最終巻あたりの話
「いや、お前も頑張れ」
ツッコミの声と同時に、ベシン!と、死柄木の後頭部に衝撃が走った。
死柄木が驚いて、振り返る。と、同時に緑谷が「あっ」と声を上げる。
「摩耶ちゃん!?!?」
「お前、なんでここに…」
「摩耶」
摩耶は、くるりと振り向いた。
アルバス・ダンブルドアが、そこに立って居た。
「ダンブルドア先生」
「知り合いか?誰だよ、この爺さん」
「え?ダンブルドア先生って…あのアルバス・ダンブルドアのこと!?言われてみれば、カエルチョコに付いてたカードと同じ…」
「久しぶりじゃのう、摩耶」
摩耶と謎の老人の登場に、死柄木と緑谷は、目を白黒させる。
しかし、老人の登場のその事に、摩耶は、驚くことはしない。
神野の事件以降、薄々とだが…確信を持って、分かっていた。
―――――― 再び、“こうして”ダンブルドアと…会うことを。
「なんと素晴らしい子じゃ。なんと勇敢な女じゃ。あの時と同等の試練に再び立ち向かい、打ち勝つとは!」
ダンブルドアは両腕を広げ、摩耶を讃えた。そして、摩耶に向かって歩いて来る。
“あの時”と同じように、流れるような濃紺のローブを纏い、背筋を伸ばして、軽快な足取りでやって来る。
「さぁ、一緒に歩こうぞ」
そう言って、摩耶をエスコートしようと、手を差し出す。そのダンブルドアの手に、摩耶は自分の手を重ねる。
「ミスター・緑谷出久とミスター・志村転弧も、一緒に来てはくれぬか?お主らが気になっている事を話そう。」
「一から説明してくれるんだろうな?」
「儂が話せる事ならの」
4人分の足音が真っ白い空間に響く。
明るい靄(モヤ)か雲のような水蒸気が周囲を覆い隠して行く。
いや、むしろ、靄そのものが、これから周囲を形作って行くようだった。
眺めて歩いていくうちに、だんだん目に入るものが増えて来た。
頭上には大きなドーム型のガラス天井が、陽光の中で輝いている。
「(宮殿かもしれない。)」と、緑谷は思った。
すべてが静かで動かない。ただ、自分たちの足音が聞こえてくるだけだ。
「改めて自己紹介をしようかの。儂はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。生前はホグワーツ魔法魔術学校の校長をやっておった。今は――――世界を管理する立場と言うべきかの。」
自己紹介をしたら、最後に、いきなり話がぶっ飛び始めた。
ダンブルドアが言うに、"世界"は無数にあり、一つ一つの世界が独立して成り立っている。
その無数にある世界を管理しているのが"上"、所謂"神"のような存在にあたる…分かり易く、また俗っぽく言えば、役職みたいなものにダンブルドアは就任したらしい。
ダンブルドアは20世紀で最も偉大な魔法使いと呼ばれるほどの実力者の為、魔法界で命を落とした後、直接"上"から、しつこく勧誘を受けていたそうだ。(その度に丁寧に断っていたらしいが…)
「ドラゴンボールで言う界王界みたいなもん?」
「言い得て妙じゃな。」
「マジかよ。」
死柄木の例えた表現に、ダンブルドアは機嫌よく言った。
「つまり、ダンブルドアさんは界王神…神様になったってことですか!?」
「そうとも言えるし、そうでもないとも言えるのう。」
「えぇえ!?どっちですか!??」
「ほっほっほ、豪快なリアクションじゃの。」
大げさに驚く緑谷のリアクションが面白かったようで、これまた軽快に笑うダンブルドアは、左手で自身の長い髭を撫でつけながら話を続けた。
"上"の仕事は前述の通り世界の管理なのだが、流石に"上"が優秀でも世界は無数にあるわけで、管理し切れずに時折"バグ"が発生する。
バグは、天災として世界に現れ、いくつかの世界で同時にバグが発生してしまうと、バランスが崩れて世界が滅ぶ可能性があるらしい。
個性世界も例外ではない。異世界に干渉が出来るという"理(コトワリ)"を歪めさせる個性がバグとして出現してしまった。そう、オール・フォー・ワンが奪った個性の持ち主の人達のことである。
