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絶えず、人々が行き交い、陽気な声が飛び交い、甘い匂い、食欲をくすぐるいい匂い、様々なものがその通りには溢れていた。

「どこから見よう…」

どのお店も素敵に見えてしまって、テーマパークに来たような気分だ。
今日は、マリンフォードのなかにある街へと買い物に来ていた。
衣服の調達が主な目的だったが、クザンさんが「すこし遊んできなさい」と、多めにお金もくれた。(貰ったのは貨幣とお札で、見た目からかなり貰ったように思えたが、こちらのお金の単位が計り知れないので実際はどのくらいなのかこわいところである。)
まるで親戚の叔父さんのようだ。
そんなクザンさんは今、そばにいない。
なにやらどうしても外せない仕事があるのだそうで。
それでも、送り迎えをしてもらえる。(それだけでも全然ありがたいというのに、クザンさんは何度も謝った。)

クザンさんが、この通りなら比較的見るものも多くあるし、直線な道だから迷わず楽しめるだろうとこの通りの入り口で別れたのだ。
別れたときはほんの少し心細かったけど、相手は海軍のお偉いさんで、しかも仕事があるのだ。
我儘などしんでも言えない。

クザンさんの好意を無駄にしないよう、せめて少しでも楽しまなければ!
なんてのは建前で、自分が楽しみたいだけなのだが。

クザンさんからもらったお金が入った袋を握りしめ、わくわくした気持ちとともに、一歩を踏み出した。




最初に、一番の目的である洋服を数枚買って、雑貨屋さんで日記用のノートを数冊とペンを買った。
それから、少し歩いてフルーツ屋さんのおじさんに勧められたフルーツを買って、食べながら歩いた。(初めて見る形だったけど、パイナップルのような味がするとってもおいしいフルーツだった。)
途中、すごくファンシーないかにも女性向けというお店に入って、ちょっとひやかしたり、広場でアイスクリームを食べたりした。

広場のベンチに座り、走り回る子供を見ながら一息ついた。
まだ序盤しか見ていないが、充分と言えるほどに満喫してしまっていた。
通りにあるお店は入らずとも、ウィンドウショッピングをするだけでとても楽しめたし、マリンフォードにあるというだけあって、街の人はみんな誠実で、優しい人ばかりだ。
そんな人達と接するだけで、なんだかお腹いっぱいになってしまった。
それに買うものもほぼ買ってしまったし、とクザンさんからもらった袋のなかを覗くが正直、全くといっていいほど減っていなかった。
これでも、洋服以外で自分のためにいくらか使ってしまったので、少し申し訳ないのだが、せっかくもらったのに使わないというのも、失礼なのかも…。
どうしようか、と広場から通りを眺めると、あるお店が目についた。

「本屋さん…か…」

そういえば、わたしはなかなか外出できない身であるし、退屈を凌ぐにはいいのかもしれない。
ベンチから腰を上げて、その本屋に向かった。



本屋の中は外から見ていたより、全然広くて色々な色の背表紙が、天井まである本棚にぎっしりと入っていた。
本を読むのは元々すきだったし、これだけたくさんあると選ぶだけでもかなり時間を潰せそうだ。
歩きながら背表紙を見ていくと、英語やらただの記号のような文字やら、この世界は言語が統一していないのか様々だった。
適当に、ひっぱり出してはめくって中を確かめる。
英語なら単語を拾ってなんとなく読むことができたが、この読み方では内容を楽しめない気がした。
しばらく、歩くと一つの背表紙が目に飛び込んできた。
『正しい航海のススメ』
しっかりと読むことのできたその文字は紛れもなく、わたしが慣れ親しんだ日本語だった。
手にとって、開いてみても書かれてる文字は全て日本語だ。

「そういえば、センゴクさんが着ていたマント、正義ってあれ漢字だったよね」

こちらの世界の人は日本語も読めるのだろうか?
隣の本に目を移せばそれも日本語で、よくよく見てみればその本棚は全て日本語で、やっと楽しめそうな雰囲気だった。

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