今日、クリスマスイブは色々なことがあった。朝からギアッチョの学校が終業式なので玄関から見送り、その後取り込んだ新聞の間に挟まった広告に暫く目を通す。新聞は正直テレビ欄以外で見るところはほとんどない。ある程度の情報ならニュースを見てそれなりにチェックしているし、何よりもあの小さな文字を端から読んでいくのが億劫だからだ。スーパーの安売りのチラシに赤い丸をいくつか描く。クリスマスイブなだけあって、新聞の間には多くの広告が眠っている。その多くが飲食店であったこともあり、今日がクリスマスなのだということをのんびりと実感してしまう。いつも適当に作った雑な手料理ばかりだし、たまにはギアッチョと外食してもいいなと私は考えながらもぱらぱらと目を通す。10時くらいには家事に勤しんでいたが洗濯物を干す時、ふと雨が降っていることに気がついた。ギアッチョに傘を持たせていない事を思い出した私は、洗濯物を置いて小学校へ向かった。家からちょうど5分くらいのところにある。そこに着いた頃にはすでに沢山の生徒が校門から出ていく姿が見られた。驟雨を弾く色とりどりの傘がしばらく私の視界を占領していく。暫くその場に佇んで待っていると、数分後にギアッチョが校舎から姿を現した。ランドセルを両手に持って頭上に乗せているあたり、走る気満々だったんだろう。私は校門を抜けてギアッチョのところへ行き、そっと片手にあった傘を差し出した。

裕福な家庭は沢山の知人を招いてパーティーを開くのだろう。ミーナは彼氏とイチャラブしていることだろう。私の家は裕福とは言い切れないし、誘える知人もいない。しかしギアッチョとのんびりクリスマスを迎えるのもいいんじゃないかと私は思うのだ。ギアッチョと共に帰宅してから私は外食のことを話した。イベント事を子どもは大事にする傾向があるように思うから、私も大事にしなければならないと思うのだ。

数ある広告の中からギアッチョが選出した店へ行くことに決定した。そういえば食事のたびに思うが、ギアッチョは作法をきちんと身に付けている。両親から学んでいたのかもしれない。スプーンとフォークで手際よくスパゲッティをすくいあげるし、音もたてない。きっと家柄もよかったしテーブルマナーを学んでいたのだろう。昼食を食べ終えた後、ギアッチョは周囲を見渡す。クリスマスだからか、柔らかい空気が店内を充満していたのだ。きっとこの店で食事をしている人達は、境遇は違えど大切な人とクリスマスを穏やかに過ごしているのだろう。一人で食事をする客がいないのだ。ギアッチョも私と同じことに気づいたのだろうか。ギアッチョも私のことを大切な人だと、家族だと思ってほしい。そんなことを考えながら席を立ち会計を済ませた。帰りにはお決まりのジェラート屋に寄って二人分のジェラートを買う。

「こんな寒い中ジェラート食べるの」
「いらないなら私がもらうよ」

そう言うとギアッチョは無言でジェラートを口に運んだ。手に冷たい風が当たり、寒いを通り越して指先にじんじんと走る痛みを感じながらジェラートを食べる。それをちょうど食べ終える頃には、家の前まで着いていた。

家に入ると予約していた旅番組を二人でのんびり見た。ヴェネツィアに行きたい。近々ビエンナーレも開催するそうだから、春休みに旅行なんてどうだろう。ギアッチョに尋ねてみると同意の言葉を頂けたので、これは本格的に考えよう。その旅番組はクリスマスの3時間スペシャルだったらしく、見終わる頃にはギアッチョがソファの上で丸まって寝ていた。寝顔は可愛いのだが、最近ちょくちょく毒舌を吐くので怖いものだ。ギアッチョを抱えてベッドまで運ぶが、いつかはこの行動も逆転する日がくるのだろうか。そう考えるとなんだか急にしんみりしてしまう。ベッドに降ろしてギアッチョに布団をかけ、ギアッチョが密かに欲しがっていたゲームをベッドの端にそっと置いた。ちゃんとチェックしてるんだよ。おもちゃ屋さんのチラシ、いつも一点のゲームばかり眺めてるでしょ。もちろんラッピングはしてある。私は寝返りをうって難しそうな顔をするギアッチョに呟いた。

「メリークリスマス」


***


ビエンナーレ:隔年に一度開催される美術展覧会。ヴェネツィアは特に100年近い歴史を有しており、国際的美術展として有名。(ブリタニカ国際大百科事典より一部引用しました)

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