付喪神の遊雲は、伏黒甚爾が大好きなので。

≪注意≫
・主人公=游雲
・捏造パレード
・男主人公









「お前、ナニ?呪霊じゃないよな」

そう問いかけられたなら、答えてあげるのが世の情けというものだろう。
ご多分に漏れず、それなりにあのアニメとコンテンツに育てられたようなモンなので。ラブリーでチャーミーな敵役はちょっと憧れる。

「[[rb:御前 > おまえ]]が3日前に預かった物さ」
「は?」
「なあ、五条の。この[[rb:朱 > あか]]に、覚えが有るだろう?」

指先で無下限を超えて、ちょん、と鼻先に触れる。
予測していなかったのか、キュウリを置かれた猫のようにびょーんと飛び退いた奴はたっぷり自身の間合いを取って、六眼を隠していたサングラスをずらしながら[[rb:此 > これ]]を見た。

「改めて自己紹介をしよう」
「お前……!」
「……んむ、夏油はそこまで警戒しなかったんだが」
「は?!傑に会ってんの?!いつの間に?!」
「それはそうさな。この学舎に居て、此をまともに使える奴など、甚爾と夏油くらいだろう。挨拶は大切だからな」
「いや、え?そ、それは、」

混乱している様子だけど、こればかりは馴れてもらうしかないから強引に話を進めさせてもらおう。

「此を≪游雲≫と呼ぶ。五条のには、あまり縁が無かろうと思っていたが、分からんものだな。よろしく」
「ハア……?!」






呪霊だ呪具だと言って有象無象が溢れるこの世界で、どうして九十九神が居ないと思ったんだろうか。というのが、此に宿ることになって思った感想だった。
まあでも、しばらく経って……ちょうど、自分が≪游雲≫と呼ばれるようになった頃だと思うが、その頃にようやく分かった。

呪術師に関わる道具達はどうしても寿命が短い。
大多数が九十九年を経る前に壊れて使えなくなる。
武家や商家に伝わる家宝の様にはならず、貨幣価値が億を越える特級と言えどもホイホイと戦場に持ち出される。それでいて、常人や寺社仏閣で扱われるよりも濃厚で強い力を取り込み続けることになるから結構無理なのだ。
神に成るなんて。

游雲は運が良かったんだよ。
術式効果を持たず、単に持ち主の力を不足無く攻撃に倍転化する。そのおかげで前のように言葉を得たし、触媒になった人間の意識も残っている。

「ゆ、ゆう、u、鑽」
「天逆鉾、どうした?」
「吾、あ、yuw……蕷ka留鑽n懣な、イ、剿」
「問題無いさ。あまり姿を取ると力が抜けるぞ。寝ていた方がいい」
「游、鑽n ヨよbト謂」
「ありがとう」

ふんわりと笑う奴が霧散するのを見送る。
アレは色々な因果に縛られているが故に、九十九には成っているが自発的に呪術師の前に現れようとしない。
それに、人が理解できるような言葉を発しない。
九十九であるが、より神に近い存在。
とんでもない物。

「そういうことだ。五条の」
「……いや、マジ?」
「マジだなあ。俺は基本的に所有者意外に顔を出さんが、一時でも今は五条の物だからな」

校舎内の空き教室で五条悟と向き合っている。
3日前に甚爾は国外に出張へ、夏油も任務に赴いているが、2人とも今回は此を必要としないので置いて行った。
なんでだ。特級呪具だぞ。
どっちか持って行けよ。特に甚爾。
……で、さすがにポイと置いておく訳にもいかず、かと言って学校に管理を預けてしまうと[[rb:どうなるか > ・・・・・]]分からん。運良く予定は通常授業だけになっていた五条にゴロッと渡された。

「ハ?五条の坊は休みか。じゃあ持っとけソレ。充電にはなるだろ」
「今回は3級程度を纏めてって話だからね……、護身用だとしても特級呪具の携行は不相応だ」

授業があるのは休みとは言わないんだが、いかんせん全員一般の常識が吹き飛び気味だ。
拗ねたし3日も経って暇だったから五条のにちょっかいかけた訳ではない。
全然。
本当に。

「そんでどうして俺に触れた訳?」
「簡単な事だ。甚爾が言っただろう、“充電にはなる”、と。それに、“一時でも今は五条の物だからな”」
「……俺の物だから弾かなかったって事かよ?!」
「ピンポン!」
「うわ、ウザ」
「御前の無下限はオートなんだろう?」
「なんでオートなんて単語知ってんだよ。……ま、そうだけど」

長い脚を持て余すように椅子に座る五条は不機嫌そのものだった。
今代最強の術師の無下限を破ったことになっているからだろうが、答えは簡単だし、何より俺は結局のところ游雲だ。例え[[rb:人容 > ひとがた]]をしていても。