「……思った以上に……」
話が壮大になってきた。
出久も弔も、あまりのスケールのデカさに困惑しているのが見え見えだ。
2人して、「この人、大丈夫?」「耄碌してんの?この爺さん」と心配そうに私を見つめている。
私だって話が壮大すぎて信じ難いが、私は当事者な上、ダンブルドアが此処にいる時点で説得力はある。とりあえず話を聞き続けよう、と2人に目で返事をした。
「お主らの気持ちもよく分かる。ただの年寄りの戯言と聞き流してくれても構わん。じゃが、どうか最後まで話を聞いてくれんか?」
そんな3人の考えが、ダンブルドアにも伝わったのか、ふっ、と目を細めて微笑んで、そう言った。
事の始まりは、この個性のある世界の"上"の管理責任が不十分で、異世界に干渉できる力の出現を知っていながらも、放置し過ぎてしまったことから始まる。
世界にもよるが、時間の流れの差はかなり異なるという点も、放置し過ぎてしまった不可抗力の一因らしい。
そうして、ようやく"上"がその問題のバグを解決する日取りが決まったのが、つい最近のこと。
約100年近くも放置してしまったのは、世界ごとに時間の流れが異なっているからだそうだ。
その結果、魔法界のある世界との干渉をみすみす許してしまい、それにより、双方の世界に“歪み”が出来た。
「例えば、摩耶が個性世界に攫われる形で渡ってから十数年も経過していても、摩耶が居なくなった後の魔法界では、ほんの数年しか経過していない。世界にもよるが、時間の流れの差はかなり異なるのじゃ」
「……なるほど。だから吼えメールの皆の声が私の知るものと、あまり変わりなかったのですね。」
十数年とほんの数年の違いでは、見た目と同様、声の老化具合も聞けば分かるくらいには、顕著だろうと摩耶は納得する。
まぁ、そんな訳で「2つの世界が滅ぶのは流石に不味い!」という事で“上”の管理者たちが、ダンブルドアに泣きついたと言う。
ダンブルドアも、巻き込まれたのが私だったから、断り続けていた“上”と言う名の管理者を引き受けたとのことだったと経緯を語った。
それを聞いて、摩耶は頭を抱え込む。
そんな事とは露知らず、楽観的過ぎた考えをしていたので、ダンブルドアに対して申し訳なく思ったからだ。後、ただ単にスケールのデカさに頭が痛くなった。
人としての一生を終え、冥界へと下ったダンブルドアは、なんらかの方法で(例えば…金に銀、虹色、赤くも青くも輝く、玻璃(ハリ)の鏡みたいな?物とかで)私のピンチを知った。
それで、大仰な椅子に座る、大仰な出で立ちの閻魔大王を説得して、手助けをしてくれて、こうして迎えに来てくれたとか、深く考えず、それくらい浅慮でお気楽に思って居るだけだったのだ。
そんな推測でさえ、充分に荒唐無稽で壮大なスケールだが、なんてったって、知恵や利発さや賢明さの聡明な力と魔法の才能のみならず、言葉巧みに相手を説得する才能があるダンブルドアだ。あり得なくもない。
ところがどっこい、お偉いさんに助力を乞う所か、そのお偉いさん……神様になって自力で私を助けようとしてくれて動くとは、推量の枠外にも程がある。
だがしかし、生前の時と変わらぬ愛の熱量で、私を守り、助け、導いてくれた恩師のダンブルドアには、頭が上がらないのも確かだ。
話を戻して。
ダンブルドアが引き受けなければ、別の者が担当する筈だったらしいのだが、そこにダンブルドアと縁ある私が渦中に巻き込まれている上に、2つの世界の"理(コトワリ)"を進んで歪めさせる者と闘争してるという非常事態が起きた。
その為、ダンブルドアは、私を助ける為に、わざわざ"上"となって担当になり、あっちをちょこちょこ、こっちをちょこちょこと、色々な方面に掛け合って、魔法界に私の無事と状況やらを、出来る限り最速で伝えたりしてくれた。
そして、魔法界に協力を呼び掛け、神野の事件からの吼えメールでの声援や不死鳥のフォークスやゴドリックの剣を収納した組み分け帽子などで手助けをしてくれた上に、この世界に自ら出向いて、私を迎えにやって来てくれたのだ。
