スマイルアンシャンテ



憐れみの月の光さえも、一片も届かぬ程の霧深き町の裏路地を、大柄の男が歩いて行く。

誰も居ない、ほんの数メートル先さえ、見えない。静かに静かに静寂に、錆びれた町の白い煙を、其の口に含んでは笑い声と共に吐き出して行く。



(ドフラミンゴ)「フフフッ、フッフッフッ!」



男の顔色は、赤く色付いては居ない。其の手に、酒瓶等を持って居る訳でもない。寧ろ男は手ぶらだ。だから男は酔って居て笑って居る訳ではない。

では何故、面白くも何とも無い此の町の道を通りながら、男は愉快そうに気分良く笑って歩いて居るのか…理由は至極簡単で簡潔的だ。

男の機嫌が良かったからだ。只それだけ。機嫌が良い訳など、特には無い。只、何となく、男の気分が良かったのだ。



(ドフラミンゴ)「フフフフッ」



男は尚も笑い続ける。そして粗(ホボ)視界零の道を歩き続ける。視界同様、人気も零。だから彼を不審な目で見たりする輩は居ない。

いや、例え居たとしても、彼と目を合わせぬよう、顔を背けるだろう。其の大柄な体格や見た目の派手さだけに限らず、実力も悪名も名高く、目立つ彼に関わろうと云う輩は早々居ない。