「“呪具に対する呪力の付与”で、此は≪五条悟の呪力≫で満ちている状態だ。御前のサングラスと同じようなものだな。攻撃する意図も無い、呪霊でもない、游雲本体でもない。故に御前が意識しなければオート機能が俺を通す」
「め、面倒臭えェ〜!!最悪!!」
「ふはは、安心するといい、甚爾が戻れば所有権も戻るから弾けるぞ」

頭を抱えた奴の、少し乾燥気味の白い髪をモサモサとかき混ぜる。おや、大人しいものだ。
本体と同じく朱く染まって漆塗りのようになった指先が、恐ろしく映えた。

「それに、此はシンプルに強い奴が好きだからな。御前の物にはならんだろ」

元より三節棍は扱い難い。
術式効果も無い此はフィジカル重視。
今代なら伏黒甚爾が最高の主と言える。

「俺だってシンプルに最強だから!!!!」

という主張はとりあえず聞かなかった事にした。










何が正義で、何が悪なのか。
勝てば官軍なのか。
負けるとはどう言うことを指すのか。
どうして自分と同じ立場の人を優先してはいけないのか。
弱きを助け、とは何を言いたいのか。
人とは。
呪術師とは。


「それは、本当、ですか」

視界の真ん中あたりがぐらりと揺れるような感覚がした。

「人身御供、なんて。時代錯誤では」
「オマエな、呪術界が元から時代錯誤だろうが。今更」

夜蛾正道の隣には伏黒甚爾が座っていた。
心底軽蔑した顔をして吐き捨てるように夏油に返す。

「……その呪術界が100年以上前に作り出したのが游雲だ。信じられなかろうが事実で、恐らく、他にも居ただろう」
「呪具を術師だけじゃなく一般人でも作れるかどうか試す、なんざ簡単に考え付く。禪院あたりが特にな」

游雲は伏黒が未だ禪院だった頃に家から持ち出した呪具である。答えが見えていた。

游雲の核は人間の脊椎の骨である。
ただの民間人だった男を1人、呪いを生むようにバラして材料にして、そうして作った道具。術師の都合の良いように生まれた。
ただ少々失敗したのか知らないが、術式効果は付与されなかった。それでも、使用用途が限られても特級となった呪具が、どれほどの呪いを身に込めているのか。

そう聞いてから、夏油はテーブルに置かれた游雲を見ることが出来ないでいた。
ただただ、私たちを喰い物にしていくような猿、そう思う。そう思っている。
が、游雲も、私たちに利用されている。
一旦区切りを付けていた感情に火が着く音を、夏油は自覚した。

「おいコラ正気を保てよデコ助野郎!!!!」
「ぐっッ!?」

游雲本人に眉間をどつかれるまでは。

「全く、夏油は人が良いのか極端すぎるのか分からんな」
「ゆ、游雲……?何を、」
「ははは!やっぱ良いわオマエ!傑作!」

爆笑する甚爾と頭を抱えた夜蛾、別の意味で頭を抱えた夏油の目の前、テーブルに仁王立ちの游雲は端正な顔を歪めて息を吐き出している。

「もっと言うと良いぞ、甚爾。此は傑作に違いないからな」

游雲は基本的に伏黒甚爾が所有しているが、必要に応じて夏油に貸し出される。
もう一人の所有者と言っても過言ではない呪術師に、厄介な感情を持たれて意思が揺らぐのは勘弁して欲しい、というのが游雲の内心だった。
もちろん呪詛師になるのは勝手だ。游雲は道具なので、そうなるなら従う他無いが、人殺しはしたくない。元が人間であるが故に。

「良いことを付け加えようか、夏油傑」
「え、」
「游雲の核の人格を、“俺”が持っていないとでも思うか?」
「は、」

前後から息を飲む声が聞こえた。
これは伏黒甚爾にも伝えていないから当たり前だが。

「おい、待て游雲、記憶があるのか……?」
「あるぞ。必要が無いから言わんが。それにな、あったとして変わらん。《俺》はもう《此》である」

テーブルから降りて、伏黒の座る一人掛けのソファの背もたれに腰かけた游雲が、夏油を正面から見据えた。

「此である限り、俺は呪霊を祓う武器で在り続ける。人が居なければ呪いは生まれず、人が居なければ道具も生まれない。使うものが居ないのならば、道具は朽ち果てるだけ」

夏油は理解が追い付いていなかった。
目の前の特級呪具は確かに規格外である。
核になった人間の人格を保有したままの、物。

「使われることで俺は永遠を生きる。術者の力を写す鏡として」
「そんな、そんな在り方で人格は納得するのか?」
「愚問だな。納得しているから自壊せずに100年現役なんだろうが」

ふんす、と息を吐いて一蹴した游雲は、伏黒の頭を抱えるように抱き締めて寄りかかっている。

「まあ正味、永遠は無理だろう。物質というのは基本的に劣化する上に御前達は物の扱いが雑だからな、その内に壊れる」
「え、」
「エじゃねーだろ。何聞いたんだか知らねえが、そういうモンだ。夏油、100年前の人間1人をオマエが気にしたって無駄なんだよ。そういう切り捨て勘定がとっさにできねえから游雲にどつかれんだろ」
「切り捨て勘定、って」
「人間は難儀だなと思う。それは人間だった頃から思ってはいるが、夏油、御前は此を使いこなすことに集中した方がいい、」

