※矢三郎と双子
その日の私は、京都の街並みを猫の姿で眺めていた。赤玉先生には毛玉が毛玉に化けて何になる、と呆れられるが、私はこの姿が好きなのだ。
家族も、偉大なる偽右衛門であった父と少しそういう歌劇団に影響された母と堅物と蛙と阿呆とまだまだ垢の抜けないかわいい毛玉なのだから仕方ないと言う他ない。
阿呆の言葉を借りるなら、阿呆の血のしからしむることなのだ。
「名前ー降りてこーい」
下から家族の中でも特に濃い血を分けた片割れが手を振っている。
片割れとはもちろん双子という意味だが、どちらが上かはわからない。彼は兄であり弟だし、私は姉であり妹なのだ。
私は兄であり弟である矢三郎の方角へ屋根を降りると同時に人の姿に化けた。
見慣れた阿呆は、これまた阿呆を見る目でため息をついていた。
「いつもいつも屋根に登って、天狗にでもなりたいのか?」
「そんなわけないじゃん。確かに空を飛ぶのは便利そうだけど、私は狸でありたいね」
天女のように美しくありながら悪魔のような所業を平気で行う天狗を思い出して寒気がした。あの人と同族とか無理無理。
よくあの人に目をつけられて無事だよね、と矢三郎を見やると牛丼を持っていた。
「矢二郎兄さんのところに行くの?私も行く!」
「だと思ったよ、ほら行くぞ」
慣れたように私の歩幅に合わせてくれる片割れに、どうしても嬉しくなる。
矢三郎の腕に絡みつき、普段は言わない感謝の言葉を述べると怪訝そうな顔をされた。バチが当たっても知らないぞ!