敵連合と…
「じゃぁ、私の血を全部あげるから、貴方の血を全部、私にちょーだい?」
「え?」
「何を驚くの?自分の労働の対価として、相手に収入を求めるように。好きに好きを返して欲しいと、相手に好意を向けているのと同様の好意を自分にも向けてほしいと要求するように。人間なら、見返りを望むのは、あって当然の事だと思わない?」
「………。」
「貴方達があてられたステインが認めたオールマイトだって、自身の命を賭してまでヒーローとして働いたのは、人々の平和が、彼の望む報酬であり、対価に対する見返りだった。どんなに偉大な英雄でも巨悪でも、例外はないと、私は思う。」
「チウチウ、して良いの?」
「対価として、私も貴方に同じ位、チウチウして良いならね。」
「貴方は、私なんかの血で、良いの?欲しいの?」
「……なんか、ね。なるほど。好きな人に成りたい、同じに成りたいって堂々と言える位、好きなものを共有したいって人一倍強い気持ちはあるのに、自身をあげる事を思いつかなかったって事は、自分が嫌いってタイプかな?」
確かにトガは、指差しゲームのお題で、1番嫌いな人に、迷いなく自分を選ぶ位には、自分を嫌っている。
「普通、誰だって、好きな人に、自分の嫌いなものをあげたいとは、思わないもんねぇ。」
好きな人の血は貰うけど、嫌いな自分の血はあげれない。
「でも、一方的に自分から搾取するばかりで、自分には何も与えてくれないなんて、相手側からしたら普通に嫌だよね。」
分かる。理解出来る。納得も同意も出来る。
トガだって、相手側だったら嫌だって思う。
彼女は、他の人達と同様、血をくれない。
でも、トガを否定してる訳じゃない。
好きな人の血が欲しい事を、異常だと、理解出来ないと、非難する言葉も言わない。
人間じゃなくて悪魔の子だと、トガに気味悪がる視線を向けてくる事もしない。
今までトガを否定して来た親や周りの人達とも、許容してくれたヴィラン連合の皆とも、違う。
「じ、じゃぁ、トガの、血を、あ…げたら、」
ホントに、貴方の血をくれますか?
そう聞きたいのに、言えなかった。
自分の血をくれ!だなんて事を言われたのは、初めての事だった。
今まで、好きになった人達に、自分が求めた事はあれど、自分が求められた事は、皆無だった。
確かに、自分は嫌いだが、別に、自分の血は、嫌いじゃない。血自体は大好きだ。
でも、上記で、彼女の意見に賛同出来たように、自分だって、好きな相手に、嫌いなもの(自身の一部)を、あげるなんて…考えた事どころか、思いついた事すらも、全く、なかったのだ。
だから、『自分の血を、あげる』なんて、思った事は、1度も、ない。
当然、『自分の血を、あげたい』なんて、相手も、勿論、いなかった。
そんな衝撃に加え、困惑する。
彼女が、トガの血を欲しいのは、自身の血の対価としてだ。
トガのように、血が大好きな訳でも、純粋に欲しい訳でもない。
だからこその困惑だ。
対価として、自分の血で良いのだろうか?彼女の血に見合うだろうか?
彼女は、ヴィランである自分達にも普通に接してくれる、とっても素敵で、カァイイ女の子。
自分は、明るくて、カァイイ女の子ではあるけれど、彼女とは違って、人殺しのヴィランだ。
そう思っちゃったら、対価としては、釣り合わない。という結論に行き着いてしまった。
だから、続きが言えなくて、俯いて、グッと、下唇を噛む。
「…ごめん。意地悪しちゃった。いや、するつもりはなかったんだけど」
「え?」
突然の予期せぬ謝罪に思わず、下げていた顔を上げて、摩耶を見る。
そんなトガに構わず、摩耶は額に手を当てて、項垂れ、重苦しい溜息を吐きながら言った。
「あぁ、まさかこんなことを…なんて馬鹿で愚かで幼稚な」
摩耶は軽蔑したようでもあり、失望したような言い方だった。
しかし、それはトガが摩耶の要求に応えられなかった事に対してではない。
「いくら甘く見積もっても、どれだけ贔屓目に見ても、どう拡大解釈しても、対価と報酬が見合わない」
高校に通っていない、中卒のトガにだって、分かった事だ。
善良じゃない自分の血じゃ、善良である摩耶の血には、釣り合わないと。
誰がどう見ても、不釣り合いだと分かる事を、さも、釣り合いが取れると、勘違いも甚だしい位の発言をした自分に対して摩耶は幻滅したようだ。
「彼女の血は、私のよりも優しく、貴重なのだから」
まさかの逆だった。
善良じゃない自分の血が、善良である摩耶の血より、価値があるとから、釣り合わないと?
人殺しのヴィランの体に流れる血が優しい?そもそも、血が優しいってどういうことなのだろう??
