赴くままに

未だに空から目を離せないでいる彼の背中を、人差し指でつんつんと押した。それでも反応がないため、指をもう一度背中に優しく刺しながら、おずおずと声をかける。するとようやく彼ははっと正気に戻ったようで、若干背後に下がっていた私を見た。

「私、帰り道、見つけたかもしれない」
「……は?“見つけた”って、」
「ごめん、おつかいの最中だから、私急いで帰らなきゃ、お母さんに心配かけちゃう」

ありがとう、そう言い残して踵を返した。記憶を引っ張りおこして何とかもときた道を辿ると、見慣れたいつもの住宅街に出た。帰路につきドアを開けると、お母さんが玄関まで出て来た。私は手提げ袋を差し出して言った。

「寄り道してたの。心配かけてごめんなさい」

ぷんすかと可愛く怒った後、心配かけないでと優しく抱き締められた。


***


露伴は衝撃を受けていた。
――青空は鳥でできているとでもいうのか。いや、そんなはずはない。童話の世界の話だ。でも今、確かにこの目で鳥が空の一部になるような瞬間を見た。もし自分が耳にしたら笑うであろうこんな絵空事を、僕はこの目でしっかりと見た。
同時に露伴は、先程までいた彼女のことを思い出した。“何か”によって帰れなかったはずなのに、鳥をかえすと帰り道を見つけたのだと言う。
――もしかしたら“何か”はさっきの鳥だったのかもしれないな。いや、そうだろう。大体、あの女も変だった。
露伴は鳥を介抱してほしいという申し出を一刀両断した。それは億劫だと思う気持ちが大部分を占めていた。処置の仕方も分からないし、家族にそんな優しい行動を露伴がとったのだと勘違いされるのも嫌だったためだ。何もしないどころかいけぞんざいな口をきいていた露伴に、彼女は怒らなかった。
自分もあまり人のことはいえないが、子どもにしては寛容すぎた。それどころか、彼女は最後にありがとうと言ったのだ。感謝されるようなことをした覚えのない露伴は、訳がわからずにきょとんとして彼女の後ろ姿を見送った。
――今の出来事を絵に描いて収めよう。いや、それより先にメモするんだ
そう考えた露伴はスケッチブックを下敷き代わりにし、メモを上に乗せた。今さっき起きたことを詳しく、そして鮮明に記すために彼は手を忙しなく動かした。あの細道の先には行き止まりしかないことに気がつくのは、もう少し後のことだった。

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