02


体の上に乗った瓦礫を分けて起き上がった。どのくらいだ?二分は沈んでいたかもしれない。
立ち上がると、教室の真ん中で学習机や壁なんかを巻き込んで周りは瓦礫で埋めつくされていた。視線の先にさっきまでいた踊り場が見えたので一階の階段前の教室に、殴り飛ばされたか蹴り飛ばされたかしたのだろうと思う。一年達を巻き込まない方向に飛ばしてくれたのは良かった。
首や肩を回すとバキバキと骨が小気味良い音を立てる。廊下まで出ると、上階から轟音が聞こえたため、おそらく上で五条達が戦闘中だろう。
踊り場まで上がる階段は階段としてもう機能していないほど抉れていた。しかし、踊り場と大きな鏡だけは何も無かったというほど綺麗なままだ。やはり原因はここで間違いないのだろう。
上階に上がるため、一段目に足をかけると、踊り場の鏡がとぷりと闇に染まる。ぬ、と闇から顔を出したのは、呪霊。頭から順番にその全貌が露わになっていく。人間の顔、それも子供だと思しき頭がいくつも身体から飛び出していた。泣き顔、笑顔、怒り顔。表情も様々だがどれもが負に満ちている。その呪霊は、鏡から体を全部出し切るとわたしを見下ろした。

「イキテル、マダイキテル」
「お前か?わたし殴ったの」
「アソボウ」

身体から突き出た顔達が一斉にそう口を動かして、刹那。身体を飛び上がらせると、わたしのいた場所に大穴が空いた。技の威力から見てもこの呪霊は一級かもしれない。まずいな。途端に未だ見えない彼らが心配になったが、まだ西側上階からは戦闘音らしきものが聞こえ、杞憂だった。それと同時に、ふむ、と顎に手を当てた。

「二匹で行動しているか、それか身体を二つに分けれるな?その踊り場の鏡と西側の鏡、つながっているだろう」

廊下に降り立って呪霊にそう言えば、そいつはニタァと笑みを浮かべた。おそらく正解だ。西側でまだ戦闘が続いているからもしかしてと思った。

「ワカッテモデキナイ。殺シテオワリ」
「そうだな、分かったところでやることは一緒だ」
「オワリ」

呪霊がぐ、と足を曲げるのを見て右腕を大きく後ろに引いた。手出しはしないと言ったけど。呪霊が目の前まで迫ったと同時にその右腕を前に、突く。

「ア?」

ぽかりと呪霊の腹に大きな穴が空いていた。向こう側までしっかり見えるほどわたしの拳が貫いていた。
穴から見える向こう側、距離は離れていたけど青い瞳と目があって、あ、と思う。
穴の中で、突き出したままだった拳を、親指と中指の腹を合わせる形に変えた。

「ちょっとだけ手伝わせてもらうよ」

パチン。すり合わせた親指と中指から小気味いい音が弾かれて、目の前の呪霊が爆散した。残骸も残らないほど綺麗に消えたのを見て、息を吐く。
向こう側に立っていた男もいつの間にかすぐ近くにまで来ていた。

「そっちは終わりましたか?おそらく踊り場同士で鏡が繋がっていて二匹か、もしくは一匹が分かれていたみたいですけど」
「なんで補助監督なんてやってる?」
「そっちは。終わりましたか。先に質問したのはわたしですよ」
「終わってる。で?」
「有限なんですよ」

五条の後ろには夏油も居てわたしが立っているのに驚いている。「すいません、今回の一級だと思います。事前情報が錯綜しましたね」二人にそう言って展開していたままの帳を解除した。何はともあれ、任務は完遂だ。面々の顔を見ると、一級相手でもそこそこ余裕だったことが窺える。昇級もすぐだろう。

「お疲れ様でした。同行のくせに足を引っ張りました」
「…いえ、山谷さんも。無事だったようで何よりです」
「反転術式か?即死級だったよな?」
「とりあえず、車に戻りましょう」
「質問に答えろよ」
「車までお利口にしてたら答えますよ」

二人の脇を通って校舎の外へ向かう。思った以上に校内の損傷が激しくなってしまった。高専への報告も多いな。この後、補助監督としてやらねばならないことで頭を悩ませていると背後の二人、特に五条が馬鹿のように静かで溜息を吐いた。この男、本当にお利口にする気だ。

車に戻って座席に着くと、行きに体験したより強めに座席が揺れた。

「お利口にしただろ」

バックミラー越しに見えた五条は行きとは真逆の笑みを浮かべていて、もう一度わたしは溜息を吐いた。

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