神野の悪夢編 01




「へぇ、凄いや。流石先生だ。どんなに調べてもわからなかったあいつらの目的地、こうも容易く調べてくれた」

「待機させた甲斐がありましたね、死柄木弔」

「荼毘、お前が指揮取れ。リーダー命令だから拒否権はない。つーか、やんなきゃ殺す。」

「は?随分な扱いだな」



敵ヴィラン連合アジトで、作戦決行を今か今かと待ち望む一行が集い始めた。



「大丈夫だぜ荼毘!嘘だお前は向いてねえよ!」

「ねーねー弔くん。林間合宿にはオールマイトいないけど、いいの??」

「ああ、今回は間接的に奴を追い詰めてやんだよ。狙いはコイツ、雄英ヒーロー科1年A組爆豪勝己くん。」

「体育祭で1位だった子じゃない。」

「ヒーロー社会は、コイツような奴が笑顔で飛び回れるもんじゃねえ、ギチギチのルールで縛られた金と権力を優先するような社会だ。コイツの自尊心と勝利に対する異常なこだわり…俺達にピッタリだろ?」

「確かに。ヒーローよりも、俄然、凶悪なヴィランっぽいもんね、爆豪くん。」

「後は殺せ。特に、この緑谷出久ってガキは、最優先でだ。」



パラパラと、トランプに模した写真には上記で話した2人の少年が写っていた。



「(……面倒臭ェ。)」



会った途端に、襲いかかって来たくせに、急にボス面はじめやがった死柄木に、イカレ野郎共のまとめ役としての指揮官への任命に、摩耶の大事な幼馴染みであるガキ2人の誘拐拉致と殺害。

荼毘は真面目だ。何もかもどうでもいいと思いながらも、なんだかんだ与えられた仕事は、きちんとこなす。

仕事が成功するにせよ、失敗するにせよ、さして問題はない。だが、1番面倒な事は、仕事内容が摩耶に露見した時の対応だ。

俺よりも、摩耶と長い付き合いで、俺と同じくらい、摩耶に世話を焼かれてる2人に害をなしたとすれば、どれだけの小言を言われるか…。

一応、お互いの目的の邪魔や妨害はしない契りを結んではいるが、アイツの長々とした小言や、約束に当たり障りのない程度の些細な嫌がらせや仕返しは、ウンザリと疲弊するレベルの面倒臭ェ事なのだ。

その場面を想像して、心底げんなりした表情を浮かべ、腹の底から盛大なため息が口から零れ落ちた。





「本当に彼らのみで大丈夫でしょうか?」

「うん。俺の出る幕じゃない。ゲームが変わったんだ」


滔々と黒霧に語る弔。


「成功を願ってるよ。」

「少し待ってくれないか。」

「ッ!!」

「先生……。」

「急で悪いね、弔。この子を迎えに行ってくれないかい?」

「誰だよ……って。ああ、体育祭に出てた奴かよ。何で?」

「その子は、僕の…いいや、君のパートナーになるべき子だよ。」

「はぁ?このガキが俺のパートナー?確かに個性複数持ちで、どれも強固性で便利って感じだったけど、あのヒョロガリさじゃぁな…脳無のが良いだろ。」



確かに、彼女の個性達には目を惹かれたが、先生とドクターが作り出す脳無達の方が良いと弔は思う。

同じ個性複数持ちでも、脳無の方が、肉体に人体改造が施されてるので、当然、普通の人間より凄く頑丈だし、生きてる人間と違って、文句も反発とかもないし、働きに見合う見返りなど必要としない上、命令には絶対服従。

ぶっちゃけ、人間より脳無を駒にする事の方が、楽でストレスとかもなくて良い。

だが、このヒーロー社会にヒビを入れるには、ヴィランである仲間のイカレ野郎共は必須だし、将来有望なヒーロー科の爆豪がヴィランになれば、ヒビをより一層、強く入れる事が出来る上に、即戦力にもなる。

だから、いくら雄英の生徒で個性が凄いと言っても、ヒーロー科でもない、ましてや普通科のガキなんて、インパクトが弱いし、爆豪と違って、現代社会に順応してるイイ子ちゃんじゃ、こっちでは、やっていけはしないだろう。



「彼女の力は、他で入手不可能な程に希少性が高く強大で、滅多に入手できない品物。その上、彼女は、選ばれし者へ“祝福”をもたらす逸品。分かるかい?史上最高の悪の魔王を、より華やかに彩る、謂わば、魔法のような効果を持つアイテムなんだ。」

「ゲームに例えるなら、激レアチートアイテムって事か。なるほどね。プレイヤーとしては欲しくなるな。」

「それに今の彼女は、緑谷出久と爆豪勝己の幼馴染で、どちらとも仲が良いらしい。」

「へぇ…このガキを手に入れると、爆豪は仲間に引き込み易くなるし、ついでに俺の嫌いな緑谷に嫌がらせも出来る…イイなァ。」

「最後のひと押しだ。彼女は“フィッシュアンドチップス”だ」



弔は、酷く愉快そうに皮膚が引き攣った口角を歪めていた。



「決まりだな。」

「本当に、彼女を仲間に入れるのですか?」

「こんだけメリットを提示されれば、欲しくもなるだろ。ヴィランたるもの、欲しいものは力づくで奪って手に入れなきゃなァ。」



弔の鋭い双眸に、怪しく獰猛な光がぎらりと宿った。



「その考えは正しいが、彼女の事に関しては、少々、不適切な言い方だ。彼女は元々、弔、君のものなのだから。」

「あぁ、俺のパートナー?なんだっけ。んじゃ、“迎えに行ってくるよ”。」




摩耶の後頭部に手を添えキスをした。





「あ゛…???」「ア゛…????????????」


死柄木の腕の中にいる摩耶の存在を認識した爆豪と荼毘の口から、呆気に取られた声が零れた。

文字上では、違いが判りにくいが、同じ言葉でも、異なるトーンの差は、誰が聞いても、明白だった。

地の底から這い出るようなトーンで発された荼毘の声しか、認知が出来ないくらいに、その差は歴然としていた。

こちらが鳥肌立つほど低過ぎる声を発した彼は、そこいらのヴィランが震えて裸足で逃げ出してしまいそうな殺気を纏った威圧感を放っている。

現に、同じ仲間の俺達でさえ、背筋がゾクゾクと寒くなるような、ゾワゾワと栗立つような、生き物としての当たり前の生存本能が危険だと、うるさく訴えてきたから、瞬時に荼毘から距離を取り、戦闘態勢を構えたほどだ。



ジュゥ!!


