04



ガサリと動いた茂みにわたしは過剰なほど驚いて思わずクナイを投げつけてしまった。
クナイが投げられた茂みから慌てたように出てきたのは小鳥で、ホッとした。

「…みんなどうしてるんだろう」

静かに呟いた言葉は無駄に不安を煽るだけだった。



アスマ先生のスタートの合図のあと、最初にアスマ先生に突っ込んだのは秋道くんだった。
秋道くんが印を組むと途端に秋道くんのからだが膨らみ、ものの数秒で風船のようになった。
確かあれは秋道くんの家に伝わる術。
そのままグルグルとすごい回転をかけ、アスマ先生に突っ込んでいくが軽くいなされしまった。
どうしようと思って隣を見るが、奈良くんも山中さんもそこにはいない。

「逃げ損ねたな、アカザ」

聞こえた声に顔を向けるとアスマ先生が立っていて、わたしは途端に怖くなってしまった。
わたしが今、頑張って鈴を取ってしまえばわたしは下忍になれるのだろうか?
わたしはアカデミーに戻らなくて済む?
一瞬頭を過った考えにハッとして、頭を振る。
今、なにを考えた?

考えを振り切るように、鞄から巻物を一つ取り出し広げた。
ボフンと煙と共に現れたのはわたしが唯一誇れる武器。
それを見て先生が驚いたように声をあげる。

「ほう、傀儡か」
「第一傀儡『夜叉鬼』」

わたしの背丈以上に大きく、頭に真っ黒な逆毛だった髪の毛とそこから大きな鬼の角が二本飛び出している。

「立派な傀儡人形だな、仕込みか?」
「え?あ、い、一応」
「アカザが作ったのか?」
「…い、いえ」

これを作ったのはわたしじゃない。

『アカザ、アンタに母さんの特別をあげる。母さんは使えなかったけど』
『なあに?まきもの?』
『この子達はアンタを絶対に守ってくれるからね』

あの日、もらった。
これは母の形見なのだ。

「アカザが傀儡使いたぁ驚いた。で、その鬼さんは何をしてくれる」
「ま、まだ、逃げ損ねてないので」
「は?」

先生が首を傾げると同時に指先を動かすと夜叉鬼の口がカパリと開いた。
身構えた先生に、開いた口から大量の炎が吐き出された。

「!?」

先生がそれをかわしてる間にわたしはグイッと思い切り腕を引いた。
夜叉鬼はわたしのそばに寄ってきて、そのまま巻物を広げる。
すると、次の瞬間には夜叉鬼は消え、わたしは巻物をカバンに突っ込むと思い切り飛んだ。
逃げることしか考えられなかった。

「あ、あんな大層なもん出しといて逃げ…?」

呆気に取られた先生が、そうぼやいていたのなんて逃げるのに必死なわたしは知る由もなかった。



先生から逃げてから茂みに隠れてもうどのくらい経っただろうか。
制限時間は決められていたからそろそろ動かなくてはいけない。
こうしてる間にもみんなは鈴を取りに行って、わたしの鈴はもう残ってないかも…。
でも、なんだか淋しい試験だな。
昨日あんなに優しかった先生が考える試験とは思えない。
だって昨日先生は「仲良くなってほしい」と、そう言っていた。
それなのに、この試験はそれとは真逆だ。
誰か一人が絶対に落ちなければいけないのだ。

わたしは、思わず俯いた。
そんなの、誰か一人が、なんて。
余り物は決まっているじゃないか。

「はあ、だめだめ。こんなところでずっと一人だからそういうこと考えちゃうんだ。そうなったらそうで、ポジティブに考えなきゃ!…そう!もう一年学べる!とか!」
「おまえやっぱ戻る気満々かよ」
「!?!?な、なな奈良くん…!」

背後からかけられた声に飛び上がった。
振り向くと奈良くんがそこに居て、しかめっ面をしている。

「俺は戻っても戻らなくてもどっちでもいーけどよ、戻らされたらめんどくせーぞ、絶対」
「そ、そうかな…」
「そうかなって…はー、めんどくせー」

奈良くんはそう言ってボリボリと頭を掻くと、わたしに向き直った。

「まあ、どっちでもいいなら手伝えよ」
「て、手伝う?」
「鈴取り。あっちにチョウジといのも待たせてる」
「え?でもそれじゃ、鈴取れても」

奈良くんはわたしの言葉を「それでもだ」と言って断ち切った。

「あいつ相手に一人は無謀だ。全員一度はチャレンジしてる」
「…う、うん」
「じゃああとはもう全員一丸で叩きに行くっきゃねーだろ。…鈴取ってから、アスマのやつ説得してよ…そしたら四人で下忍なれんだろ」
「…四人で?」
「んだよ、俺がここまで言ってんのに戻りてーのか」

奈良くんは頭を掻きながら小さな声でそう言った。
それが照れているのだと分かったからわたしは驚いた。
四人で。
わたしもカウントしてもらえた。
本当なら今もわたしを呼びに来ないで三人で鈴を取りに行ったら何事もなく終わったのに。
でも呼びに来てくれた。

『言いたいことがあれば言う!したいことがあれば言う!』
『言わなきゃ伝わんねーぞ』

昨日のアスマ先生の言葉が脳裏に蘇った。
言いたいこと。
わたしが今伝えたいこと。

「わ、わたしも…!わたしも!みんなと下忍になりたい…!」

きちんと奈良くんの目を見て、声を張ってそう言えば奈良くんは一瞬驚いた顔をしたけどそのあとすぐ小さく笑って、「じゃあ作戦会議だ」と山中さんや秋道くんが待ってるのであろう茂みへと向かった。
言えた。
ドクドクと高鳴る心臓と、体が熱い。
そうか、わたしは本当はみんなと下忍になりたかったんだ。

にやける頬をぱしんと叩いて、わたしは奈良くんの後を追いかけた。


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