7月に入り初めての日曜日が訪れた。

夏休み開始
本屋へ寄る
背表紙のない本を発見
標本図鑑?
設定資料集かも
物珍しさで購入?
売り物ではないから譲るわ
待って
手のようなものが見えた気が…
他の人の手じゃない?
家に持ち帰る
寝る前に本を広げる
昆虫や植物、
ギアッチョそわそわ
なんでもない



水族館で作ったカレンダーはダイニングに飾ることにした。おおきさの合う額縁に挟んで壁にかけている。これじゃ書き込めないとかぼやいていたが、ギアッチョも満更ではなさそうだ。いや、むしろ少し嬉しそうだった。ギアッチョと過ごし始めてもう1ヶ月近く経つが、最近ようやく私に心を許し始めたような気がする。そもそも閉鎖的であまり笑わない小学生って時点でおかしいのだ。まあ本人から直接両親のことを聞くことは絶対にしないが。

「夏祭りとかも行きたいね!ほら、この近所にある大きい公園でやるのよ毎年。規模は小さいけど、どう?」

バイトは結局始めることにした。週3日5時間労働時給880円。ギアッチョとの時間をカットすることになるのは仕方ない。でもできるだけ短縮させたほうがいいと考え、労働時間は少なくしたのだ。
嬉しそうに私が夏祭りの提案をすると、ギアッチョは控えめにこくりと頷いた。そういえばギアッチョが胸襟を開くようになるのと比例して、私もぎこちない笑みから自然なものへと変化していった。他人行儀が直感的なもので伝わっていたのかもしれない。そういうのに子どもはすこぶる敏感だ。今はだいぶん慣れたから、こうして気ままに接することができるのだけど。

「はい、サラダ持って行って」
「夏祭り……」
「そんなに楽しみ?」

夏祭りによほど興味があるのか、サラダを運びながらそう何度も呟いていた。ちなみにモッツァレラチーズとトマトのサラダと、手抜き丸だしな料理である。ギアッチョが来てから特に、食生活を強く意識するようになった。主食と主菜と副菜のバランス、豊富で偏りのない栄養素。こういったところから気を使うことで、子どもは健康的に大きく成長するのだ。

「夏祭りは行ったことある?」
「いや、ない」
「そっかー!沢山屋台並んでて行くだけでも楽しいよ」

活気があって、みんな笑ってる場所だ。あ、迷子は例外ということで。たとえ見知らぬ人間であろうと感情は伝染するし、その力は強大なものだ。周囲が笑顔で賑わっていれば、自然と自分もそうなる。
ギアッチョは部屋の照明の光を取り込んだ目で私を映した。それよりも夏祭りすら行ったことがないことに私は驚愕する。いや、もしかしたら記憶にないだけかもしれない。しかし子どもは楽しい記憶を沢山脳にとりこむんじゃないだろうか。夏祭りなんてビッグイベントだ。断片もないのは少し変に思ってしまう。それにギアッチョは“分からない”じゃなくて確かに“初めて”だと言った。はっきりそう言えるならやはり今まで行ったことがなかったのだろう。水族館といいあまりギアッチョは、親や親しい人間とそういった場所へ連れてもらってはないらしい。こ、ここにきてますますギアッチョの両親に対する疑念が膨張したぞ……。
私はこの日に夏祭りに行こう、そう言ってカレンダーの日付に赤いペンで丸をつけた。ギアッチョは四分の一にカットされたトマトを口に含みながら頷いた。

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