09


「よーしみんな、お疲れ!明日も同じ時間に集合な。散!」

任務終わり、駆け足気味にアスマ先生はそう言うと白煙と共に消えていった。
隣からげんなりした「うわ」という声が聞こえて、横を見れば山中さんが声の通り、げんなりした顔をしている。

「あれ先生、絶対女よ〜」
「?、お、おんなって?」
「やだ、アカザ分かんないの?か、の、じょ、ってことよ」
「…えっ、あ、アスマ先生お付き合いしてる方いたの!?」
「そうよぉ!いや、好きな人を落としにかかってるのかもしれないわ…」

山中さんはそう言って「今度聞いてみなくちゃ」と顎に手を当てていた。
でも言われてみれば、今日のアスマ先生は随分と上機嫌でソワソワしていた。
今日の任務はいつもの雑用みたいな任務だったのに、驚くほど手伝ってくれたし(いつもは「そんな仕事おまえらだけで出来てこそ一人前だ!」とか言って手伝ってくれない。)

「まあ、アスマ先生に女が居ようかは実際どーでもいいんだけど」
「ど、どーでもいいんだ…」
「今日みたいに毎回手伝ってほしいわよね」
「それは確かに!」

笑いながら秋道くんが返事をして、その横で奈良くんも小さく頷いていた。
まあ、正直わたしもそれは思う。
苦笑を返せば、「ところで、今日この後みんな帰宅?」と思いついたように山中さんが言う。

「帰る」
「ぼくも今日は疲れたし帰ろーかな」
「…わ、わたしはちょっと用事が」
「…なぁんだ、皆でお団子行こうかと思ったんだけど」
「!」

山中さんの「お団子」にこれでもかというほど反応した。
三人はわたしのそれには気づかないだろうけど一人だけソワソワとしてしまう。
あの日、嘘をついて行けなかったお団子だ。
さっき山中さんには用事が、と言ったけどあれは本当だ。
でも、用事と言っても一人で修行をしようかなと思っていたのだ。
修行はいつでも出来る。
お団子は、いつでも行けないかもしれない。
前に失敗したことも相まってか、少し突飛な考えに至っていたが、そんな事はどうでもいい。

「帰る二人!暇なんでしょ、付き合いなさいよ」

山中さんが秋道くんと奈良くんの肩を掴んで、ニコリと音がつきそうな笑顔でそう言った。
奈良くんはいつもの「めんどくせー」で、秋道くんは「お団子なら食べる!」と嬉しそう。
おそらく、お団子食べに行くのは決定なのだろう。
『わたしも』
そう言おうと思うのに、唇はくっついてしまったかのように動かない。
言っても大丈夫だろうか?
焼肉屋さんで皆はわたしを迎え入れてくれた。
きっと大丈夫。
分かっているのに、肩を組む三人を見るとどうしても尻込みしてしまうのだ。

「じゃあ、アカザは用事…なら仕方ないわよね。また今度ね?」
「あ…う、うん」

考えているうちに山中さんにそう言われてしまって思わず返事をしてしまう。
結局、今日も行けないのか。
内心涙を流しながら、「じゃあね」と手を振った山中さんと秋道くんに同じように手を振った。

「?、どうしたの?奈良くん」

二人が遠ざかっていくなか、奈良くんだけがこちらを向いて止まったままでわたしは首を傾げた。
ジッとこっちを見ていた奈良くんは、ため息を吐いて前を歩く二人を指差した。

「団子、行きたくねーのかよ」
「えっ。い、いや…あの…」
「おまえいつも任務終わり一人で修行してんだろ。今日の用事もそれじゃねーの」

「ちげー用事があんなら悪かったけど」と、少し申し訳なさそうにそう言って、奈良くんは頭を掻いた。
全部、奈良くんの言うとおりだった。
修行してることを知ってくれてたことも驚いたけど、何より。

「…わたし、そんなにお団子食べたそうな顔、してる?」
「…おまえが一番分かってんだろ」

歩き出した奈良くんはやっぱり「めんどくせー」と言っていて、わたしは少し笑ってその後を着いていった。
そうだ、めんどくさい。
今わたしはみんなとお団子が食べたい。
奈良くんに追いついて「ありがとう」と言うと、それこそ面倒そうにため息を吐かれた。

「おまえ、もっと簡単に考えれば?」
「す、すいません…」
「あれ!アカザどうしたの?」

前を歩いていた山中さんが振り向いて、わたしが居ることに驚いていた。

「コイツ、用事今日じゃなかったんだとよ」
「え?そうなの?」
「日之出さんもお団子行ける?」

そっと出してくれた奈良くんの助け舟、嬉しそうな山中さんと秋道くんの顔。
大丈夫、きっと大丈夫。

「う、うん、わたしもみんなとお団子、食べてもいい?」

あの日言えなかった言葉、言おうとも思えなかった。
今日、また同じ事を繰り返しそうになったけど。

「当たり前じゃない!みんなで食べに行こ!」

山中さんが笑ってわたしの手を引いてくれて、わたしはそれに頷いた。
横に並んだ三人が、とても嬉しかった。





みんなとお団子を食べた帰り道。
いつもは憂鬱な家までの道のりが、楽しい気持ちでいっぱいだった。
お団子を食べながら色んな話もできた。
山中さん家はお花屋さんだとか。
秋道くんはポテチが大好きなのだとか。
奈良くんはアスマ先生とよく将棋をするのだとか。
そういえば、『いい加減、わたしたちのこと名前で呼んだら?』そう言われて、みんなのことを名前で呼ぶようになったんだった。

「…いのちゃん、チョウジくん、シカマルくん」

小さな声で呟いた名前たちに全身が痒くなったし、顔に熱も上がって、頬を抑えた。
こんなんでちゃんと呼べるだろうか。
少し不安だったけれど、幸せに満たされていた。
赤くなってしまっているだろう頬を抑えながら、玄関を開ける。
ただいま、と言おうとして目の前の影に気付いてビクリと身体が強張った。

「、に、にいさん」

玄関の廊下を上がった少し先、兄がこちらを睨むようにして立っていた。
わたしはこの人が心底、苦手だ。
この人がわたしのことを嫌っているのもよく分かる。
だから必要以上に関わらないようにしていたのに。
何も言わない兄に、頭だけ下げて横を通り過ぎようとすると「おまえさ」と声をかけられて足を止めてしまった。

「一緒の班のガキ達、名家の子だろ」
「…」
「全く優秀そうじゃなかったけど」
「!ち、ちょっと、」
「よくお前なんかと団子食えるよな」

ぴしりと身体が凍ったようだった。
今日一緒に居たところを見ていたのだろうか。
固まったわたしに兄は嘲笑うように鼻を鳴らすと、わたしの顔を覗き込んできた。

「お優しいよなあ。お前みたいな低脳な奴ともつるんでくれんだからさあ。さすが名家の子だな」
「それに比べてお前は呑気なもんだよな。運良く下忍になれただけなのに」
「あ〜、あいつらはお前のこと本当はどう思ってんだろうな?」
「おまえ、足、引っ張ってること分かってんの?」

ドンと肩を押されて、尻餅をついてしまった。
いつもだったら立っていられたくらいの力だった。
でも、今は全然足に力が入らなかった。
わたしを見下ろす兄の目は、冷え切っていて。

「出来損ないが」

そう言うと兄は廊下を去っていった。
兄が去ってもわたしは立ち上がらず、床に座り込んでいた。
吐き捨てられた言葉。
今まで何度も言われた言葉だ。
我慢してきた、我慢できていた。
それなのに。

そうだった、わたしは

「出来損ないだった」

深く、深く、突き刺さった。


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