09
「どこまで着いてくる気?」
「コンビニ行くんだよ」
げ。声に出たかは分からないが、顔には出てしまったと思う。五条に「おまえは?」と聞かれて、咄嗟に嘘も吐けずに、そのままの表情で「いやまあ…」と返すと「なにその顔」と笑われた。
「コンビニ行く、つもりだった」
「なんだよ、つもりって。じゃあ行こうぜ」
今度は五条がわたしの先を歩いていて、もう引き返すことも出来ない。まあ行き先が同じなら仕方ない。よく考えてみればそこまで嫌がることもなかったか。大人しく着いていくことにした。
「で、結局、かおりはここ住んでんの?」
「えー……、まあ、そうだけど。教員寮」
「へー」
「聞いた割には興味なさそうだね。五条は実家帰らないの?」
「あー、帰るよ。明後日。今日明日って傑たちと騒ぐからこっち居る」
「…ふふ、本気?寂しい奴らだなあ」
思わず笑ってしまった。今日明日って、今日が何日だか分かっているのだろうか。今日は12月24日、明日は25日。クリスマスだというのに。五条のその発言は「一緒に過ごす人が居ません」宣言と言っても過言なのではないだろうか。
笑ったわたしに五条も意図を汲んだのか、ムッとしたような顔をした。
「うるせーな、変な時間に任務入れられてんだよ皆。つか今日おまえもぼっちじゃん」
「今日一人だからって明日も一人とは限らない」
「へー、相手いんの?」
「…居ないけど」
五条が噴き出した。形の綺麗なそのケツに蹴りを入れてやりたい。気持ちをぐっと堪えて、舌打ちに留まらせた。
「いいんだよ、相手なんて作ったってどうせ意味ないし」
相手なんかいるはずもない。補助監督になってから、忙しくてそれどころじゃなかったし、そもそも作る気もない。
だって、余命8年の女だなんて誰が欲しいだろうか。
死ぬ恐怖なんてない。未来が無いことに怖さも、未練も持っていない。だけど、これには少しだけ寂しい気持ちだ。
「じゃあ明日、俺らと一緒に居る?」
あ、と思った。そう言った五条が、さっきまで笑っていた五条が、少し真面目な顔をしていたから。五条は、わたしの事情、寿命のことを察しているのを忘れていたし、意外にコイツが気を遣える男だというのも忘れていた。ぽろっと溢したわたしの一言で、変な気を遣わせてしまったと思った。
「…いいよ、若者で楽しみな」
「おまえも別に変わんねーだろ。俺、こないだ16になったし」
「あ、誕生日だったの?いつ?」
「12月7日」
「それは、おめでとう。やだな、近づいてきたわけだ」
茶化すように「わたしは19歳で歳止まっちゃったことになるから同い年まであと3年?」と笑いながら指折り数える真似をする。
五条は16歳。あと3年、五条が高専卒業と共にわたしと同い年になる。今3歳も差があるから、実感など湧かなくて変な感じだ。
その頃わたしの寿命もあと5年。果たして、今と同じように笑っていられるのだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にかコンビニが見えてきて、夕飯の具材に考えをシフトさせた。キムチ鍋とかにしようかなあ。コンビニに置いてある具材などたかが知れているけど、せめて今日は良い晩餐にしたいと微力ながら自分を労ってあげることにする。
軽快なコンビニのチャイムを聞きながら入り口のカゴを取って、食品コーナーに向かった。五条は反対方面へと向かっていて、お菓子コーナーでいくつかのスナック菓子の袋をカゴに放り込んでいた。それを見てわたしも目当ての食品を一通りカゴに放り込む。シメ用の麺までカゴに入れてあとはレジでお会計だけ、だというのにわたしの足はあるコーナーで止まった。
「まったく、コンビニマジックだよねえ」
予定のないコーナーに寄ってしまうのはコンビニの魔力か?それともただ単にわたしの決意の弱さ?
目の前に広がるのはスイーツコーナー。クリスマスということもあって、棚にはいつもよりも豪華で華やかな期間限定スイーツが並んでいる。
明日はクリスマスだし。なんて、吟味する目が止まらない。今日に限らずコンビニスイーツ買って帰ったりもしてるのに。
定番のショートケーキ、粉砂糖のかかったティラミス、真っ白なロールケーキも捨てがたい。顎に手を当てながら熟考していて、はたとひとつの商品に目が止まる。
「期間限定クリスマスプリンパフェ…」
緑と赤のクリスマスカラーのラベルに金文字でそう書かれていたそれは、最上段にプリンが乗っかっていて、その下はケーキのようにスポンジと生クリームの層になっている。サンタの形をしたクッキーが、いちごと共にプリンの上に乗っていた。
すごく美味しそうだというのもあったが、ふと五条と任務に行った時に食べたパンプキンパフェを思い出したのだ。
あの時はわたしが食べたいと言ったのに忘れていて、五条の方から食べないのか、と言われて驚いたのだっけ。思い返せば、その時だ。五条が存外、優しい男なのだとわかったのは。
小さく笑って、ラスイチだったそれをカゴの中に入れた。
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