「お前より、若いからだとか、元気だからとか、健康だからとかって言う意味合いの貴重なら分かるが、血が優しいからって何だよ。意味わからん。血に優しいも優しくないもないだろ。」
彼女の思いもよらぬ発言の数々に対応が追い付かず思考回路がフリーズするトガに代わって、弔がツッコミを入れる。
「いちいち理解しようとするだけ無駄だぜ。こいつが変なのは、今に始まった事じゃねぇからな。」
「え?そうなの??」
「俺達イカレ野郎みてぇに、イカれてはねぇが、変人なんだ。」
「ちょっと、奇人ウリックを見るような目で見ないで!」
「誰もそこまで変とは言ってねぇだろ。」
「そう目が言ってた!と言うか、変わり者のウェンデリン−マグルver.−のお前にだけは、特に言われたくないわ!!」
「誰が好き好んで47回も火刑を繰り返し楽しむドマゾだ。一緒にすんな、殺すぞ」
「待って待って待って!2人の会話が分からな過ぎて、ついていけないんだけど!」
「こうもポンポンとナチュラルに魔法世界のこと聞くと、ますます実感せざるを得ないよな」
「あの神野での、この女とオールフォーワンの遣り取り以来の現実味を帯びて来るな。」
「まぁ、この目にしっかり焼き付くくらい?見せられちゃったから、事実だとは分かっていたが…それでも、未だに信じられねぇよ」
「そうね。いくら超人社会でコミックみたいにヒーローやヴィランが存在するって言ってもねぇ、異世界の魔法使いとか、スケールがデカ過ぎて困るわ」
「更に混沌…プルスケイオスって感じですね!」
「でも、おかしくね?なんでオールフォーワンに連れて来られた奴が、弟子の死柄木や側近の黒霧とは面識がなくて、逆にヒーローの卵や荼毘とは面識あるどころか、馴染み深い仲って、どこをどうしたらそうなるの??」
「私をこっちの世界まで攫ったは良いけど、反撃した盗品の私にビビッて、その盗品を放り出して、ぶざまに尻尾巻いて、1人おめおめと逃げ帰ったから、私は誘拐犯の仲間の死柄木弔達とは面識がなかったんだよ」
「おい、人の先生を雑魚キャラみたくディスるのやめろ」
「勝己と出久とは、こっちに来てから間もない頃に、何故か、ひっつき虫か粘着呪文をかけられたかの如く、しつこく付き纏って絡んで来るから、最終的に私が折れて幼馴染みって形に収まったの。」
「じゃ、荼毘とは?」
「おい、余計なこと聞くな」
「幼馴染みコンビの後に知り合った。こいつが迷子になってビィビィ泣きながら、絡まれてたチンピラ共々、自分を火だるまにしてる所を助けて、なんやかんやで、保護者みたいにn…」
「てめェもベラベラと喋ってんじゃねェよ!」
「「「ブフッ!!」」」
「荼毘が、迷子!」
「ビィビィ泣いて!」
アジトの中が、摩耶と荼毘以外の連合の人達によって、爆笑の渦に包まれる。
それに対して、荼毘は青筋を立てるくらい本気でガチギレして、「うるせぇ!!」ってドスの利いた声を荒げた。
チリチリ、チリチリ、と。荼毘の手から、背中から、青い炎が火花を散らすように、漏れている。
これはマズイ。不機嫌を通り越して、確実に怒っている。と言うより、怒る通り越してブチ切れてる。
荼毘が炎をブッパする1歩手前で、なんとか笑いを抑え込めたコンプレスが話題を変える事に成功した。
お陰で、誰の身も心も燃やされずに、済んだ。後、数秒、遅かったら……((((;゚Д゚))))ガクブル
「お嬢さんは、小さい頃から、しっかり者だったんだねぇ」
「おい、見た目に騙されんな。こいつは立派なオバサンだぜ。まぁ、三十路手前だってのに、浮いた話が微塵もない独り身で寂しい処女のオバサンだがな。」
自分がこっちに来た時は17歳の時で、それから11年ぐらい経ったから…28歳?かな。
なるほど、確かに、三十路手前のオバサンだ。オネーサンと言い張るには、ちょっとアイタタタな感じだ。
「そうそう、立派なオバサンなの。向こうでもこっちでも、傍迷惑な巨悪と、毎日毎日やんちゃするハナタレ小僧たちに、ほとほと手を焼いているから、そんな浮ついた事をする暇もなくって。」
「処女卒業出来ないのを、俺達のせいにするなよ。」
「使えるもんは全て使う!とか豪語しといて、私の庇護下に居るのは嫌だとか駄々捏ねて、安全で無料同然で、雨風とか凌げて、ベッドとかビジネスホテル並みの私の家を、度々、飛び出しては戻るを繰り返すプライド高めの口先だけのガキ」
「……あ?」
またしてもディスりを混ぜ込んで、昔語りをし出した摩耶に対して、自分でも驚く程、低い声が荼毘の口から零れ落ちた。