『『『『切り裂きジャックが殺された♪』』』』



そんな彼の笑い声と足音しか響かない所に、突如、子供達の甲高い声が分厚い霧の合間を縫って、幽(カス)かに入り混じって聞こえて来た。



『『ポリーやシッフィー、ホワイトチャペルで歩いてる♪』』


『『『喉笛狙って足音たてて…♪』』』



楽しそうに声を合わせ歌いながら、皆バラバラにあちらこちらを駆け回って居るかの様に、四方八方の遠くから幽かに響いて来始めた無数の声達。



『『『『切り裂きジャックがやってくる♪』』』』


『うわぁっ!…危なッ!転(コ)けそうになった。』


『あっ、誰か引っ掛かったぞ!』


『此れは…##NAME1##の声だっ』


『じゃぁ、次の鬼は##NAME1##だっ』


『ぇーーー』


『ほらっ、早く目印付けてよ。』


『始めましょう?』


『ちょっと待ってよ』



クスクスクス、キャッキャッキャッ、と子供らしい可愛らしい声と足音が、辺りに漂う白い壁の前後左右から、聞こえて来る。

その内の1つが、パタパタパタッと可愛らしい足音を立てて、白い壁を通り抜けながら近付いて来て、ドンッ!とドフラミンゴの足にぶつかった。



『きょをっわ!?』



濃い霧の煙幕のせいで、ドフラミンゴが立って居るのが見えなかったのだろう。

勢い良く足にぶつかった小さなソレは、ぶつかった反動で転けそうになりながらも懸命に体制を持ち直す。

そしてドフラミンゴの膝へとぶつけた額を抑えながら、自分の倍以上に遥かに大きいドフラミンゴの顔へと視線を持ち上げる。

首が後ろへ仰け反る位に見上げなければならない相手の顔を見て、ソレは首が痛くなるのも忘れて、呆気に取られた顔で呟いた。



「大人だ…大人が起きて居るわ。」



小さなソレ…少女は呆気に取られながらも、不思議さの増した声で呼び掛ける。



「ねぇ、おにーさん、おにーさん。」


(ドフラミンゴ)「フッフッフ、おにーさんって呼ばれる歳でもねぇーなぁ」



少女に視線を合わせる様に、しゃがみ込む。

いきなり間近に迫った、紫の吊り上がったサングラスを掛けた迫力のある顔にも、尋常じゃないくらいにモフモフとした上着にも目もくれず、怖気付く事も無く、

少女は更に不思議さの増した声で、彼の服をクイックイッと引っ張った。



「ねぇ、おにーさん、どーして、おにーさんは起きて居るの?大人はみ〜んな、寝付いてる時間なのに…」


(ドフラミンゴ)「フフフッ、そーゆーお嬢ちゃんこそ、こんな夜更けに何してんだ?子供はもう寝る時間だぜ?」



互いの質問に質問で返し、真逆の事を言って、会話が成り立って居ない。しかし、当の本人達は、そんな事は気にして居ない。



「ふふっ、子供同士で遊んでるのよ。今、アタシが鬼なの」



そう言って、少女は自分の胸ポケットに挿してある一輪の赤い薔薇を指さす。どうやら先程、幽かに聞こえて来た会話の中の、鬼の目印が其れらしい。



(ドフラミンゴ)「フフッ、そうかい。それで、##NAME1##ちゃん、さっき言ってた大人がオネンネってどーゆー意味だ?」


「そのまんま。何をしてもぐっすり夢の中なの」


(ドフラミンゴ)「フッフッフッフッ!何をしてもか?」


「うん、そうそう。落書きしても、頬っぺた抓っても、お店に入り込んで、お菓子を勝手に食べても、怒らない位に眠ってるの!」



此処最近、ずぅーーーっと眠りっぱなしなの!と少女は面白可笑しそうに語る。



「あれ?そう言えば、おにーさん、何でアタシの名前を知ってるの?アタシとおにーさんって、何処かで挨拶したっけ??」


(ドフラミンゴ)「フフフッ、中々敏(サト)いじゃねーか。いいや、初対面だぜ。」


「ふーん」


(ドフラミンゴ)「さっき、名前呼ばれてただろ?お嬢ちゃん。だからさ」


「あぁ、そっか(*^∀^*)」


『おーい、##NAME1##ーー?まだかよーっ?』


「あ、ヤバッ!遊びの途中だった。」


(ドフラミンゴ)「フッフッフッ、遊びも程々にしてお家に帰れよ?じゃねーと…悪いおじさんに攫われちゃうぜ?」



ヒョイッと##NAME1##の胸元のポケットに挿してある薔薇を抜き取って、横髪に付け代えてやる。

そして、其の薔薇が落ちない様に、器用に##NAME1##の頭をガシガシッと乱暴に撫で回す。



「キャーーーッ♪ヾ(*>∀<)ノ゙」



##NAME1##は楽しそうに其の乱暴な手から逃げて、ドフラミンゴの横を通り抜けて行った。

後ろへと遠ざかって行く足音を聞きながら、ドフラミンゴは、ゆっくりと立ち上がる。

其の時、ピタッと、段々と遠ざかって聞こえなくなる筈の足音が不自然に止まった。不思議に思い、肩越しに後ろを振り返る。

深い霧の向こうに、白く、灰色にぼやけて##NAME1##の姿がうっすらと影の様に映る中、髪に挿してやった薔薇だけが、不自然な位、やけにクッキリとハッキリと見えた。



「おにーさんの、名前!聞き忘れてたっ!おしぇーて♪」


(ドフラミンゴ)「フフフッフッフッフッ!≪おにーさん≫はドフラミンゴってんだ」



世間的に有名な彼だが、こんな閉ざされた空間の町で、親や大人さえ失った事にも気付かない、無知でも仕方が無い幼子が、そんな自分を知らなくても格段不思議は無いと思い、名乗る。



