!?」
「んー、内緒かな」

 悪戯っぽく笑うと、恋バナしたい勢からはとても顰蹙と探りを入れられた。蛙吹と八百万に咎められて、その場はお開きとなった。





 そして数日後、国立多古場競技場にバスが到着する。雄英の推薦入試を一位で通過して蹴ったという士傑の男子高生や、相澤と交流のあるミスジョークの率いる傑物の生徒たちとの交流など、色々あった。
 更衣室でヒーローコスチュームに着替えながら、円は刺すような不躾な視線を感じていた。大方、誘拐の時にマスコミが報じた、円がヴィランで公安にも目をつけられている札付きであることが関係しているのであろう。円の声明を発表してから数週間経ち、下火になってきているとはいえ、ヒーローを目指す彼らからしたら許せないのかもしれない。

「めっっっちゃ見られてない?」
「多分私のせいだから気にしないで。気にしたら負けだし」
「駒木肝座りすぎじゃない?」

 昔から悪意と好奇の視線に晒されてきたので、ハートは毛が生えるほど強い。さらりと流していると、耳郎にちょっと引かれた。ヒーローになるなら、それなりに視線を集めることになるので、今から覚悟したり慣れたりするのも必要だろう。

「さあ、みなさん行きましょう」
「プルスウルトラしてこ」
「円ちゃんがめっちゃやる気や…!」

 最初の試験は単純、ターゲットを各々体の三ヶ所に装着し、指定のボールで当てる。三人仕留めたら通過となる。工場やビル群、山岳や河川など、色々なフィールドが用意されており、得意の分野で活躍しろ、ということらしい。
 そして、ヒーローは警察庁の公安委員会により管理されている。そのため、仮免試験は公安委員会の人間が取り仕切っており、恐らく、円はかなり厳戒態勢で一挙手一投足を見張られている。
 やな感じ、と思っていると、スタートの合図が鳴った。開始と同時に大多数の学生が雄英を狙っている。傑物の青年に地面を割られて分断させられる。

「(なるほど、あの視線は私にじゃなくて、体育祭で個性の割れてる雄英生に向けられてたワケね)」

 早速、一人合格したとアナウンスされる。一人で百人以上仕留めたらしい。
 その放送を聴きながら、円はどうするか考える。円環はこの課題にかなり有利だ。センサーとしても使え、ボールをとめたり弾き返したり、何かと使える。そこまで考えて、物陰に身を隠す必要は無いことに気付く。

「居たぞ!雄英の駒木円だ!」

 瓦礫の中で仁王立ちする円を、すぐに見つけられゾロゾロと出てくる。セリフも作戦もド三流のそれだ。もし円なら、そんな無防備な奴は罠だと思うし、狙うなら不意打ち一択だ。
 無数のボールと個性攻撃が円目掛けて投げられる。円を中心とする半径一メートルはセンサーの範囲だ。センサーによって円は漏れなく全てを感知し、ボールの円環を反転させ反撃する。
 投げられた位置に戻るだけではターゲットに当てられないので、さらに追撃する。手に収束された電撃を鞭状に放電させ、範囲スタンガンのような効果を与える。

「新技お披露目!サンダー・ウィップ!」
「ぐぁ!?」
「痺れるくらい、後悔させてあげる。……って、コレはメディアないから言わなくていいのか」

 万代とミッドナイトに経営戦略として、決めポーズとセリフを叩き込まれたが、仮免試験は非公表なので、不要だった。円は我に返り、そそくさとターゲットにボールを当てて通過を決めた。

「なあ、俺三年で後がないんだよ。頼む、失格にしないでくれ」
「そんなこと私に関係ないですし、それって先輩が弱いのがいけないですよね?なんで弱いヒーローが世間に求められると思ってるんですか?」
「それは…!」
「残念ですけど、私そんなに甘くないんで」

 それに、弱い人は嫌いだった。そして、ヒーローは常に正しく強い存在だ。円の原点である爆豪は、あんなに自分を追い詰めて努力して、実力を勝ち取ってる。その努力を温室育ちが貶してるようで、ムカムカする。
 背後で泣く先輩に思うところがない訳では無い。憧れ罪ではないのだから。でも、それだけでは生き残れない業界なのだと、そろそろ知るべきだと思った。

「悪魔……!」

 先輩を支えている女子が、円を罵った。今まで散々罵られてきた。少し癪に触ったが、円はさらりと流して、控え室へ向かった。