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ガラガラと、目の前で二体の傀儡が地に伏せる。
チャクラの糸を伸ばそうとしたけど、息が切れて集中なんてできやしなかった。

「…はあ、もう」

諦めてその場に座り込んで息を整える。
自分の息の音だけが静かな修行場に響いていて、嫌でもまた蘇る。
『おまえ、足、引っ張ってること分かってんの?』
あの日、兄に言われた言葉だ。
あの日からずっとわたしはそればかり考えてしまっている。
みんなはそれまでと変わらないはずなのに、みんなとの『差』がよく目につくようになった。
みんながみんな、良いところがあった。
でも、わたしは?
その度に兄の言葉が蘇っては、わたしを焦らせた。
わたしがこの班の足を引っ張っているのではないか。
そういえば、いつだって何もできていない。
下忍試験のときだって、いつもの任務だって、わたしはいつもみんなの後ろをついて行くことしかできていない。
それはわたしが、出来損ないだから。
そう思ったらまたみんなと居るのが申し訳なくなった。
いつもだったら、前までのわたしだったら、このまま離れていたかもしれない。
でも、今のわたしは知ってしまっている。
この班のみんなの暖かさを。
この班の居心地の良さを。
この班が好きだという気持ちを。
これはわたしの我儘。
足を引っ張っていても、邪魔でも、みんなと一緒に歩いていたかった。

この我儘を通すためには自分の努力はちょっとなんかじゃ駄目だと思ったわたしは修行の量を増やすことに専念した。
任務が終わって時間があればいつもの倍の時間修行をやったし、休みの日も時間が使えるだけ修行をした。
おかげで出来ることも増えたけど、みんなはわたしのために止まってはくれない。
一つ進んだかもも思ったら、みんなが離れていく。
そんな気がしてしまって仕方がない。
後ろを歩くのじゃ駄目なんだ、横に並びたいのに。
わたしは十班の日之出アカザだと、声を張り上げたいのに。

じわりと涙が滲んだ気がして、目元を擦る。
一人の修行の時はずっとこうだ。
こんなに修行を頑張っているのに、心はいつまで経っても強くなってくれなくて色々なものに押し潰されそうになって、焦燥が背中を押す。
気持ちばかり先に行ってしまってるのはわかっていた。
現に、最近の修行は全く上手くいっていない。
でも、頑張らないと。やらないと。
あの場所を失いたくないのなら。
目を瞑って自分に何度も言い聞かせるように心の中で呟いた。

「アカザ」

突然、呼ばれた声に思い切り振り返る。
背後に立っていたのはシカマルくんだった。
今日は任務が終わったあとみんなとはすぐ別れて修行をしていたし、いのちゃんたちと遊びに行くというのを聞いていたから、そのシカマルくんが立っていたのに驚いた。

「び、びっくりした、どうしたの?わ、忘れ物とか?」
「いや、」
「あ、ごめん、使う?ここ…」

何か言いづらそうにしていたシカマルくんはわたしの問いにはどれも首を振った。
でも、目線はわたしをずっと向いていたからわたしに何か用があるのは流石に分かった。

「えっと、な、なんか、用?」
「…おまえさ、オーバーワークじゃね」
「お、おーば?」
「いやだから、やりすぎじゃねーのって」

シカマルくんが指差したのは、失敗して地に伏せたままだった傀儡人形たちで、修行のことを言っているのかと合点がいった。
それと同時になんだかその様を見られていたことが恥ずかしく感じて慌てて二体の傀儡人形を巻物に戻した。

「そ、そんなことないよ」
「おまえ、最近任務の後ずっとやってんだろ。休みの日も見かけたっていのが言ってた」
「う、うわー、見られてたんだ、はずかしい」
「…いの達、心配してんだよ。ずっと元気ないし、顔色もよくねーって」
「あ、えっと…ごめんなさい、」
「いや、怒ってるわけじゃねーけどさ」

シカマルくんはそう言ってため息を吐いた。
びくりと体が強張る。
本当にシカマルくんは、みんなは、怒ってないのだろうか。
もしかして、自分が気付いてないだけで任務でもずっと迷惑をかけていた?
そう思ったら自分の胸の鼓動がより一層近くに聞こえて、ギュッと胸を抑える。
だめだ、わたしきっとみんなを困らせてる。
強くならなきゃいけないのに。
足を引っ張りたくないのに。

「ご、ごめんね、ごめんなさい、!頑張るから」
「だから別に怒ってるわけじゃ」
「も、もっと頑張るから、ごめんなさい、出来損ないで、ごめん、なさい、」
「…おい、アカザ?」

シカマルくんの姿が段々とボヤけていく。
泣いたらもっと困らせてしまう。
分かっているのに、止められない。
それに、なんだかとても苦しい。

シカマルくんがわたしを呼ぶ声が遠くに聞こえた。


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