漁師程しか人が訪れないこの浜辺に今、大きな人だかりができていた。その中心にいる空条承太郎は、赤い貝の存在について問答していた。様々な顔ぶれがこの浜辺にいるというのに、誰も赤い貝について知らないのだ。島の中でもほんの少数の人間にしか、赤い貝の存在は認識されてないのだろう。そう承太郎が結論をつけ女を見たとき、ある違和感に気づいた。先程まで赤い雫を垂らしていた指の血が固まっている。カサブタができていたのだ。
血液中の凝固因子が働くことで初めてカサブタはできる。死んでいる状態で血液中の凝固因子が役割を果たすことはまず不可能であり、それを承太郎は理解していた。しかしこの横たわっている女性の脈を、承太郎は確かに己の右手で確認している。ならばなぜ、凝固因子が作用したのか。それは恐らく女が息を吹き返したと考えるのが妥当であろう。しかし死んだ人間を生き返らせることはスタンドが絡んでいたとしてもまず不可能だ。
再び女の手を取り、手首に太い親指を恐る恐る押し当てる。ゆっくりではあるが確かに親指から脈動を確認することができた。恐らく女は仮死状態に陥っていたのではないかと承太郎は慮る。刺した人間を仮死状態に至らせるほどの有毒を含蓄している貝を、公にしなければ被害者が増加してしまうのではないかと承太郎は懸念した。
その時、後ろから声がかかった。

「落ち着けお前ら」

程よい肉付きをした四肢をぶら下げながら男は言った。この男、主は五十代半ば程かと思わせる顔つきや肉体をしているが、ある大きな秘密を抱えており、その事実を承太郎が知るのは少し先の話になる。
主の隣に立つ少女は眉を下げ心配そうに被害にあった女を見ていた。その時の少女の目はまるで、女の体を透かして見ているような大人びたものだった。

「佳代子は生きている」

その言葉にまた周囲は沸き立つ。続いて主は否定を並べる弟に確かめの一声をかけ、聴衆に医者は呼んだか問いた。
弟は女の脈を指先で感じ、泣きながら膝を折った。それを見た主は息を零して後は頼んだぞと言い残した。

「おいそこのお前、話を聞こう」

承太郎にかけた言葉はあまりに投げやりなものだった。

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