肉じゃが交換会



前回のあらすじ:肉じゃがに納豆とサーモンを入れるな。

「じゃあ、これって納豆とサーモンの臭い……?」
「ああ、そうか。そうだな」

ああそうか。じゃねーだろ。私はもう一度、お玉にすくって肉じゃが(?)を持ち上げてみる。つんと鼻につく臭いも、納豆と魚の魔合体したものと言われれば確かにそう思えてくる。茶色い集合体をよく見れば、納豆のような小さな粘ついたつぶつぶが所々にちりばめられているのが見える。

「えっと……」
「納豆とサーモンは肉じゃがには合わないか」
「合わ……ない……とは限らないとは思いますが……。味見とかって……?」
「していない。完成してから食おうと思っていた」
「そーですか……」

え、この状況、どうすればいいんだ。目の前には申し訳なさそうな(表情は変わらないので想像)牛島先輩と、大量の魔の料理。現実逃避に、昨日自分が冷蔵庫に詰めていった食材達を思い返す。そういえば、やたらと肉魚豆製品が多いと思ったんだ。ああ、あの子達、肉じゃがになったんだ……。

「……食べて、みてもいいか。今ここで」

罪悪感に耐えかねたのだろうか、牛島先輩はぼそぼそとそう言った。もちろん断る理由はないので、割り箸と小皿を戸棚から出して渡す。

「…………!!!!」
「どうですか……?」
「………………不味い、な。納豆とサーモンは言わずもがな、砕いた銀杏とオリーブと少々のナンプラーをアレンジにと考えて加えたのも失敗だったようだ」

段々、このバカでデカくて怖い先輩が哀れに見えてきた。どうして初めての料理でそんな変な冒険をしてしまったのだろうか。そしてどうして初めて冒険しながら作った料理を味見もせずに人にあげようと思ってしまったのだろうか。

「料理とは、斯くも難しい物だったとはな。普段、アルバイト先で調理している人を見ているから、見よう見まねで出来ると思った俺が浅はかだった」
「えっと……」
「箸や小皿、有り難う。では俺は失礼する。今からこの残飯の処理と、夕飯を買いに行かねばならない」
「……夕飯?」
「ああ。昨日買った食材を使い尽くしてしまった」

愕然とする。愕然とするバカだ。昨日あれだけあった食材を、全てこんな産廃にしてしまったというのか。ああ、恐ろしかった先輩、完璧だと思っていたあの牛島先輩が、こんなにも抜けていて天然でおばかさんだったなんて、どこか寂しさを感じるくらいだ。
……そんな、哀れみにも似た気持ちが、私を狂わせたのだと思う。気付けば私は、自分でも信じられない言葉を発していた。

「……あの、昨日の朝作った残り物ですけど。私も肉じゃが作ったので、食べていきます?」

言った瞬間、後悔が脳を埋め尽くす。
何言ってるんだ私は?!牛島先輩と食事?!しかも私の部屋で?!私の手料理?!意味がわからない。早いところ断ってくれ、と祈る気持ちで牛島先輩を見上げる。

「いい、のか?」

断れよ!!!!

「あ……えーと……はい。大したもんじゃないですけど」
「……では、有り難く、ご相伴に預かるとしよう」

預かるなよおおおお!!!!!


(2020/1/30)




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