どうしてこうなったのか。
テーブルに置かれたハニーアイスカフェラテの中身がからりと揺れる。
ああ、気まずい。
「リナリア、次はどこに行こう?」
その声に顔を上げると、楽しそうに笑ったアイリスが向かいのテーブルからこちらを見つめていて、わたしと目が合うと嬉しそうに微笑んだ。
わたしは、苦笑いしかできない。
「ここに来る途中の道のブティックも気になるし、ここはスイーツが有名なお店もあるの!そこにも行きたいわ、あと」
「アイリス、それ全部おまえが行きたいところだろう」
横から聞こえた声にわたしはもう机に顔を突っ伏したいくらいだった。
からからとブラックコーヒーをグラスを回して、おかしそうにくつくつ笑ったのは、船長で。
「違うもの!これは一つの意見を述べてるだけよ、最終決定はリナリアだもの!」
「どうだか」
船長の言葉に憤慨!と言った感じで答えたアイリスに、船長も茶化すような口調で返事をする。
かれこれ10分近くはこの二人の仲のいい様子を見させられるという、わたしにとっては苦行を強いられている。
どうしてこうなった。
今日は、わたしも街に出ていい日で、昨日海賊団で必要なものはみんなが買ってきたし、今日からは個人的に必要なものを揃えていくようになる。
そういう買い物になると、わたしはいつも一人で買い物に向かうため今日もそうしていた。
町の栄えてるところを粗方見て、次の島まで長くなることも想定して必要なものを揃えていった。
お昼時になって、近くのカフェテリアでご飯を食べながら午後は気になったお店を回っていこうかな、なんて思っていた、そのときだった。
「リナリア!」
後ろからかけられた声に思わず飛び上がる。
今の声は。
恐る恐る振り向くと、満面の笑みのアイリスが店の入り口でこちらに手を振っていて。
ああ、もう神様。なんで。
隣にはお決まりかのように船長がいた。
アイリス達は店員と二、三言葉をかわすとこちらに近づいてきたのだ。
ええ、まさか。
そして何食わぬ顔をして二人は向かいの席に座った。
「相席、失礼するわね。いい?」
座ってからその言葉は無意味なのでは?
「…う、うん、」
まあ頷くことしかできませんけどね!
そうしているうちに、ポンポンとアイリスが午後の予定を決めて行く。
わたしの予定などお構いなしなようで。(最終決定はリナリアの言葉はいずこ。)
彼女が決めるお店はどれだって、わたしが行きたいお店じゃない。
ブティックも、スイーツも。
わたしは、気にならない。
アイリスが決めたからとかではなくて、わたしは本当に気にならないのだ。
気づけばわたしの分のお会計も済まされていて「さあ、行こう!」とアイリスに促されるまま、立ち上がる。
わたしの前に、並んだ二人が歩いていて、絵面的にも、わたしの心的な問題でも、かなり辛い。
このままトンズラこいじゃおうかなあ。
わたしを誘ったくせに、アイリスはこっちをあまり気にしていないし。
あーあ、わたしってほんと性格悪い。
そう思って足を止めたときだった。
「リナリア?」
慣れ親しんだ声に呼ばれ振り向けば不思議そうな顔をしたペンギンと、その後ろにベポとシャチがいた。
「あ!アイリスとキャプテンも一緒じゃねえか!」
シャチがわたしの前を歩くアイリスと船長にも気づき、声を上げると前を歩いていた二人もこちらを振り返った。
キャッキャと嬉しそうに話し始めたのを見てわたしはトンズラこけなくなった、とそれを苦笑して見ていた。
「珍しいな」
隣にペンギンが来て、やはりわたしを不思議そうな顔で見ている。
何を?という意味を込めて首を傾げれば騒ぐアイリス達の方を見た。
「おまえ、いつも買い物は一人だろ?誰かと一緒なのは珍しいな、と」
わたしはそれにまた苦笑した。
好きで一緒にいるんじゃないやい、と言いたかったがまあ言えるわけもない。
「そうだ!シャチ達も一緒にショッピング行きましょう!おいしいスイーツのお店行こうねって話してたの!」
そう言い出したアイリスにシャチとベポが賛同の言葉を返した。
まあこうなる気はしてたけど。
小さくため息を吐き出すと、突然、手首が掴まれて顔を上げる。
犯人は隣にいたペンギンでアイリス達の方を向いている。
「悪い。リナリアはこれから用があるから、連れていっても構わないか」
「え?」
「あら、そうだったの?うーん、残念だけど用があるなら仕方ないわ、また後日行きましょう」
「悪いな。行くぞ」
ポンポン進んでしまって何が起きてるか分からないまま、ペンギンに腕を引かれ歩き出す。
チラリとアイリス達を見ると、船長とバチリと目が合ってしまい慌てて目をそらした。
「ね、ねえ、ペンギン?用って何だっけ?ごめん、わたし忘れてた」
しばらく歩くと、ペンギンは手首を離してくれて、すっかり忘れてしまっていた用事について慌てて聞けばハハハと笑った。
「用なんてないよ」
「…え?」
「おまえ、行きたくなかったんだろう?」
ズバッとそう言われてドキリとした。
「少なくとも、俺にはそう見えたんだが…行きたかったか?」
「ううん!全然!」
思わず大きな声でそう答えてしまって、罰が悪い。
ペンギンが一瞬驚いたあと、「じゃあよかった」と笑ってくれた。
ペンギンってすごい。
しみじみとそう感じた。
「行きたいとこはどこだ?」
「え、一緒に行ってくれるの?」
そう聞けば、ペンギンは少し考えてから「嫌なら着いていかないが」と困ったように言うから慌てて首を振った。
「ううん!逆にありがたい!一人でも行けるんだけど、ちょっと女は入りづらいとこで…」
「どこだ、それは」
「…武器屋なんだけど…」
ふと、さっきのアイリスのスイーツやらブティックやらを思い出してしまって自分の発言がいかに女の子らしくないかが顕著で、尻すぼみに答えた。
そうすると、ペンギンは小さく笑った。
「お前らしいな」
なんだかその言葉に安心してしまって「ありがとう」と返すと、ペンギンは「何がだ?」と不思議そうな顔をしながら歩き出した。
ペンギンが来てくれて本当によかった。
久々に楽しい気持ちで着いていくと、ペンギンが困ったようにこちらを向いた。
「俺もスイーツには興味がないからな」
武器屋のほうが楽しい、そう言ってくれてわたしはそれに大きく笑った。
ペンギンと武器屋を思う存分に堪能した帰り道。
ペンギンが武器屋にいるときからずっとニコニコとわたしを見ていて、ついに気になって聞いてみた。
「なに?わたしの顔なんかついてる?」
隣を歩くペンギンは「別に何も」と、やっぱり機嫌良さそうに答えるだけだ。
「最近、笑顔を見せなくなった人が、笑ってくれてな」
小さな声で、そう照れ臭そうに続けられた言葉に、びっくりしたものの泣きそうなくらい嬉しくなった。
ペンギンって、本当にすごい。
そう思いながら、ペンギンの脇腹を小突いた。
「よかったじゃん」
そんな冗談も交えて。
ペンギンはそれにすらも嬉しそうに笑ってくれて、わたしは胸がほっこりあったかくなった。
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