先程のように揺らいでみろ、しばき倒すぞ。
考えていたよりも、この呪具は自我が強いらしい。






[newpage]






過去に転生するなんて、人間の時には一切考えていなかった。
そりゃ、ここではないどこかに行きたいなんていう、ぼんやりした願望はあったけど、そんな程度。
だから、さすがにどうして過去に飛ぶことになったのかは覚えていない。気づいたら100年以上前に生まれていた。
いきなりの時代後退に戸惑いながらもそれなりに育ち、嫁をもらい、子を授かった祝いに贈り物を買い求めて家路についた矢先に、禪院の輩に絡め取られたと記憶している。

禪院家の事が憎いと思う。
ただ、憎いのは俺を游雲にした本人達だ。
祟り殺してやると考えて実行に移した。
せいせいしたかと聞かれたら、一切そんなことは無い。
そんなものだ。復讐なんて。

そうして収蔵されながら、無惨に使い殺される非術師を見ていた。
禪院甚爾の扱いを見ていた。
自分の子が男か女かはまだ分からなかったが、本来は無邪気に笑っているような年齢の男の子がずたずたになっているのを何度も見ていれば、どうしても重ねて見てしまって、もう無い目から涙が溢れるような気がする。

そんな光景を見るのは限界で。
お願いだから、早く家を出て欲しい。
少しでも力になるから、出るときに此を持っていけ。
そう祈った。

だから、この子の前には現れると決めている。



「恵、」
「游雲?」

母親に似た髪を撫でると、照れ臭そうに少しうつむく。
自分の朱い指が恐ろしく映えた。

「飯の時間だぞ。虎杖と一緒においでな。釘崎が待っている」
「わかった。おい!虎杖!夕飯!」

端的な呼び声に、少し遠くに居た宿儺の器の子が手を振っている。
訓練に使っていた道具を片付けてからこちらに来るだろう。呪いの王の器に不相応なほどに良い子だ。

「游雲、」
「なんだ?」
「明後日は出てこれるか?」

明後日。
確か甚爾も夏油もその日は高専にいるはずだ。
あと最近になって此を使うようになったのは真希だが、今日から1週間、パンダと一緒に秋田県に行っている。

「緊急の仕事が無ければ在るぞ。何故だ?」
「その日、乙骨先輩の誕生日だから、出来るだけみんなでお祝いしようってことになってるんだ」
「んむ、なるほどな」
「その、あまり人前に出てこないのは分かってる。できればで、いいから」

呪術師らしく振る舞うこともできる冷静な子だが、道具である此の都合も考えていてくれる。優しい子だ。
恵なら無理を言っても聞いてやるのに。

「乙骨への祝いの挨拶だけで良いか?」
「ああ。ありがとう」
「ふふ、」
「?なんだ?機嫌が良いな」
「恵がかわいいからな。此は機嫌が良い」
「な……!?」

浮いたまま恵を抱き締める。
かわいい。何せ甚爾の息子だ。
憎き禪院の相伝術式を受け継いではいるが、それとこれとは別ってやつ。

「おい、伏黒恵からその手を離せ。物風情が」
「あ?」
「やめろよ宿儺、毎回伏黒のことで游雲と喧嘩すんだから、出て来んなって言ったじゃん」

頬をおさえた宿儺の器の子。
ジャージの上着を手に持っているので、どうやら片付けが終わったんだろう。

「虎杖の言うとおりだぞ。毎回難癖を付けてきて目障りだ」
「ふん、ベタベタと伏黒恵に触るからだ」
「触れもしない癖にな。負けおし、」
「止めろ」
「み。」

深いため息と共に恵から止められる。
なんでだ?あきらかにこっちのがポッと出の邪魔物だろう!
小さなころから玉犬と共に恵と遊んでいたのは此だぞ!

「相手にしなくていい、游雲。行くぞ。ほら虎杖も」
「!」
「お、おう」

此を優先してくれる!
やはり恵はかわいい。良い子だ。
此を扱うには少々向いていないだろうが、使うときが来るのであれば力を貸そう。

「ふふふ、」
「……機嫌、直ったか?」
「んむ、ありがとうな、恵」

歩きながらこちらを見て、ほんの少しだけ口の端を上げるのが可愛らしい。
こういう術師がいるから物で居られる。
力を貸そうと、上手く使えると良いなと思う。

物は九十九在ったとしても所詮物である。
子供を授かった親の記憶が、殺された記憶が、呪った記憶があれども、今の主達に使われて、その果てに破壊があろうとそれでいい。
もう、戻らないから、それでいい。




end.









Q.伏黒甚爾は游雲の九十九神を感知していますか?
A.していません。