「ッヅ!!!」



敵連合が荼毘から距離を取ったと同時に、爆豪は、掴まれている首に凄まじい熱を感じ、咄嗟に叫ばないように下唇を思い切り噛み締めた。

気色悪いツギハギ野郎の炎で焼かれている。熱い、熱い、痛い、熱い。脳髄が弾け飛ぶような強烈な痛み。

タンパク質の焦げる嫌な臭いが鼻を刺し、多量の脂汗が額に滲む。

焼き殺される。襲いくる死の恐怖に、ガタガタと震えそうになる体を、必死で抑え込む。


「ちょちょちょっ、荼毘、落ち着け!爆豪くん燃やすな!」

「折角、手に入れたコマだぞ!」

「今までの苦労をパーにする気か!?」「いいぞ、もっとやれ!」



仲間の説得する声が聞こえたからなのか、爆豪の首を掴んでいた手を離すついでに、これ以上、燃やさないように、爆豪を、近くにいたトゥワイスに向かって、突き飛ばした。

彼は怒っていた。溢れ出る激情が個性としてチリチリと全身から火花を散らしていた。開ききった瞳孔に宿る青い炎は大きく揺らめいている。


「何でソイツが此処にいる?死柄木」

「へぇ?爆豪と緑谷とは親しい仲だって聞いてたけど…まさか、お前もとはなぁ?」



まぁ、ヒーローだのヴィランだのなんだの気にしないで、アサーティブに接する摩耶の事だ。ヴィランと仲良しになっていても不思議ではない。

しかし、それが荼毘だとは、意外と言えば意外だ。荼毘は元々、素性も分からず、他人に興味がなく、飄々として掴めない奴だったが、そんな奴が、こんなにも感情を剝き出しにするほど入れ込む奴がいるとは、思わなかった。


「……触ンな」

「なんで…っ!!摩耶が!!」



爆豪が怒鳴るような、叫び上げるような声を上げた。

手足が千切れても構わないと言わんばかりに、拘束するトゥワイスから抜け出そうと激しく暴れる爆豪。

今までの殊勝な態度が嘘のように「テメェら!」「ふざけんな!」「ぶっ殺す!」「返せ!」と喚き散らす爆豪の目は、これでもかと血走っていた。


「コンプレス、爆豪しまっておけ」


死柄木にそう言われて、コンプレスが暴れる爆豪に触れ、小さな玉に圧縮する。


「ヒーロー科でもないのにコイツを引き入れる気か?」

「使えるものは使うことにしてんだ。爆豪の勧誘にも有効だし、こいつは“フィッシュアンドチップス”なんだろ?」

「……」

「え?マジで!?この嬢ちゃんが“フィッシュアンドチップス”!??」

「嘘だろ!?あの“フィッシュアンドチップス”が、この子?」「いいや、本当さ!」



“フィッシュアンドチップス”

その個性の持ち主のお目にかかった依頼主の望みは、必ず叶えられる。そして、誰もその正体を知らない謎多き人物。

仲間の連中も、風の噂で聞いた都市伝説のような話としてくらいには、知っていたようだ。



「コイツは駄目だ。」



そう言って荼毘は仲間の声を無視して、死柄木から摩耶を強引に奪い取り、抱きかかえて、そのまま連合アジトを後にしようと踵を返す。



「は?おい、待て待て待て。」



リーダーである死柄木の静止の声にも耳を貸さず、スルーして、歩みを進める。



「ッ、荼毘!!」

《少し待ってくれないか、荼毘君》

「「「「ッ!?」」」」


突然、意識の外から聞こえた声に、その場にいた全員が息を吞み、振り返る。

先程までニュースが映されていたモニターが切り替わり、"Sound Only"の文字が現れた。

声は、モニター越しに発せられたもののようだ。



「…先生」

《駄目な理由を、教えてくれないかい?彼女は僕たちに…特に弔に必要な子だ。》

「コイツがいなくても問題ないだろ」

《そうかな?でも、きっと彼女は、僕に用があると思うんだ。》

「……」

「はぁ…せめて、駄目な理由を言え。」

「……俺はコイツと契約してる。契約内容は、お互いの邪魔をしないこと。破った奴は死ぬ。」

《邪魔をしなければ、問題はないんだね。なら、平気さ!それに…僕なら、彼女の力になれる!!》

「荼毘、そいつを連れて行くことは許可しない。リーダー命令だ。」


この組織のボスは死柄木だ。

そして、その死柄木が引き入れると決めた以上、荼毘1人の意見でそれを反故にすることは難しい。

それに、死柄木に「先生」と呼ばれた、声の主。おそらく、この連合の脳(ブレイン)であろうラスボス。

そのベッッタリと脳内に、こびり付くかと思うほどの粘質感のあるこの声には、覚えがあった。

間違いない。8年前、目が覚めた時に、モニター越しで会話をした、耳障りで不愉快な人物だ。

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解せぬ花