07



ジュウ、と網のうえで肉汁を滴らせ、こんがりと焼き色をつけ始めた立派なお肉にゴクリと涎を嚥下させた。

「それじゃ、おまえら改めて下忍おめで」
「あーっ!チョウジ!それあたしが育てたお肉でしょー!?」
「食べ際を見逃しては肉に失礼だからね」
「何意味わかんないこと言ってんのよ!」
「…めんどくせー…」

目の前で繰り広げられる卓上バトルにお肉を見つめていたわたしも顔を上げて苦笑いをしてしまう。
おそらく祝いの言葉を遮られたアスマ先生も苦笑いをしてそれを見つめてからはあ、と深いため息をついた。

「いい連携が見れたと期待してたのに、こいつらと来たら…」
「ほら、アスマ先生食べないの?僕が全部食べてもいい?」
「…」

もはや諦めた顔で口を閉ざしたアスマ先生に同情さえしてしまう。
しかしまあ。
わたしも人のことは言えないな、と、もう目線は網のうえのお肉に向いていた。

十班下忍祝賀会、と称して下忍認定試験のあとにアスマ先生が焼肉Qへと連れてきてくれていた。
焼肉なんて家族では早々食べにこないし、こないだ逃してしまったお団子の件もあって、十班の子たちと食事ができる、さらにいえば、焼肉はわたしの大好物、とあってわたしのテンションはだいぶ上がっていた。
家では我儘なんて死んでもいえないが、焼肉、自分で焼いて食べてみたかったんだよなあ…!
ジッと網のうえのお肉を見つめていたらそのお肉がスッと横からトングに取られてしまった。

「いつまでジーッと見てんのよ、焦げちゃうわよ。はい」

取られたと思ったお肉は、自分の前に置いてあった小皿に置かれて、ハッとして周りを見た。
お肉を置いてくれた山中さんはもう次のお肉を自分の皿に取っていて、隣を見れば秋道くんがお肉いっぱい頬張っているし、奈良くんとアスマ先生もそんな彼を見ながら笑ってお肉を食べていた。
そうだ、わたしみんなとご飯食べてるんだ。
みんなと下忍になったんだ。
そう思ったらぐっとなんだかこみ上げてしまって、お箸を持つ手が震えてしまう。
みんなの笑い声が聞こえる。
みんなのしゃべる声が聞こえる。
なんだか、とっても。

「たのしい」

思わずそうつぶやいていて、あっと思って顔を上げたら思った以上にわたしの声はみんなに届いていたようで、みんながみんなこちらを見て固まっていた。
な、なんだか、変な空気かも。
そう思って弁明しようと口を開こうとしたら山中さんが「はーっ」と脱力していた。

「よかった!あんたさぁ、アカデミーのときも、初日もあんまわたしたちと喋ろうとしないし、誘っても帰っちゃうし、ここ来ても笑わないし…なんていうか」
「…僕たち、嫌われてるんじゃないかなって」
「えっ」

山中さんと秋道くんが言いづらそうに、そう言ってわたしは思わず身を乗り出してしまった。

「そ、そんな、嫌いではないよ…!」
「ほー、嫌いでは、な」
「!?、えっと、そ、そうじゃなくて」

本音が飛び出してしまって、目ざとく奈良くんにそれを拾われた。
嫌いではない。
それは嘘ではない。
だってわたしはこの子たちが『苦手』だった。
でもそれは。
わたしも身を乗り出したままモゴモゴとしてしまってちらりとアスマ先生を見やった。
アスマ先生は、わたしと目があうと優しく微笑んでひとつ頷いてくれて、あの日の『言わなきゃ伝わらない』、先生が言ってくれた言葉を投げかけられたような気がした。
言わなきゃ伝わらない。
わたしも一緒の班の下忍になったんだから。
ひとまず、席に腰を下ろして一度深呼吸をした。

「わ、わたし、みんなのこと、苦手、でした。で、でもそれはみんなが、あの、よく出来る子達だから、で…ほらわたしは、何にもないから。みんなと並ぶの、恥ずかしくなっちゃう、の…」

きっとそんな未来が待っていると思っていた。
誰から見ても枠からはみ出ているのはわたしで、後ろ指をさされるのもきっとわたしだけで。
いつまで経ってもわたしは枠に入れない。
そう思っていた。
でも。

「で、でもね、さっきの認定試験で、みんなが一緒に下忍になろうって言ってくれて本当に、本当に嬉しかったの、それで、わたしも、みんなと一緒にいたかったんだ、って」

きっと苦手なんじゃなかった。
羨ましかっただけなのだ。
仲の良い三人が、優秀な三人が。
わたしもそこに入れたら。
枠の中で肩を並べられたなら。

「ほ、ほんとうは、お団子も、み、みんなと、グスッ、一緒に食べたかった、今もみんなと一緒にご飯、うれしくて、たのしくて、グスッ、
な、なにもないわたし、ですが、十班として、い、いさせてくださ痛ッ!」

ぐずぐずになりながら、なんとかみんなに話していると最後の最後で頭をパシンと、割と強めに叩かれて思わず涙も引っ込んだ。
鼻水をすすりながら顔を上げると、山中さんが眉を寄せて怒ったような顔をしていてギョッとする。
な、なにか、いけないことを言ってしまったかな。
お団子?用事あるって嘘ついたから?
半ばパニックになりながらオロオロと山中さんを見つめると「ばか!」と怒鳴られた。

「なんにもなくない!日之出さん、いやもうアカザ!あんなすごい傀儡持ってたじゃない!わたしにも、ここにいる誰にもできないし!それに!お団子食べたかったらちゃんと言いなさい!」
「…担当上忍とはいえ、アスマ相手に5秒なら動き止めれるっつったの、よかったんじゃねーの」
「なっ、アカザおまえ、そんな大口叩いてたのか!」
「でも実際、アスマ先生動き止められてたよね」
「ぐっ…!チョウジ…」

ポカン、とその光景を眺めながら徐々に言われた言葉たちに、胸がくすぐったいような、ぎゅっとするような、そんな気分になっていたら、目の前の小皿にお肉がまたひとつ置かれた。

「いさせてください、じゃなくてさ」
「…めんどくせーけどよ」
「『これから一緒にがんばろうね』でしょ、ばかね!」
「ま!そういうことだ!」

秋道くんから始まって、奈良くん、山中さん、アスマ先生、と、みんながそれぞれわたしの小皿にお肉を置いてくれて、それを見てフフフッと笑いがこみ上げてきた。
これからはわたしも枠の中に。
肩を並べていけるように。

「こ、これから一緒にがんばろうね!」


その日、みんなから分けてもらったお肉は今まで食べたどんなお肉よりも美味しく感じた。


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