04


「まあ、死なないんだ。有限だけど」

高専前の車道脇に止めた車内、いつまで経っても、何を言っても、車から降りる気配のない後部座席の二名(主に一人だけど)のために諦めて口を開いた(ちなみに猫被ってつけていた敬語は、道中めちゃくちゃしつこい五条の質問ラッシュを躱している際に、どうでもよくなった)。
しばらくの間のあと、「術式か?」という五条の問いに「違う」と返す。

「これはただの呪いだ。被呪者ってやつ。先祖代々、受け継いできたものだ。この蛇がそれ。御先祖様は、この蛇を怒らせてしまったらしい、その時の呪い」
「その蛇、おまえが殴られてからデカくなったけどそれが本来の姿か?」
「いや知らない。呪力で抑えてるけど本来の姿は見たことない」

もうすっかり見慣れてしまった肩に乗る蛇、気を抜いてるとたまに頭を覆うくらい大きくなっているけど、基本はわたしの頭と同じくらいの大きさ、もしくはそのくらいなら呪術師でも見えないレベルになることは知っている。
おそらく、任務前に五条が「くせえ」と言っていたのは、わたしが気を抜いていたから大きくなってしまっていたのだろう。彼の目はよく視える。

「術式じゃないから、『情報の開示』をしてるけど意味もない」
「有限で死なない、というのは?」

いつの間にか、夏油も興味深そうに聞いていてまだまだ車から降りられそうにないことを知る。

「そういう縛りなんだよ、この蛇との間で。八年間だけ死なないし、老いることもなく、力を与えられる」
「なんだその八年って」
「この蛇、八頭あるだろ。その一頭一頭に魂があるんだ。その一頭分が一年分」
「今は何年目なんです?」
「一年目。ついこの前の六月に母から受け継いだばっかり」
「何歳?」
「君、デリカシーを学べば?19歳だよ、20歳は迎えられないね」
「八年が終わるとどうなる」

答えては問われ、問われては答え。淡々と答えていたわたしの唇が止まる。
八年が終わると。脳裏に蘇った、殺風景な検査室。グレーのビニール。その中に眠る母の遺体。
次は、わたしの番。
八年間だけ与えられた膨大な力と不老不死の身体。そんなものにリスクがないわけがない。6月8日に母が亡くなって、わたしに呪いが受け継がれたあの瞬間から、わたしはあと八年しか、
生きられない。

「それは、秘密」

座席にもたれ掛かりながらそう返した。意味は無いけど、言わなくてもいいと思った。
祖母も母も、そうだった。前代の被呪者、わたしでいう母はわたしが11歳のときに、祖母から呪いを受け継いで、ついこの前、八年の命を終えた。
自分が死ぬ実感は湧いていない。いつかは死ぬんだ。それに八年という規制がかかっただけ。その八年さえ満喫できれば、母のように苦しまずに死ねるんだ。恐れはなかった。

「その蛇は祓えねーのかよ」
「祓えるんじゃない?どこに居るのか分からないけど大元はいる」
「祓えよ」

強い言葉に、座席に背は凭れたままバックミラーを見る。五条が強い眼差しを向けていた。何を察したのかそんなふうに見られてもね。「別にこのままで構わないよ」わたしは笑った。

「強い力も、老いず死なない体も、便利だ。さっきの任務だってあれは即死だったね、痛みを感じなかったから。でも、生きてる」
「…」
「自分の力が有限だから、という理由もあるけど、補助監督は高専時代から夢だったんだよ。上は認めてくれなくて、たまに今日みたいに同行を強制されるけど」

言ってることは全部本当だ。強がってなどは決していない。けれど、この一年生たちは優しいのかもしれない、意外なことに。
バックミラーに映る二人は顔こそ上げているものの口を開かない。理由を察して言葉でも選んでいるのだろうか。夏油はともかく、五条の方にそんな知性があるかは分からないけど。「ありがとう」二人に聞こえるかは分からないくらいの声で呟いて、凭れかかっていた背中を座席から離した。

「満足したでしょ。終わり。わたしにはまだ仕事があるんだ、いい加減降りてよ」

車外に出ると、真夏の熱気は鳴りを潜めて、少しだけ涼しい。もう18時は過ぎているだろうがまだ夕方のような空だ。遠くで鳴くヒグラシの鳴き声を聞きながら、携帯を弄っているとやっと後ろのドアが開いて、二人が降りてきた。

「今日はありがとうございました」
「いいえ。わたしは何もしなかったよ」
「俺らだけで充分だったな」
「…五条は夏油くんのような謙虚さが必要だよ」
「んだそれ、不味そ」

車から離れる五条を追って、一度こちらに頭を下げてからその後を夏油が続く。正反対なようで、似ているようで。これからさらに、仲が良くなるんだろうと思う二人に小さく笑って、鳴り響いた着信音に携帯を見つめる。ディスプレイには高専の文字。出そうになったため息を呑み込みながら、通話開始ボタンを押した。

「はいはい山谷です。五条と夏油は送り届けましたよ、さっき。…え、いやいやわたしが悪いんじゃなくて二人が………あーはいはい、分かりました分かりました、急ぎ報告書作ります」

受話口から聞こえるお叱りの言葉に適当な返事をしながら車内へと戻った。


出会いと共にわたしの寿命を、二人が知った。
わたしの寿命は残り、八年。

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