04


「クザン、ちょっといいか」

呼ばれた声に振り向けばセンゴクさんは先ほどとは打って変わり、何やら神妙な顔つきをしていて、俺はため息を吐いて目の前の少女に話しかけた。

「ごめんね、ちょっと外で待っててくれる?」

少女はセンゴクさんを見てから、俺を見上げて、不安そうに「ハイ」と小さく返事をした。
それに苦笑しながら、少女の顔に合わせるように身を屈める。

「大丈夫、俺への説教だから」

小さい頭に手を乗せながらそう言えば、少女はうろたえながら小さく謝罪して扉から出て行った。
扉がしまったのを確認してから、センゴクさんに近づく。

「で、なんですか」
「ユイには言わなかったが、過去の異邦人が全て害が無かったとは言えんのだ」
「…あの子が害があるって?」
「そうじゃない。だが、あの子は今までとは違う。…疑いたくはないが」

そう言ったセンゴクさんは険しい顔をしていて、過去の害を及ぼしていった異邦人でも思い出しているのか。

「ここは軍の中枢。疑わない訳にはいかない」
「…」

そうではあるけど。
怯えた横顔、俺の手を強く握りしめた小さな掌。
俺は先ほどまでの彼女を思い出して、彼女を疑うなんて出来やしなかった。

「もしもの時は」
「分かってますよ」

センゴクさんの口から続きを聞きたくなくて、無理やり言葉を被せた。
俺だって腐っても海軍大将だ。
そのくらい分かっちゃいる。
だけど、今はそんなこと考えたくはなかった。

「なら、いい。それから、部屋は空いてる部屋を当てがってやりなさい。しっかり設備の整った部屋にして、あと…何がおかしい」

そう言っているセンゴクさんは、とても海軍の厳格な元帥には見えなくて、孫にモノを与える祖父のように見えて、思わず笑ってしまった。

「いや、センゴクさんらしくねェなって」
「…あの子の怯えた顔はどうも、苦手でな」

参った、とでも言うようにセンゴクさんは苦笑した。
それには俺も同感で、あの子の怯えた顔はなんというか良心的なものがとても抉られる。
怯えた顔なんていくつも見てきたが、ああも心を掻き乱されるようなものは初めてだ。

今ももしかしたらあの顔をしてるんじゃないか、などふと思ってしまってセンゴクさんに背を向けて扉へと向かう。

「クザン!それから別件でおまえには話があるから後で来い!」
「…あらら」

さっきの優しいセンゴクさんはどこへやら、いつものセンゴクさんに戻っていてヘイヘイと適当に返事をした。


ちいさな異邦人


(扉を開ければやはり少女は怯えた顔でそこにいた)
(「待たせたな」)
(声をかけただけでその肩は跳ねて、)
(怯えた瞳がこちらを見ていた)

prev / next

top / suimin