ナイスレシーブ



「……天童か」
「若利クーン!来ちゃった!」

裏から出てきた牛島先輩に向けて妖怪さん(仮)がくねくねと手を降ると、先輩はコクリと頷いて応じた。いや、どんな関係よ?正直言って、タイプが違いすぎるので友達とも思えない。もしこの二人が友達なら、類友という言葉を作った昔の人に見せてあげたい。いや、むしろ私が知らないだけで、プライベートの先輩はあんな感じなのか?……いや、キモい。想像するのはよそう。

「何の用だ」
「やだなー、友達のバイト先に遊びにくるなんて、フツーでしょ!」
「……そうなのか。覚えておく。生憎、友達というものが多くないのでな」
「アハハ!若利君、相変わらず面白いね!」

会話が噛み合っているのか謎だが、どうやらこの凸凹コンビ、本当に友達だったらしい。『類友』という言葉の作者、刮目せよ。

「苗字、突然すまないな。こいつは天童といって、高校時代の同級生だ」
「他人行儀だなー!友達って言ってよ〜」
「……友達、だ」
「そうそう!友達!マブダチ!」
「そう、ですか……」

他に客もいないので、牛島先輩を妖怪さん(仮)改め、天童さんの所に残して、私は仕事に戻ることにした。数少ない友達との交流を邪魔するような野暮はしちゃいけない。とはいっても、裏での仕事は嫌味な程に先輩が完璧に終わらせてくれてしまっていたので、私ができることと言えば、テーブルの紙ナプキンやスティックシュガーを補充したり、作りおきのアイスコーヒーを作ったりと、軽い仕事ばかりだった。

(……ていうか、天童さんの声ばっかり聞こえるけど、会話噛み合ってるのかなぁ……?)
そんなどうでもいいことを考えながら、上の空でダラダラとカップを磨いていた、のが多分いけなかった。
あっ、と思った時には、緩んだ手元から、するりとカップが滑り落ちていた。
割れる……!そう思った瞬間。

「……!うし、じませんぱい、」
「落とす可能性があると予測していた。拾うのは雑作もない」

すんでのところで、床とカップの間に入った牛島先輩の手のひらが、カップを拾い上げていた。
あっけに取られる私。何事もなかったように、カップを置く先輩。

「……ナーイスレシーブ」

天童さんがニヤニヤ顔でそう呟くのが聞こえた。

(2021/5/8)




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