ここに一つの心臓があります

「やだね」

男の子が発したその三文字に、私は焦った。てっきりいいよの三文字が返ってくると思ったのに。いや、それは私が人を信用しすぎなだけか。やっぱり、こんな汚い鳥を持ち帰りたくないのだろうか。

「俺が拾ったみたいになるだろ。あそこの水道でなんとかすりゃいいさ。介抱したいと思うならちゃんと責任もて」

今度は私が瞬きを繰り返す番だった。やけに大人びた子どもだなと思ったが、それもほんの一瞬で、すぐに彼の言葉を繰り返し頭の中で流すようになった。

「……水道でどうにかなるものなの?」
「さあな。でもそれ火傷だろ?水で冷やしてハンカチでも巻いといたらいいんじゃない」

もし私が年相応の頭脳なら……いや、転生していなければ、彼の言葉にかちんときて喧嘩が始まっていたかもしれない。けれど彼は間違えたことを言ってはいない。動物を飼うにしろ拾うにしろ介抱するにしろ、責任というものが必要だ。それを子どもが説くことに驚かされたが、私は自分の不始末を思い知り嫌気がさした。
でも私は思う。注意してくれるのは優しさからくるのだと。愛の反対は嫌いではなく無関心。もし私のことを心底どうでもいい存在だと思っていたなら、注意すらしないだろう。確かに彼とは出会ったばかりの初対面とはいえど、わざわざ自分の意見まで教えてくれた彼に感謝するべきなのかもしれない。彼は私に全く関心がないわけではないのだ。
私はありがとうと言って立ち上がった。彼は何も言わずにむすっとしたまま私が座っていた場所に腰をおろし、肩から提げていたキャンバスを開いた。
普段から持ち歩いているハンカチをポケットの中から取り出して、水道の蛇口を捻った。流れ落ちる水の束にハンカチを突っ込んで濡らし、体毛の汚れを拭った。ある程度汚れが落ちてから火傷の場所に水を当てて冷やし、先程使用したハンカチを絞って巻いておいた。
正直私は鳥を飼ったことがないため、こういった時にどう手当てをすればいいのか分からない。というか、彼の家でもそうなのかもしれない。鳥の火傷に正しい処置を施せる、これは簡単なようで知ってる人は少ないだろう。日常で活かすことがあまりないため、当たり前なのかもしれない。私の母親のように、獣医なら話は別だろうが。
ベンチに座って絵を書いてる男の子もちらちらと私の様子を気にしているようで、やっぱり彼は優しい人なんだろうと私は思った。

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