神野の悪夢編 10




廃れたプレハブ小屋に再び戻ってきた敵連合。

最初に来た時と同じくスマホで、摩耶が自分たちのラスボスを動物に変えて、ビタン!ビタン!と驚異的なまでに何度も弾ませるのを見ていた。



「死柄木、お嬢ちゃんは諦めよう。ありゃ、俺らにはどうしようも出来ねえよ」



仮面の下、引きつった顔でMr.コンプレスは、自分たちのリーダーに、そう進言した。

それに同意するかのように、「魔女、怖い!」と、騒ぎ立てる仲間たち。

…荼毘だけが、苦虫を噛み潰したような渋面を顔に浮かべて、口をつぐんでいる。


そんな騒ぐ彼らの頭上で、炎が燃え上がった。

全員が即座に戦闘態勢に入ると同時に、フォークスが姿を現した。

その片足には、小さな袋が括り付けられている。

袋の中には、人数分のチョコとメモ用紙1枚が入っていた。



「なんて書いてある?」



メモを開く。

そこには、殴り書きの字でこう書かれている。



【食え!】



ガンギマリの目で睨んでくる弔の五指に掴まれ、一声鋭く鳴いたかと思うと、次の瞬間、跡形もなくなってしまった。

弔の崩壊の個性により、一握りの塵が、床の上にあるだけ。

皆が驚いて見下ろしていると、塵の山から、小さなクシャクシャの雛が、中から頭を突き出した。

先程までの、赤と金色の、うっとりするような美しい鳥と比べると、雛の姿は、みすぼらしいと言うか…醜かった。

暫くしてから、バシッという音と共に、今度は摩耶が姿を現し、フォークスの姿を見つけると、驚愕して叫んだ。



「ちょっとぉ!?チョコを食べろとは言ったけど、フォークスを雛にしろとは言ってない!!」

「言ってはねぇな。」

「書いてもない!!」

「ねぇ、貴方達、普通過ぎない?」

「「?」」

「アナタ、キスされた事、根に持ってないの?」

「別に孕ませられた訳でもないから、どうってことないわ。」

「メンタル強すぎない!?」

「こいつ絶対心臓に毛が生えてるだろ」

「それに、その点に限っては、荼毘は大丈夫よ。“不能”だもの。」

「え?」「は?」「そ、……そうなの!?」



突然の爆弾発言に、敵連合の声がハモリ、驚きと哀れむような視線が、一斉に荼毘に向けられる。

瞳孔をかっ開いた、おっかない形相をした荼毘の、煮え滾る怒気と、刺すような殺気を感じても、摩耶は動じない。

地獄の底から這い上がってきたかのような鬼の形相で、“何言ってんだクソ女。ブチ犯すぞ”という恐ろしい字幕が彼の頭上に見えて、……見なかったことにしようと敵連合は視線を逸らした。



「なに怒ってんのよ?」



ビシビシ刺すような視線を向けてくる荼毘を鬱陶しく思ったのか、不快そうに顔を顰める摩耶。



「本当に“不能”か、その貧相な体で試してやろうか?摩耶ちゃんよぉ」

「結構よ。闇医者とは言え、しっかりした医師の診察による証言と、今までの検査結果で、分かり切ってる事じゃない。“タネなし”の立派な“不能”だと。例え、いくらヤッても、今までの女たち同様、子なんかデキやしないわよ。」



種無し(タネなし)の男性とは、射精は可能だが精液中に精子が全く、あるいはほとんど存在しない状態のこと。



「あ、あぁ…そう言う意味合いの“不能”か。」

「…ビビらせんなよ」

「お嬢ちゃん、男としては『枯れる』とか『干からびる』とか、ましてや『不能だ』って、言われたくない言葉なのよ。」

「そうよ。どれくらい言われたくないかと言うと、女にとって『ブス』とか『デブ』とか、禁句レベルのNGワードよ。」



冷や汗を掻きながら、引き攣った苦笑を、疲労のにじむ顔に浮かべたコンプレスとマグネに摩耶は教えられた。

そんな2人の御蔭で、確実に男に言ってはいけない言葉ランキング上位に入るであろう、とんでもない暴言を吐いてしまった事を理解した摩耶は、申し訳なさそうに、けれど素直に、荼毘に謝った。

荼毘も、深く長い溜息をついた後、「言い方に気を付けろ、クソバカ女」と、乱暴な言葉遣いながらも、その謝罪を受け入れ、なんとかその場は丸く収まった。


……かのように見えた。



「…ん?ってぇことは、×××って言ってたのはマジって事か!?」「いいや、嘘さ!」(伏字:…ん?ってぇことは、×××(生×メ)て言ってたのはマジって事か!?)