「結果、こうして、ふらふらで単細胞で女にだらしないヤリチンのヒモ野郎になるしかなかった奴に、あーだこーだ馬鹿にされたくないな〜。」
「……女と違って、男ってのは、不能じゃない限り、何もしなければ、溜まるもんは溜まるんだよ。」
「だから、自分と同じくらい股の緩そうな女を引っ掛けては、それらを都合良く発散するって?」
「おいおい、さっきからディスりが酷ェな。まるで浮気したカレシを責めるカノジョサマだ。おかしいな?いくら実年齢が大人とは言え、体がガキな奴とは寝た事ねェんだが。何を勘違いして俺を自分のモノだと宣う女と同じ事してんだ?てめェはよ。」
「あー、分かる。突然「浮気してるでしょ!」って、ヤサシーオトモダチに責められたら、内心、驚きなんかより、面倒くせぇの出たって思うよね(笑)」
悪ノリだと知りながらもコンプレスは荼毘に同意を示す。
他の連合の奴等はどうか知らないが、コンプレスだって、そのモードに入った女が、面倒臭い事を熟知している。
面倒臭さを露骨に顔にも出そうになるのを必死に堪えることにすら、うんざりする程度には、女性経験は豊富だ。
それに、荼毘は完全にセフレだと思われるタイプの人間だ。これに関しては、天賦の才がある。彼はコンプレス同様、セフレが似合いすぎる男。
博愛主義で、優しく紳士的な自分に、どんどん女が虜になってしまうように、猫のように気紛れで、アメとムチを使い分ける危険な悪い男の荼毘にも、どんどん女は沼って行ってしまうのだろう。
タイプは違えど、似たような経験は多いと、付き合いはまだ浅いが、今までの言動で明らかにそうと分かる荼毘に、コンプレスは親近感にも近い仲間意識を感じていた。
「メソメソと愚図る大きな赤ちゃんに、ぬいぐるみの如く抱き締められて寝た回数は、ヤサシーオトモダチの誰よりも多いけど?それに、甘い言葉じゃなく、情けない泣き言ばっか囁かれてたから、どっちかって言うと彼女より母親気取りって感じかな。」
摩耶が、荼毘の挑発も、コンプレスの悪ノリも、取り合う気がない事を彼らの方も分かっていた。
分かってはいたが、こんな十倍どころか百倍にもなって返って来るとは思わなかった。しかも、明らかにコンプレスの分も、荼毘に全部、飛び火している。(すまん、荼毘。byコンプレス)
「んな訳ねーだろ。それに、お前が母親?ハッ!こんなブッサイクで、女らしさゼロの母親は、知らねェなァ!それに、俺は宿賃代わりにアメをやっただけだ。Win-Winの関係ってヤツだぜ?」
「愛に飢えて頭の弱そうな女は扱い易いし、一夜限り、またはいつかは終わる関係だと割り切ってしまえば、後腐れも残らない。そんな風に、女を舐め腐って、痛い目を見そうになった所を、私に助けられた回数は、両手両足じゃ足りないよね。」
「別に、そこまで貶すようなこと思ってねェし、舐め腐ってもいねぇよ。……大体、油断したのは最初の頃だけだったし、両手両足じゃ足りないってのも、メソメソだのなんだのってのも、色々と脚色し過ぎだろ。」
顔を思いっ切り歪めて作った渋面のまま、荼毘が、ふいっと、そっぽを向くようにして、摩耶から顔を背けるようにして逃げる。
それでも、己の非を、負けを、認めたくないのか、気まずげにだが、大袈裟なまでに話を誇張するなよと言いたげに、悪足掻きに等しい反論の声を挙げる。
そんな荼毘を、呆れ果て、白けたように、ジト目で見つめる摩耶。
その煩わしい視線を感じ取って、ますますイヤそうに、荼毘は眉間に皺を寄せた。
そんな押し黙る2人の間に、沈黙が落ちる。…が、やがて根負けしたように、しかし、いかにも気に食わないと言うように、苛立ち混じりに鳴らされた荼毘の舌打ちが勝負の決着を告げた。
「もうあれ、会話内容が母と息子のそれじゃないか?」
「摩耶ちゃん、荼毘君より年下なのに、ママみたいで面白いです」
「や、実年齢で言えば、普通に年上のお姉さんなんだろうけど…あの外見じゃぁね。」
「面白い以外の何物でもないわね」
そんな2人の様子を見て、その場にいた者達は、摩耶の事を、荼毘の保護者だと、認識した。
荼毘は、基本的に、物静かで、非常にクールな奴だ。口数も少ないので、基本的に何を考えているのか分からない不気味で、ミステリアスな雰囲気を漂わせ、仲間にすら自らの素性や過去については、一切、語っていない。
なのに、摩耶とのやり取りを見ていると、そんな荼毘が、ただの反抗期で生意気なガキにしか見えてこない。
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