08


朝からユイちゃんはどうも元気がなかった。

部屋に迎えに行った時も「よく眠れました」なんて彼女は言ったけど、到底そんな顔ではなかった。
昨日の今日だから当たり前なのかもしれないが。
無理やり作ったような笑顔で言われてやはり良心が痛む。

食堂に行けばその広さと人の多さに感動したように声を上げ、キョロキョロと辺りを見回していたが、海兵が俺に気づくなり挨拶をしてくると途端にユイちゃんは俯いて、小さくなっていた。
食事中も静かにしているばかりだし、口を開けば謝罪だ。
嫌にはならないが、いい気持ちではない。
どうにかしてこの子の気を少しは紛らわせてやれないか。
自分がそんなこと思うなんて、と驚いたがなんというか意地のようなものでもある気がした。

そして考え抜いた策が『お散歩』
まあいやユイちゃんのため半分、あとは俺のサボり口実であったりもするわけで。
だが、これは実にいい結果をもたらした。

自分の悪魔の実の能力で凍らした海の上を自転車が走ると、ユイちゃんはとても驚いてくれた。
まあまだ悪魔の実についてはセンゴクさんから止められてるから言えないけれど。
凍る水面が気になるのかずっと俯いてばかりだったから、顔を上げてみなと言えばユイちゃんは目を輝かせた。

「わあ…!すごいです…!」

横目でその表情を見つつ、自分も小さく笑う。
よかった。
だなんて、柄にもなく喜んでいる自分がいた。

ユイちゃんの世界について話を聞いているとイルカが水面に顔を出して、その時のユイちゃんは相当はしゃいでいて俺は思わず吹き出した。
なんだ、こんな表情もできるんじゃないかと。
安心に近かったのかもしれない。

ユイちゃんは笑われたと勘違いしてまた謝ってきたが、やはり謝罪はいい気持ちはしない。
それを伝えれば、ユイちゃんは随分迷って口を開いた。

「クザンさん!ありがとうございます!」

その時のユイちゃんは初めて見る笑顔で、ほんの少し照れたようにはにかんでいた。
できれば、この子にはずっとこの顔をさせてあげたい。
せめて、ここにいる間だけでも笑っていて欲しい。
柄にもなくそんなことを思いながら、どういたしまして、と言えば彼女はまた照れたようにはにかんだ。



ありがとう


(やっと彼女から聞けた言葉だった)

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