律儀
鍵を鍵穴に入れる。ガチャリと開く。すぐ隣には自分の部屋が見える。
「お、おじゃましまーす……?」
牛島先輩にものすごい勢いで手渡されたスーパーの袋は、3つ同時に持って行くのは私には無理だった。しかたがないので、申し訳ないがスーパーの袋はいったん階段の下に置かせてもらって自分の荷物を自分の部屋に運び、また戻って袋を一つずつ(とはいえ1つでもかなり重い)いったん自分の部屋に運び、そして今ようやく牛島先輩の部屋に届けにやってきた。
ドアを開けると、私の部屋と全く同じ、しかし左右反転したつくりが目に入る。こっち側にシューズボックスがあるのね、と変なところに感心しながら、そろりそろりと歩を進めた。
予想通り、というかなんというか、牛島先輩の部屋は殺風景だった。整然とした部屋。しかし一つだけ異質なのは、部屋のすみに筋トレ用具のようなものが置かれていた。
「そういえば、ユニフォームみたいなのもあったし、スポーツか何かやってるのかな……」
変な感じだ。初めて入る他人の部屋で、独り言を言いながら食材を冷蔵庫につめる。冷蔵庫の中も殺風景もいいところで、空っぽの箱と大量の食材は不釣り合いだ。
「……豆腐、豆腐、納豆、おから……」
うちと隣を何往復もして、ようやく3つめのスーパー袋を冷蔵庫につめていく。もう少しでつめ終わりそうだ。
「……って、大豆ばっかりじゃん!」
「すまないな、苗字」
「ひえっ!!!」
気づかないうちに、帰ってきた牛島先輩が後ろに立っていた。あまりに驚きすぎて、ドッドッドッドッと心臓が鳴っている。
「あ、せ、先輩、」
「全部冷蔵庫に入れたのか。早かったな。俺が帰ってくる方が早いと思っていたが」
「うう……」
こんな時でも仕事が遅い私への嫌みは忘れない、律儀な牛島先輩である。
「あ、そういえば、お婆さんは……」
「持病の発作だそうで、即時命に別状があるわけではないがそのまま入院すると言っていた。俺は身内でもないし、失礼して戻ってきた。苗字も困っていると思ってな」
「そ、そうですか……」
これは、嫌みだろうか?それとも純粋に心配してくれたのだろうか?普段嫌みを言われすぎて麻痺してしまっているのか、牛島先輩の意図がよくわからない。無表情だし。
「それにしても、肉をチルド室に、野菜を野菜室に入れてくれているとは、感心した。全て一緒くたにするかと思っていた」
……前言撤回。私は麻痺しているわけではない。これは正真正銘の、嫌みだ。
(2020/11/1)
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