1メガトン級の核爆弾1000億個で爆撃された世界の話2




勝ち気だけど、朗らかな人当たりで、仲の良かった近所の定食屋を営む老夫婦の手伝いを良くしていた母親。

自ら料理を行うこともあるが、腕は悪く、基本的に食べた客を悶絶させるも、持ち前の明るさと、たまに料理に当たりがあるなど、常連たちからは愛されていた。

色々あって、料理への情熱を失って放浪していた父親が、偶然店を訪れた際に、自らの料理を振る舞い、その不味さで彼を悶絶させる。(その不味さはゲテモノ料理の耐性も多少なりともある彼をノックアウトするレベル)

しかし、それでも客達から愛されていることや、「自分がやりたいようにやる」「客の楽しそうな顔が見られればいい」という母親のポリシーが、父親の料理に対する情熱を蘇らせ、やがて2人は恋仲になり、結婚し、摩耶を授かる。

その後、母親の故郷であり、2人の運命の地でもある地元で、3人で幸福な生活を送っていた。

摩耶が4歳になって個性が発現した。

個性によってなのか、『前世の記憶』という通常ある筈のない記憶が、摩耶の幼い脳味噌に詰め込まれた。

天寿を全うする…とまでは行かなかったけれど、そこそこ長生きした上に、前世は完全記憶能力なんてモノが備わっていたので、それなりに膨大な、その記憶の情報量。

加えて、前世みたいな完全記憶能力はなくても、今世の記憶も記録して行かなければならない小さく未熟な脳味噌は、ハッキリ言って常にパンク状態となった。

脳疲労とも脳のオーバーヒートとも呼ばれる状態は、主に発熱と頭痛の不調として現れて、一時的な意識消失と言う気絶を、しょっちゅう引き起こした。それは、所謂、防衛本能として、機械で言う所の強制終了だ。

日常生活を送っている最中、突然、フッと意識を失ってぶっ倒れて、少ししてから、問題なく、自然に目が覚めては起きるを繰り返すので、周囲の人達をビックリさせ、病弱でも身体虚弱でもないのに、体の弱い子と誤認させてしまった。

しかし、裏を返せば、この問題、摩耶の脳の容量そのものが増えれば、改善するものでもあった。

脳の容量は当然に成長するごとに増えるし、加えて脳というのは、刺激を与えられれば与えられる分だけ鍛えられる上、鍛えられた脳は、以前よりもより効率良くエネルギーを消費するようになるので、パンクする事が少なくなるのだ。

───さて、この刺激。

大変喜ばしい事に、今世に遠国摩耶として産まれ落ちてから早数年、摩耶にはこの刺激というものが、余るほどあった。

個性が現れる前から、常日頃から夢中になってた遊びは、お料理の真似事やごっこ遊びを、よりリアルに楽しめる、おままごとキッチンだったので、頭を使う上、手先を動かす動作が多いオモチャは、脳を刺激して活発に活性化させていた。

個性発現後は、作品を再現する為、描画技術や音楽技術に歌唱技術などを貪欲に学び、何をしても頭の中にスルスル入って来る素晴らしい幼児の吸収力と、出来ない事が出来るようになるという快感のお陰で、一層励む事ができ、より良い刺激となった。

技術習得と作品再現の趣味に精を出すかたわら、料理をするようになったきっかけであり、将来の夢の料理人としてのルーツである両親と一緒に定食屋を初め、地元の色々な店の厨房に立ったり、学校では給食調理員さん達に混ざって調理をしたりもした。

そんな数々の刺激のお陰で、小学校を卒業する頃には「体の弱い子」を脱却できる事となった。


「好きなときに、好きな場所へ、好きな人に会いに行く」





瀬古杜岳とは燈矢が"個性"の訓練場として使用している山であり、燈矢にとって燈矢と彼の父のみが立ち入りを許されているかのような聖域だったのだと思う。




「「…………」」




個性の訓練後で、脱いだTシャツを片手に上半身が裸の燈矢。

透明な容器の中に、周りに自生している木苺を入れて、そこに蜂蜜を注ぐ摩耶。

目を合わせたまま固まり、沈黙する事、数秒。口を開いて言葉を発したのも同時だった。


「何してんの?」「蜂蜜いる?」


「はぁ!?いや、何で遠国さんはウチの山にいるの?普段は俺以外誰も来ないはずなんだけど」

「いや〜、帰り道に、ふと山見たら、木苺が食べたくなっちゃって。あるかな?っと思って、容器とか蜂蜜とか持って来たら、この群生地を発見してさ!こうして……ウチの山?」