「それがどうした。」

「毎回×××××××だなんて、最高かよ!羨まっ!ずりぃぞ、荼毘!」「最低最悪のマナー違反者だぜ、荼毘!ぶーぶー」(伏字:毎回×××××××(中×しセッ×ス)なんて、最高かよ!羨まっ!ずりぃぞ、荼毘!)

「意味ねェだろ、ゴムなんか。こんな体だから中身もイカレちまってて、胎の中に出したところで、俺のじゃ、ガキなんざデキやしねェからな。」



だからか、セッ×スでのゴム有り無しの話では、避妊という概念はそもそも荼毘には無い。

全てにおいて、自分の気分次第なので、相手の要望に、わざわざ応えてやるつもりも、さらさらない。全然お構いなしだ。

ぶっちゃけ、今まで、女に許可なんて取ったことねぇし。男慣れしてて、自分から誘って跨る女たちを、宿代と称して、ただ溜まったら射精す為だけの孔としてでしか認識してないせいもあるだろうが……。



「待って、そんなこと別に言わないで良いから!」

「だとしても、避妊具は付けてください。荼毘、避妊具は男性のマナーですよ。」

「つーか、知りたくなかったぜ!!仲間の夜事情とかッ!この不潔男!」

「ハッ、童貞のトカゲには刺激が強すぎたか?」

「黙れよ、もう!後、トカゲって言うな!!」



そんな知りたくもない仲間の性事情を、摩耶の発言で知ってしまった他の敵連合の者達は、頭を抱えた。

うん、まァ、お気の毒様としか言いようがないですね。



「……ドラゴン??」

「は?」



摩耶がスピナーを見て、驚きで、目を丸くする。

スピナーもまた、摩耶の発言に呆気に取られて、目を丸くする。



「どこがだよ。見りゃ分かンだろ、トカゲだよ。眼科行った方がいいンじゃねェの?ドラゴンらしさがどこにあるってンだよ。」

「え?だって、フレッドとジョージが着てた最高級のドラゴン革(ガワ)のジャケットと同じ肌よ!それに見た目だって、トカゲよりドラゴン寄りよ!荼毘こそ眼科行った方が良いんじゃない?」



