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「くっせえな、おまえ」

小さな車内に響いた言葉に、ハンドルを握っていたわたしは前だけを向いていた。誰に向けて言われたものか?そんなのバックミラーを覗き込めば、その声の主はわたしを睨みつけているからわたしなのは明白だけれど。
後部座席に男子が二人。わたしの後ろに座った男子は「おい、」と未だわたしのことを睨みつけているもう一人の男子を嗜めているようだった。
無視をして自分もシートベルトを締めて、キーを回そうとすると座席が揺れた。

「おまえだよ、運転手さん」

蹴ったな。わたしの車じゃないから別にいいけど。
キーを回すのを止めて、バックミラーにしっかり目を合わす。
銀色の髪に丸い特徴的なサングラス、そこから覗く青い瞳と目が合う。五条悟。今年入学してきた天才だ。

「くさいですかあ」

あえてアホっぽく答えてみればあからさまに男はイラついた顔をした。これは少し意地悪だ。本当は分かっている。この五条が何にくさいと言っているのか。

「くせえよ、もっとうまくしまえ」
「目がいいと大変ですね」

バックミラーに手を掛けてクイと横に振る。五条がミラーから居なくなって隣に座っていた男子が映った。夏油傑。今年入学したもう一人の天才。
ミラーに映された夏油は驚いた顔をしている。「気になりますか?」夏油に向けてそう言えば「いえ大丈夫ですよ」とすぐ笑顔で返答してくれた。

「あなただけが気にしてるのであなたが我慢をしてください」
「は?」
「そしてこれはアドバイスです。椅子は蹴るものじゃない、五条悟」

キーを回しながら静かに言う。車にエンジンがかかり、アクセルを踏んで前進させた。ピリッとした空気は伝わったけど、もう何も彼は言わなくなったので前を見据えながら本来の仕事に戻って口を開いた。

「補助監督の山谷かおりです。任務先は世田川第二小学校。子供が数人居なくなっています」
「どのような風に?」
「階段二階の踊り場に、上履きをきちんと揃えて」
「全員?」
「はい。彼らが居なくなったのはおそらく放課後。子供だけが居なくなっています。知性があると見れますので二級であるということは覚悟しておいてください」

まあこのメンツで心配も何も無いか。案の定、五条の「余裕だわ」という言葉を聞きながら、曲がり角を右折する。

「あなたたちは入学してまだ二ヶ月です」
「…あ?任せらんねえとか言わねえだろうな」
「ええ、任せられないです。なので、わたしも同行します」

一瞬だけ車内の誰もが黙り込んだ。車の走行音だけが聞こえる変な沈黙のあと、夏油が「あの」と声を発した。

「山谷さんは補助監督ですよね」
「そうですよ、でもそのような任務内容ですから」

それぞれの顔は見てないけど、混乱する二人が透けて見えた。
本来、わたしが仕事としている都立呪術高専の補助監督は、任務には同行しない。今のわたしのように任務へ向かう呪術師を車で送り届けたり、任務を外からサポートする。でもわたしは、違う。

「余計な手出しはしません。わたしへの任務内容は、同行、だけですから」

また、変な沈黙ができた。そんなにも頼りないかい。その気持ちは分からなくもないけど。
それから先は目的地に着くまで誰も喋らなかった。



「この踊り場には残穢が残っている感じはしないな」
「西階段にもう一つ踊り場がある、そっち行くか」

夏油が踊り場の壁に設置された大きな鏡を見上げながらそう言えば、五条が事前に渡した見取り図を見ながら階段を昇っていく。その五条の後ろを夏油が続いていき、さらに後ろをわたしが続いた。
目的地に着いて、一般人への目眩しとして帳を降ろしてから(これも補助監督のお仕事だ)、二人と一緒にわたしも校内へと入った。
小さな呪霊はちらほら出るが原因であろう呪霊は見当たらない。証言にあった階段の踊り場にも来てみたが特に何も無いようだった。
少しだけ心配だった二人は任務となればきちんとしていたし、車内では任せられない、なんて言ったけどそれは建前で本音は任務なので仕方なく、だ。例え、相手が二級だろうがこちらには二級呪術師が二人も居る。わたしはいらなかったんじゃないだろうか。

足を階段にかけたのが先だったか。
耳元で音が弾けたのが先だったか。
身体が飛んでいた。

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