この子どもと会ったのは、私がルーズリーフを買いにスーパーへ寄ったのがきっかけだった。夜、大学の課題を片付けてしまおうと鞄を探った時にルーズリーフがないことに気づいた私は、すぐ近くにあるスーパーへ買いに行ったのだ。どうせ距離もそう遠くないし時間もかからないだろうと思ったためであり、とても些細なきっかけだった。きっと、そういう小さなきっかけが連鎖して人々の境涯や運命を位置づけてしまうのかもしれない。
そのとき時間は夜の8時。季節は冬だから、街は闇に溶け込み暗然としていた。私が帰路を辿っている道中で、向かいから歩く一人の男の子を目にした。一人で夜分に出かけるには幼すぎるほどの背丈だ。あまりの不自然さに目を凝らして刮目していると、その子は力をなくしたように膝を折ってこけた。
私は咄嗟に男の子に近づいて声をかけると、男の子はゆっくりと体制を直して地面に座り込みスボンの裾を捲った。何もないところでこけたのか内心と思ったが、この行動で納得してしまった。
――ひどいアザ
切り傷だってある。こんな負傷を負いながら一人で夜に出歩くなんて、きっと何かあるのだろう。私はそう勘づきつつも、子どもには悟られないように優しく声をかけた。
「大丈夫?この絆創膏、よかったら使って」
「う、うん。ありがとう…」
「いいの。でもちゃんと家に帰ってから水で洗い流して消毒し直さないとだめだよ」
「えっ、うん」
私が普段持ち歩くポーチの中にいれている絆創膏を差し出す。きっと虐待を受けているのだろう。この子の親は育児を放棄したも同然の大人だ。そんな人間から教わることもなく、暴力を受ける日々を過ごすのは酷だ。大小つけて比較するものじゃないと分かってはいるけれど、この男の子は私より辛辣な当たり前を突きつけられている。
男の子は袋の中を確認して肩を落とした。表情からは負の感情が読み取れ、絶望的な眼差しを袋の中へと向けている。そこで少し勘の良い私は、袋の中には親のために買ってきた商品があったのだと察した。もしこのまま不良品を親に渡せば、この男の子は間違いなく暴力を受ける。他人の家庭内の問題だから、辛いことに私が顔だしするのはできない。けれど今、帰宅した後に受けるであろう暴力を未然に防ぐことはできる。
「中は大丈夫?」
「……ううん。缶ビール買ったんだけどね、大きくへこんじゃった」
「そっか…」
「お、おいらはもう帰るよっ!早く帰らないと父ちゃんが心配するから、」
「あ、あの、待って」
袋の中が缶ビールの時点で間違いなく親に買いに行かされたことが確定した。それも恐らく父親だろう。本当に帰りが遅いとこの男の子の父親は心配してあげるんだろうか。私なら、ただビールを用意するのが遅いから罰を与えているだけではないかと思ってしまう。ここは、帰らせてはだめだと頭の中で警報が鳴り響く。
「私が、買うよ」
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