「ドフラ、ミンゴ、おにーさん。ふふふっふふ♪ふふふふふ♪」



此方の笑い方が移ってしまったのか思う位、笑い声の【ふ】を至極楽しそうに連呼させる##NAME1##



(ドフラミンゴ)「フフフ!そんなに俺の名前は面白いかい?」


「ううん、そーじゃないよ。ねぇ、ドフラミンゴおにーさん」



ドフラミンゴの問いに、首をフルフルと左右に振って否定し、声を掛ける。



「おにーさんは、面白過ぎて勿体無いから、止めとくね。」



霧が白いカーテンの様に邪魔をして居て、ぼんやりと影の様にしか見えない筈の##NAME1##の口元が、薔薇同様、ハッキリと見えた気がした。

其の口元は普段、自分がする様な、天の邪鬼の様な、あの独特の笑い方に、酷く似て居た。

口元の両端を思いっ切り上に持ち上げ、≪ニィッ≫っと噛み合わせた歯を見せる様にした、あの無邪気に邪悪な凶悪さを孕んだ笑い方に…。











其れを見た瞬間、ゾクリッ、と、武者震いとも怖気とも悪寒とも言い難い戦慄が、ドフラミンゴの背中を中心に全身へと駆け廻る様に襲った。



(ドフラミンゴ)「あぁん?」



こんなガキの笑みに、何を警戒してんだと自分の本能とも言える直感を訝しみながら、##NAME1##の発言に、訳が分からねぇーと言う挑発的な嘆息を向ける。

しかし、その嘆息の問い掛けを無視して、##NAME1##はくるりっと軽快に身を翻して、陽気に笑いながら霧の向こう側へと走り去って行った。





少女…##NAME1##と別れた後、ドフラミンゴは彼女と出会う前の様に笑いながら歩く事はせず、無言、無表情のしかめっ面で歩いて行く。

スマイルを重んじる彼にしては、珍しい事だ。其の様子のまま、町から外へ出る為の吊り橋へと到達する。


一歩前に踏み出そうと、足を前に踏み出した其の時、靴の爪先に、何かが当たった。何かと思い、見下ろす。

そして目に入って来た奇妙な光景に、彼は驚愕し、サングラスの中にある目を見開いた。


子供達が、橋の手前で沢山倒れて死んで居るのだ。

そして、其の子供達の死体の上や周りには、薔薇の様に香りが強い花やハーブが大量にばら撒かれて居た。

此れを奇妙、珍妙、奇怪と言わず、何と言うのか…。


ドフラミンゴは、しゃがみ込み、躓いた死体の腕に触れる。腕には、まだ温もりが残って居た。先程、息を引き取ったばかりの様だ。

他の死体にも同様に、触ってみると、どれも温もりを残して居た。



(ドフラミンゴ)「(ってぇ事は、さっきまで##NAME1##と遊んでたガキ共ってぇ事か?)」



##NAME1##は言って居た。大人は居ない(死んで居る)と。

ドフラミンゴも、此の町に入ってからは誰1人として、大人を見ては居ない。そして、会った子供も、##NAME1##という少女、只1人だ。



(ドフラミンゴ)「…!!」



反射的に辺りに散らばる死体達を見回し、その中に先程の少女が居ないかと探し回る。…しかし、##NAME1##の姿は何処にも転がっては居なかった。

歩いて来た道の、町の方を振り返り、視界零に近い町並みを目を細め、見据える様に睨み付ける…と同時に耳も澄ましてみる。


町は、無音。静寂。黙視。沈黙。黙然。全てを拒否する様に、黙殺されて居る。

##NAME1##と出会う前と同じ様相。そう言えば、##NAME1##と出会った時の様な子供達の声も、##NAME1##と別れた後には、全く聞こえては来なかった。