「地元民のくせに知らないのかよ。ここ、瀬古杜岳は俺のお父さんの山」



だからか、その聖域が踏み荒らされたように感じて、地面を指さしながら、燈矢は非難めいた口調で説明した。




「お父さんの山……つまり、勝手に入っちゃ行けないし、勝手に物を取ってもダメって事だよね?」

「当たり前だろ。私有地だぞ?」

「不法侵入罪に森林窃盗罪…」




無知であったとはいえ、どうやら自分は規則を犯したらしいと気づいた摩耶は、すぐに己の過ちを認め、最上級の反省を示す行動に出た。五体投地で精一杯の謝罪である。




「本当にごめんなさい。この容器に入った木苺はお返しします。食べた木苺は吐き戻します。ついでに、この蜂蜜もお付けしますので、お願いです。訴えないで下さい!!」

「うわっ!?急にどうしたんだよ!やめろ、別にそこまで責めてない!」

「持って来たチョコレート、ヨーグルト、オートミール、レモン、ジンジャエール、ブランデー、煮干しも差し出しますんで、何卒何卒(ナニトゾナニトゾ)、お許し下s」

「別にいいってば!何も罰してやろうなんて思ってない!!つーか、今挙げた中に、明らかに、おかしいのが入ってるよな!!??ブランデー!?未成年だろ、お前!後、煮干しって何だよ!他のチョイスは兎も角、煮干しは要らないだろ!!」




全力でツッコミ続けた燈矢が、ゼエハアと肩で息をして呼吸を整えている。

もしかしたら、個性訓練よりも疲れているのではないだろうか。




「(本当に、こいつ、初犯か?さっき、木苺があるかどうかも分からないって発言してたよな?なのに、そんなに材料持って来たのかよ。あるって希望的観測が強いって言うより、これはもう確信犯の域だろ!!)」



煮干しと聞いて、漸く気付いた。

摩耶の横にある七輪の網の上で、炙られ焼かれている数匹の煮干しの存在に。

なんで、後は帰るだけの聖地のいつもの道を外れてまで、普段は来ない所に足を向けたのか、思い出した。

通常通りではある筈がない、香ばしい匂いが、鼻に入って来たからだった。

その匂いを辿って行ったら、上記のように、摩耶と遭遇したと言う訳だ。

燈矢が、ツッコミの後も、そんな事を悶々と考えに耽る間、摩耶は、燈矢の怒涛のツッコミラッシュに感心しつつ、カバンからガサゴソと物を次々と取り出して行く。

最初に、スーパーで良く売っている透明な使い捨てプラスチックカップがいくつか入った袋から1個を取り出す。

次に、ブランデーとジンジャーエールを取り出し、カップの中に入れ、静かに混ぜる。

そして、携帯用の果物ナイフとレモンを取り出し、果物ナイフで螺旋剥きにしたレモンの皮の一端をコップの縁にかけ、内側にカールさせて垂らして飾る。




「マシンガンツッコミぶちかまして、喉がカラカラでしょ?コレを、感謝とお詫びの印に。私のイチオシ☆フルーツジュース『ホーセズ・ネック』です。どうぞ!」




本当は自分で飲もうと思って持って来たんだけど、トクベツだよ☆と茶目っ気たっぷりの笑顔で、作った自称フルーツジュースが入ったコップを、燈矢へ差し出す。




「おもっくそ酒入れてんのに何がフルーツジュースだよ!」


「果実酒も果汁100%ジュースも、果物を使ってるから、フルーツジュースでしょ」



人を言い包めようとする超展開をみせる理論のセリフというか、とんでもない暴論を吐く摩耶。



「そんな屁理屈で俺が騙せるとでも!?共犯者に仕立て上げようとしたって、そうは行かねぇぞ!!」




燈矢を騙せないとみるやいなや、摩耶は顔をそらして「チッ」と舌を打つ。

そんな、ごくごく不満そうにする摩耶の態度に、燈矢は、ひくりと頬を歪めた。




「(こいつ、木苺狩りが出来なくても、持参した食料で、山ゴハン…なんてオブラートに包まず、明け透けに言って、一杯やる気満々で来たな!じゃなきゃ、煮干しや七輪やカクテルの材料の説明がつかねぇ!!)」




噂通りの有名な問題児っぷりに、燈矢は頭を抱えて、項垂れる。

遠国摩耶の存在は、基本的に他人に関心がない、興味の対象は常に家族(8割はお父さん)である燈矢でも知っていた。燈矢とは、別ベクトルで話題の尽きない有名人だったからだ。

