05


コンコンと運転席の窓がノックされた気がして、目を開ける。寝に入ることは無かったけど軽くうたた寝をしていた。顔を上げ窓を見てうわ、と思う。

「早くカギ開けろ」

窓越しでくぐもった声ではあるがイラついた声なのはすぐ分かった。ドアのロックを解除すると、ぐるりと反対側に回って助手席のドアが開いた。
乗車してきた男は、座席をMAX後ろに下げて深く座るとインストルメントパネルに行儀悪くその長い足を乗っけた。

「君さ、他の補助監督の車乗ってもそんな態度なの」
「喜べよ、かおりの時だけだよ」
「今世紀一うれしくない」

悪びれもなく言い放った五条の面白くない冗談に舌打ちを寄越して、エンジンをかけて車を発進させた。
どういうことか初めて会った8月の任務から、やけにこの五条悟に懐かれた。補助監督として五条を任務地へ送り迎えする数はそんなに多くないけど、気づいたら五条はわたしをかおりと呼ぶようになっている。先輩だと言い聞かせても聞いちゃくれない。まあ呼び方なんてどうでもいいけど、生意気さにさらに拍車がかかってきたなと思う。
しばらく車を走行させると唐突に「忙しいの」と声をかけられた。

「まあ、忙しいね。先週くらいから各地でハロウィンに乗じたオールナイトイベントが開催されてる。お祭り気分のまま一晩騒いで、知らぬ間に乱闘に発展したり。負の感情がみるみる集まって何かしら起こるから。万年呪術師は人不足、顕著だな」

呪術師が忙しくなるのは基本的に初夏が多いのだけど、この時期もまた少し忙しくなる。人が集まる場所というのは例えお祭りの楽しい場であろうとも、色んな感情を持った人間が現れる。祭りの混乱に乗じて憎いアイツに何かしてやろうだとか、気が大きくなってちょっとしたことで通りがかりと殴り合ったり。楽しい気持ちだけの人間ではない。そこに、呪霊が寄ってくる。
先週から呪術師への出動依頼が増えていた。補助監督のわたしも例外ではなく、一人車で送ったらその足で違う呪術師を迎えに行って、また別の呪術師を…なんて生活が続いて、睡眠不足だ。今日もエナジードリンクを三本飲んで挑んでいるが眠い気がする。
助手席に乗った素行の悪い呪術師界隈の天才を思って、車での事故だけは避けねばならないと思いながらも、出た欠伸は止まらない。

「おまえが呪術師なりゃいーじゃん」
「やだよ。いいだろ、今日みたいにたまに手伝ってるんだから」
「あ、おまえ同行?」
「今日はね。本当は別の呪術師が五条と就くはずだったけど、人手不足により別のとこに回された」

その電話が入った時のわたしのショックたるや。やっとひと段落つきそうなところだったのだ。鳴り響く着信音、光るディスプレイに映し出される『高専』の二文字。腹切りの準備だ。のろのろと通話開始ボタンを押せばこちらが名前を告げる前に『高専前に戻ってきたらそのまま任務へ行け。五条に同行しろ』と無慈悲に告げられ、力無く返事をしたのだ。
せめて、送迎だけなら良かったのに。そう思いながら出かけた欠伸を噛み殺す。

「俺一人でも行けるけど」
「お、五条悟も気遣いができるんだなあ」
「殺すぞ。欠伸ばっかしてる奴が一緒だと不安だから言ってんだよ」

珍しい気遣いにからかうように言えばインパネに置かれた五条の踵がゴンと振り下ろされる。「おい」と反射で声をかけるが、五条はどこ吹く風だ。

「お気遣いありがとう。でも今日のは一級任務だから行く。まあお願いするなら、今日はこれで終わりなんだ。早く終わらせたいな」
「本気出せってか」
「できたらね」
「誰に言ってんの」

目的地の前で車を停める。都内にある普段から歩行者天国のストリート。ここの通りを先週の日曜日と、今日、ハロウィンで仮装した大人子供が大行進をするイベントがあるらしい。もう既に仮装をして楽しんでいる人達がちらほらと見受けられた。

事件は先週、大行進に参加した参加者の何人かが体調不良や謎の死を遂げた。人数はそこまで多く無かったものの、被害者が全員、自由参加であったこのイベントの参加者だと辿り着くのに時間がかかってしまったようだ。
今日も今から2時間後に大行進は開催される。それまでに原因を突き止め、祓う、そこまでが今日の任務だ。
五条と車を降りて通りを歩きながらことの経緯を説明して、ある場所で立ち止まった。

「原因はおおよそ見当がついている」
「ここ?神社か?」
「そう。被害者全員が大行進に参加していたけど、大行進でこの神社の前を通るんだ。そしてその中の何人かがこの神社の前を通るとき『変な声が聞こえた』らしい」

新しいものが目立つ小綺麗なストリートだけど、その途中にひっそりと潜むように、その神社はあった。簡易的で素朴な鳥居の向こう側は雑草の生え散らかった参道、その先に本殿であろうが、ほぼ崩れかかっている。正直、何故、こんな小綺麗なストリートにこんなボロ神社が?と思うような様だった。それでも取り壊されないのは、何かあるのだろう。

「じゃ、とっとと終わらすか」
「頼むよ。終わったら入り口にあった期間限定のパンプキンパフェが食べたいな」

帳を降ろしながら、鳥居をくぐり抜けた。

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