完全に此の町は死んで居た。



(ドフラミンゴ)「…………。」



ドフラミンゴは、其の奇怪な場所を通り越し、町を出て、橋を渡り、山へと入り、山を下って、其の麓にある、此の島の中心街へと足を運ばせる。

すると、山を半分程、下った所で、持ち歩いて居た子電伝虫が、けたたましく鳴り響いた。



(?)『あーー!やっと出た!!ドフラミンゴ!アンタ、まだ町に入ってねーだろーなぁ!!?』


(ドフラミンゴ)「出た早々に喧しいなぁ、ディスコ君」


(ディスコ)『あ、あのな、ドフラミンゴ!町には絶対に入らないでくれよ!?』


(ドフラミンゴ)「あぁん?…フッフッフッ、そりゃ何でだい?」



此処に来て、漸くドフラミンゴは何時もの様に笑った。



(ディスコ)『何でもアンタが向かって居る町にゃぁ、酷ぇ伝染病が流行ってって、入ったら最後!其れに掛かって100%死は免れねー!!!』


(ドフラミンゴ)「フフフッ、やっぱりか。…此れで全ての霧は晴れたな。」



部下であるディスコの其の報告を聞いて、胸の中に痞(ツカ)えて居た謎が全て解けた。其れこそ、先程言った言葉通り、霧が晴れて清々しくなる位に。



(ディスコ)『はぁ!?やっぱりってアンタ、分かってて向かってんのか!?つーか、此の事実は、ついさっき判明した事なんだが;;Σハッ!ま、まさかもぅ入って…』



子電伝虫同様、青ざめて慌てふためいて居るだろう部下を容易に想像出来たドフラミンゴは、更に笑みを深め、こう言い放った。



(ドフラミンゴ)「フフフフフフフフフッ、ディスコ君、スマイルだ」


(ディスコ)『はぁ??』


(ドフラミンゴ)「フフフッフッフッフッフッフッフ!どんな時でもスマイルを忘れちゃぁ、おしめーだぜ?」



何言ってんだ、と相変わらず慌てふためく彼との通信を一方的に切って、子電伝虫を仕舞い、フフフッ、と##NAME1##に会う前の様に笑みを貼り付け、笑いながら歩いて行く。



(ドフラミンゴ)「フフフフフッ!歌う御唄が間違ってんじゃねーかよ。ぇえ?##NAME1##ちゃんよォ。」



此の場合は【リング・リング・ローゼィーズ】だろうが。と、傍に居ない少女に向かって、独り言染みたツッコミを入れた。

リング・リング・ローゼィーズ…伝染病(ペスト)の惨状が練り込まれたマザーグースの歌の1つだ。


そのペストにかかると、100%死は免れなかった。

そのペストは、まず、大腿の付け根と脇の下のリンパ節に、紅疹と呼ばれる赤みを帯びた発疹が出て、その後、高熱による寒気の為にクシャミが出、その数日後に死んでしまうと云う。





バラの花輪を作ろうよ




最初の兆候である紅疹は、【ペストの印】と恐れられて居た。上記の唄で出て来る≪薔薇の花≫がペストの印:紅疹を指して居る。





ポケットに花がいっぱい




ココでいう≪花≫とは香りが強い花やハーブだと言われて居る。

ペストに掛かった病人は、非常に強い悪臭を放って居たらしく、その匂いよけとして、香りの強い花を持ち歩いて居たという。

また、ハーブには予防効果があると考えられて居たらしく、その意味でも≪ポケットに花がいっぱい≫の花を入れて居た、ということである。





ハックション ハックション




症状が悪化すると出て来るクシャミを指さして居る。





みんな一緒に倒れよう




避けられない突然の死が襲って来て、次々と人々が倒れて行く様子を表して居る。






その唄同様に、ペストは先程、行って来た町で急激に流行し、猛威を振るった。

そして、たった数日で町を壊滅に追いやったらしい。(その感染スピードと、都市から離れた町という状況があって、情報が遅れた様だ。)



(ドフラミンゴ)「フッフッフ、攫われかけたのは、御互い様ってか?」



後ろを振り返り、もう見えなくなっている町の方を、其の色深きサングラスの奥から見つめる。




『おにーさんは、連れて行かないであげる。』




時期にペストを恐れた島の人々の手で、燃やされるであろう町の中で、一輪の真っ赤な薔薇を髪に挿した少女が、##NAME1##が、笑って居る。

##NAME1##は、生存者が無人となった町中を今も尚、笑いながら駆け廻り、真っ赤な薔薇をばら撒き、咲かせて居る事だろう。

そして、明日までには、また新たな≪遊び場≫を求めて、あの死んだ町を去る事だろう。



(ドフラミンゴ)「フフフッフフ!!また会ってみてぇもんだ…なぁ?お嬢ちゃんも、そう思うだろう?」



少女の正体を知っても尚、ドフラミンゴはそう言う。




『やっぱり、面白い人だね。おにーさん。』




少女が、嬉しそうに笑って、そう返答を返して来た様な気がした。。。









This is the end.
(これでおしまい)



××ATOGAKI××
(懺悔と言う名の白状場)



一度は書いてみたくなりますよね、桃鳥さんと幼女の御話。(ぇ?ならない?)

因(チナ)みに、此の小説内での夢主は…もぅ分かってると思いますが、人間じゃありません。


少女の正体は、病気です。

クラバウターマンの様な精霊なのか、病気と悪魔の実のコラボタイプなのかと、定かではありませんが…。


まぁ、そんな感じの設定の夢主と桃鳥さんの御話でした。

…桃鳥さん、(新旧含めて)王下七武海の中で2番目に好きです。だから色々と妄想しやすいです(*^w^*)ムフフ




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解せぬ花