鋭くカッコイイ目つきに、引き締まった筋肉質な体、どこをどう見たってドラゴンでしょ!と力説する摩耶。



「(ドラゴン!?最高級!?カッコイイ!?///)」



キラキラした目で見られ、突然の人生初の褒め殺し(?)に、赤面して照れるスピナーを、ギロッと睨む荼毘。



「けばけばしいだけの緑色の鱗(ウロコ)じゃねェか。お前、趣味悪ィなァ…」

「加齢臭マシマシの中年男性のケツを始め、そこいらの女のケツを追い掛け回してる貴方にだけは、言われたくないわ。」

「「「「(加齢臭マシマシの中年男性のケツって何!?ぇ?荼毘って両刀使いだったりするの!?!?)」」」」



※両刀使い:性的文脈では男女両方と関係を持つ人、あるいは一般的には、異なる2つの役割や技術を両方こなせる人を指す言葉である。



「ハッ!口移しの相手が、スピナーじゃなくて悪かったな。」

「え?」

「俺みたいに火傷塗れじゃねェし、見た目も“カッコイイ”らしいしな。」



そう唇から嘲笑と完全なる自虐発言を共に吐き捨てる。

自分を卑下し、皮肉を含ませた薄ら笑いを浮かべて、自虐的に笑う荼毘。

それでも、その言動からは、摩耶を責める雰囲気がありありと感じ取れる。



「「「「(うっわ、面倒臭い男のソレじゃん!!つか、オッサンのケツ追い掛け回してることは否定しないんだ!?(汗))」」」」



束縛体質・嫉妬深い・情緒不安定。

荼毘は、そんな面倒な3大要素を凝縮したような男だった。



「…荼毘、」

「フツー、こんな焦げ臭くて醜いオトコに触られたくねェもんな?でも、悪ィな、触っちまった上にキスまでしちまった。」

「…荼毘、」

「にしても…爆豪のガキに、リーダーに、今度はトカゲ野郎かよ。とんだビッチだなァ?」



自虐風の責めかと思いきや、今度は苛立ちのまま、貶す風に言葉攻めをし始める。

クツクツと、卑屈に笑いながら、全力でこの状況を愉しんでる余裕ある素振(ソブ)りを見せながら…。



「はぁ…。」



それに対して、摩耶は聞こえる溜息を吐く。

摩耶の呆れが伝わり、それが気に食わないらしく、ピクリと、荼毘の肩が跳ねる。



「…荼毘、」

「話しかけンな、面食いクソビッチ。」



声を掛けてみても、視線が絡まない。

その上、酷い暴言を吐き、摩耶を蔑(サゲス)む始末。



「チョコ食べないから、そんな攻撃的になんのよ。しょうがないなー。」

「は?…ングッ」



そんな荼毘の挑発に乗らずに、顔を自分の方に向かせて、不貞腐れている彼の口に、カエルチョコレートをブチ込んだ。

魔法界のお菓子であるカエルを模したチョコが、甘ったるく口の中でウゴウゴと動いていることに、荼毘は顔を顰(シカ)める。

口の外にハミ出してるカエルの両足も、ピクピクと動いており、傍から見ていた他の敵連合の者達も、顔を顰めてドン引きしている。



「さて、次は…―――」



そう言って、敵連合を見回す摩耶。



「要らんぞ、そんなん」

「俺、こっちのチョコにしよ!」

「俺も!」

「私もよ!」

「私も、こちらのチョコにします。」

「俺もだ!カエルをチョコでコーティングしたゲテモノなんか食えねェよ!菓子ナメんな!」「いいや、立派な菓子さ。どんと来ーい!」

「本物のカエルにチョコを塗りたくってる訳ないじゃない。カエルの形を模して魔法をかけてあるだけの、ただのチョコレートよ。」

「それ、“だたの”って言わなくない!?」

「私も、そのチョコはヤです!可愛くないです!なので、こっちにします!」

「カエルチョコに可愛さを求められても…。」

「つーか、なんで魔法界にあるっつー菓子持ってんだよ?」

「そんなの、一緒に送り届けられたからに決まってるじゃない。」



ローブの袖を捲(マク)った摩耶の手首には、見覚えのない腕時計が着けられている。

チョコに意識を持っていかれそうになっていた敵連合も、摩耶の指の動きに注目する。

魔法界のことが話題に上がったことで、パッと表情を明るくして、嬉しそうに微笑む。

指先で腕時計をコツコツと叩いて、腕時計の縁(ベゼル)をクルクルとなぞってから、最後にパチンッと指を一つ鳴らす。

腕時計の中から、姿をくらますキャビネット棚ほども大きいキャビネットを出し、扉を開けると、中から雪崩が起きた。

敵連合がビックリしつつも、雪崩を良く見てみると、色とりどりで、多種多様な、お菓子たちが雪崩の正体だと分かった。



「私に菓子屋をやれって言ってるのかしらね?…貴方達、お菓子の好みとかある?」



あっという間に、まるで菓子屋が半分そっくりそこに引っ越してきたかのように、甘いものが山のように積み上げられていた。



「はい!血の味が好みです!」

「いやいやトガちゃん、お菓子に血の味なんてあるわk」

「あら、ぴったりのがあったわよ。“血の味のペロペロ・キャンディ”。ちょっと刺激的なのが良ければ、“鼻血ヌルヌル・ヌガー”や“流血豆”もあるわ。」

「って、あるんかい!!」

「“血の味のペロペロ・キャンディ”=吸血鬼用お菓子?って言われてるけど、ただの血の味がするだけの飴よ。“鼻血ヌルヌル・ヌガー”は食べると、一時的に鼻血が出るのよ。“流血豆”は…、」



ツッコミを入れるMr.コンプレスを華麗にスルーして、摩耶は丁寧にお菓子の説明をする。

その説明を聞いてる途中、何を思い付いたのか、荼毘が鼻血ヌルヌル・ヌガーを1つ手に取る。

そして先程の腹いせか、スピナーに、手に取った鼻血ヌルヌル・ヌガーを無理矢理に食べさせる。

すると、スピナーの血に引き寄せられて、トガが頬を染めて、スピナーに急接近する。

まるでキスするみたいに、近付いて来るトガの顔に、これまた顔を真っ赤にして必死に抵抗するスピナー。



「ジョークグッズがラブコメアイテムになるなんて…」



そんなイチャイチャ(?)な光景に、授業を抜け出す口実を作るための“ずる休みスナックボックス”…文字通り、ジョークグッズが、こんな光景を生み出すことになるなんて、思いもしなかった。





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解せぬ花