フレイムヒーロー・エンデヴァーの息子という肩書きと、常に勉強と運動の双方共にトップクラスの成績で、文武両道を体現する上に、誰もが見惚れるくらい恐ろしいほどに整った顔立ちの美少年。そんな非の打ち所がないパーフェクト優等生の燈矢。

給食がない幼等部では自作の弁当をクラスの連中に食べさせて大泣きさせたり、給食のある今の初等部では授業そっちのけで、いつの間にか給食のおばちゃん達に混じって調理してたり、突然ぶっ倒れたりして、常日頃から周りを振り回す問題児の摩耶。




「もう、いいや。とりあえず一緒に山を降りよう。もうじき暗くなって何も見えなくなる。女の子1人じゃ危ないし、麓までは俺が送っていくよ」




能天気にヒーローへの憧れを語るポヤポヤした学校の連中と話が合わず疲弊する事とは別の意味で疲労困憊する摩耶との会話を早々に切り上げたくて、そう言った。

有無を言わさない雰囲気で、燈矢は摩耶をジト目で睨みながら、脇に抱えていたTシャツに頭と腕を通し、それに押し負けた摩耶も、渋々と、七輪などの片付けをして、歩き出した。

二人がようやく山を抜ける頃には、すっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。




「ここまで来たら街灯もあるし、No.2ヒーローであるお父さんのお膝元だから、不審者なんて現れないだろうけど…1人でもちゃんと帰れるよね?」




この子は自分の事を棚上げして、いったい何を言っているのだろう?と摩耶は思ったので、そっくりそのままブーメラン発言を投げ返す。




「老若男女問わずソソられるイケメンフェイスの君よりは、危険はないでしょ。『夜は人を獣にする』って言う位だ。自覚ある?歩く発情製造機の君が、こんな遅い時間まで1人でいちゃ駄目でしょ。自己と他者の両方を考慮して帰る時間は考えなきゃ。」

「その気色悪ィ例え方やめろッ!!いつもはもう少し早く帰ってるよ。学校が終わったらすぐ山に登って、日が暮れる前には家に着いてる。……今日は不法侵入罪と森林窃盗罪っていうアクシデントのせいで、仕方なかったんだ。」


冷を母に持つ燈矢は、美人と呼ばれる類の人間は見慣れている。

顔は母親似だと言われる事の多い彼自身もまたその美形因子を濃く受け継いでおり、自分の見た目が整っている事も事実として認識していたし、何より、燈矢は哀しいほどに自身の客観視が巧かった。


「ウグッ!ドウカ、ソノ事ハ内密ニ、オ願イシマス。」

「しょーがないから、俺の胸の内に留めておくだけにしてやるよ」



もとより、燈矢は、誰にも言いふらすつもりはない。

それを告発する事は、燈矢にも不都合が生じるからだ。

家族…特に父親に摩耶の事を話せば、自分が瀬古杜岳で個性訓練をしていた事がバレる。

お父さんもお母さんも、冬美ちゃんも夏くんも、みんな俺が個性を使うことを良く思っていなかった。

俺の気持ちなんて全部無視で、自分なりのエゴを押し付けて、俺がヒーローになるための道を悉く潰して行く。

今回の件を言えば、また潰されるのは明白だ。だから、チクるなんて選択肢は、ハナからない。



「ありがとー!お礼に蜂蜜あげる!」

「いや、要らないし。つーか、なんで蜂蜜チョイスなの?」




摩耶に、グイグイと押し付けられる蜂蜜を、燈矢は受け取るまいと、グイグイと押し返す。

そういや、最初の第一声でも蜂蜜を寄越そうとしていたな。

え?俺って、某ネズミーランドの黄色のクマと一緒だと思われてる??



「あっ、料理なら牛肉とアスパラガスと赤パプリカの彩り炒めがオススメだよ!」

「は?」

「じゃあね。えーと…とろろ屋さん!!」

「はぁ!?」



摩耶の話についていけていない。と言うか、理解すら出来ない。

蜂蜜推しは、意味不明。料理のアドバイス?も、理解不能。後、とろろじゃないと、訂正箇所あり。

どれから着手すればいいか分からず、混乱した結果、走り去る摩耶の背を、燈矢は蜂蜜を持ったまま、ポカンと呆然とした表情で見送る。その背が見えなくなるまで動けずにいた。




これが、例えるなら、火と油の関係になる2人の出会い編。

後に少年と少女…そして、世界の未来を大きく変える事になる「運命」の出会いだった。

奇しくも、この時、少女が作ったドリンクのホーセズ・ネックのカクテル言葉も「運命」であった。

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解せぬ花