「魔法界から姿を消した摩耶の事は、魔法界のみならず、沢山の者達が君の身を案じていた。儂もその1人じゃ。見つかってからも、ずっと気がかりじゃった。」
話が一段落したからか、小さく息を吐いたダンブルドアは足元に視線を向けた。
「ごめんなさい、ダンブルドア。私のせいで“上”になることになってしまって…」
ダンブルドアが、ずっと魔法大臣に就任するよう、何度も請われても断っていたのは知っている。
権力を持つ儂自身は信用出来ぬと、ホグワーツの教師として最後まで、居続けた事を知っている。
神様を、それらに当て嵌めて、例えるなら、私のせいで魔法大臣にさせてしまったようなものだ。
「儂が"上"の一員になって最も嬉しかった事は、摩耶が別の世界で元気そうに生きているのを知った事じゃ。」
そうしてダンブルドアは、ブルーの瞳を弓なりにして、にこりと笑った。
「のう、摩耶よ。」
「はい。」
「儂は権威の衣(コロモ)を上手く着こなせているじゃろうか?」
脳裏に、あの時、ダンブルドアが教えてくれた事を思い出す。
『興味深いことじゃが、ハリー、摩耶よ、権力を持つのに最も相応しい者は、それを一度も求めた事の無い者なのじゃ。君達のように、やむなく指揮を執り、そうせねばならぬ為に権威の衣を着る者は、自らが驚くほど見事にその衣を着こなすのじゃ。』
その通りなのならば……――――
「はい!誰もが驚くほどに、その衣を見事に着こなしていらっしゃいます!!」
「嬉しいのう。君のお墨付きとなれば、上々じゃ!……まぁ、“上”の役職も、君を元の世界に戻し、この件に関しての“歪み”が鎮まるまでという期間限定ものじゃがのう。」
「へ?」「え?」「は?」
ダンブルドアの予想外の発言に、ビックリして、摩耶と緑谷と死柄木の素っ頓狂な声がハモる。
「ちょ、ちょっと!期間限定なら期間限定って早く言って下さいよ!!」
「サプライズじゃ」
「そんなサプライズ要りません!」
「巫山戯た爺さんだな」
「って言うか、神様ってそんな簡単に辞められるものなんですか!?」
バチコン☆と、ウィンクしてくるダンブルドア。相変わらず茶目っ気満載なおじいちゃんである。
余談程度なので、わざわざ言ったりはしないが、正直、摩耶を見つけた時から今まで、ダンブルドアの胸の内には、色んな感情が渦巻いた。
摩耶が消えたとされる中、摩耶が死んだかもしれない。その憶測はダンブルドアの心をも、大きく蝕んだ。しかし、元気に生きていると知り、安堵した。
それと同時に、再び巨悪の脅威に晒されていると知って、やっと重過ぎる責任から解放されたというのに、更に新たな重責を背負わされたのかと思うと、気持ちが暗くなり、重く沈んだ。
「ダンブルドア先生、助けに来てくれて、ありがとう。」
「愛しい摩耶の為なら、『火の中、水の中』じゃよ。」
お茶目にこちらへ向かって、またウィンクを投げるダンブルドアだった。
「言っただろ?俺は、アイツらのヒーローになりたいんだよ。」
「なら、出久と一緒に帰りなさいよ。」
「…素直じゃないアイツにも非はあるけど、少しも伝わってない事に関しては、同情するよ。」
「は??」
「緑谷、伝言追加だ。荼毘に伝えてくれ、『お前が来ないなら、俺が貰うから』ってさ。」
「え?うん?」
「??」
摩耶同様、緑谷もよく分かっていないようだ。
「意味、分かる?」「分かんない」とアイコンタクトを交わし合っても、2人とも答えには辿り着けないらしい。
それに対し、死柄木は全力でげんなりした顔をして、鈍感な2人に、これ見よがしに白けた目を向けて、大きな溜め息を吐いた。
もし此処に幼馴染みの爆豪が居たら、目を吊り上げ、「ニブチンも大概にしとけや!クソボケカスナード共!!」と2人して、ギャンと吠えられていたことだろう。
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