――ギアッチョにも料理を手伝ってもらおう
木枯らしの季節。大学の帰りにふとスーパーへ寄った時、私はそう閃いた。まだ小学生だけど、今のうちから包丁に慣れておいてもらいたい。料理ができる男性はかなり恋愛面においても金銭面においても得をする。それに料理をして楽しいと思えるのは、今が幸せであるといえる一つの証拠だ。ギアッチョにも料理の楽しさを知ってほしいし、幸せを共有したいと思うのだ。そうと決まれば手始めに、子ども用の小さい包丁を買おう。
私はスーパーの帰りにデパートへ寄った。やっぱり男の子は青色が好きだろうと思い、柄の色は青を選ぶ。家まで気分転換に歩き、帰宅する頃にはすっかり3時を回っていた。今日は確か5時間授業だからもう家にいるだろう。まさかこんなにも時間がかかるとは思わず、申し訳ないと内心苦笑しながら扉を開けた。早くギアッチョに見せてあげたい。喜ぶだろうか。喜んでくれるといいのだけれど。私は自然と弛緩する表情筋を気にもとめず、居間への扉を開けた。

「ギアッチョ、ただいま!」
「おかえり………何かあったの?」
「そう!そうなの!」
「……あっそ」
「いやまだ何も言ってないんだけど」

私が興奮気味に、ギアッチョにデパートの袋を差し出した。プレゼントだと言えば、ギアッチョは袋の中を覗いた。箱に収まった包丁を手に取り刮目する。

「ギアッチョにも料理を手伝ってもらえたらいいなって思ったの」
「…今日は何作るの?」
「ニョッキにしようと思ったんだけど、ギアッチョにはさっそくイタリアンパセリを千切ってもらおうかな」
「……包丁は?」
「……使わないね」

その言葉にギアッチョの呆れたような眼差しを浴びる。何となく言いたいことは分かる。あんなに興奮して包丁を渡したあげく一緒に料理をしたい旨を伝えたのに、結局使わないのかよ。こんなところだろう。いいじゃん明日から使えば、と頬を膨らませて反論したがため息を一つ溢して箱の中から包丁を取り出そうとする。
――あれ、私のほうが年上だよね?
ギアッチョは水屋に包丁を入れて冷蔵庫からイタリアンパセリを取り出した。ニョッキには市販のトマトソースをかけるつもりだ。毎日三食用意しないといけないのだ、そりゃ手を抜きたいとも思う。でもインスタントやスーパーで売られてる弁当は出さない。食生活のバランスを崩すわけにはいかないし、偏った食事は子どもの成長に大きく影響する。たまにはありかもしれないけど、頻繁に与えるわけにはいかない。水を沸かしながら、調味料を両手に待機するギアッチョがおかしくて笑ってしまった。

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