私の隣を歩く男の子の名前はペッシ君というらしい。自販機で缶ビールを2本購入して手渡すとペッシ君は頭を下げた。私としては、こんなことでしか手助けになれないことが辛いのに。へこんだビールは私がもらって帰ることになった。正直ビールは飲んだことないのだが。どうしよう、いい機会だし飲んでみるか。
さすがにこんな時間にペッシ君を一人で帰したくない私は、そっと声をかけた。
「ペッシ君、送っていくよ」
この言葉にはペッシ君もさすがに動揺したらしい。それは知らない人に言われたからなのか、親にバレる可能性からか。どちらもあるだろう。私は心配だから家の近くまで、と頼む。ペッシ君はそれに応えるように恐る恐る頷いた。
もしかしたらギアッチョの両親もペッシ君の親みたいな人だったんじゃあないか。そう考えるたびに心臓がひんやりと涼しくなる心地がした。あの仏頂面も、あまり人を信頼しようとしないのも、両親の虐待による影響かもしれない。見えないところに傷を背負っている可能性は十分ある。風呂に一人で入りたがるのも、もしかしたらそれが原因かもしれない。
「あの、ナナーシさん」
「ん?」
「……お酒、本当にありがとうございました」
地面へと視線を落としながらペッシ君は言った。違うのペッシ君、私何も助けることができなかったの。虐待から救うなんてたいそれたこと、私にはできない。私は救世主とはかけ離れた一般人だから、ペッシ君を暴力から守ることはできない。なのに感謝しないでよ。私は何もできなかったのに。
ペッシ君の隣を歩くこと十数分、彼の住居が見えた。錆が浮いた手すりやドアノブを見ると、かなり古いアパートだと分かる。
「あの、ナナーシさんは、その……」
「どうしたの?」
「こ、この近くに住んでるの?」
「うん。小学校の近くにあるの。いつでも遊びに来ていいよ」
「ほっ、本当!?」
「うん、本当」
そう言うと、ペッシ君はぱっと明るくなった表情で私を見た。泣いた烏がもう笑うとはこのことである。あ、ギアッチョと仲良くなってくれたらこれって一石二鳥じゃないかな。ギアッチョにも友達ができるし。ペッシ君は相好を崩して三度目の礼を告げた。
その後、あまり遅いと親の逆鱗に触れる恐れがあったので、ペッシ君に別れを告げて踵を返した。ギアッチョは家で大人しく待っているだろうか。予想以上に遅くなってしまったから、心配してくれてるかも。ペッシ君には詳しい家の場所を教えておけばよかったな。そう様々なことに思いを馳せながら帰路につく。靴を脱ぎながらゲームのアクション音楽が小さく漏洩しているのを耳で少しすくいとった。
――心配してくれなかったんだ…なんか悲しいな…私はギアッチョのこと大事なのに、ギアッチョはやっぱり私のことどうとも思ってないのかもしれない。居間に入ると一向にテレビ画面から目を離さないギアッチョを見てそう思わずにはいられなかった。私がギアッチョのためだと思ってとる行動は、すべて無意味なんじゃないかと考えてしまうことがある。絶対にそんな考えは信じないけど。
冷蔵庫に凹んだビールをしまい椅子に座ると、ギアッチョが口を開いた。
「……遅い」
その顔は、鬼気迫る形相で眉間には多く皺が寄っていた。私はギアッチョを怒らせたことによるショックより、ギアッチョが怒ってくれたことによる衝撃を受けた。
――あれ、もしかして、心配してくれたんじゃ……
怒りを抱くということは気にしていたということだ。私は笑みを浮かべながら謝罪した。
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