神野の悪夢編 03




林間合宿襲撃について、雄英高校の責任を問う記者会見が始まる時間に合わせて、テレビのあるバーの部屋へと集まる敵連合のメンバーたち。

所属するヴィラン達が、襲撃と拉致に成功し、これから始まる雄英高校の謝罪会見を、喜びとワクワクする気持ちで、浮足立って心待ちにしている。

そんなご機嫌な連中ばかりかと思いきや、そうでもない。少なくとも、この空間にいる約2名ほどは、不機嫌だなぁ、というのが窺える人物達がいる。

そのうちの1人は、拉致された爆豪である。まぁ、こちらは、当然といえば当然だ。

しかし、もう1人は、少女を抱え込みながら、近付くなオーラを放っている男…荼毘だ。

あれから本人は平静に振る舞っているつもりだろうが、明らかに刺々しい雰囲気を纏っている。

そのさまは、好きな女を守っている男と言うより、縄張りを取られることを警戒してる縄張り意識の高い獰猛な動物…ってーのが、しっくりくる。



「ふざけんなクソが!!これ外せや!!摩耶も返しやがれ!!クソカス敵共がぁ!!」



敵に捕えられてじっとしているようなタイプでも、敵に攫われたからと言って殊勝に相手の言いなりになるタイプでもない爆豪は、押さえつけられ、身動きの取れぬよう、椅子に括りつけられ、特に手は使えないように厳重に縛り付けられていた。

攫われてから3日も経ったというのに、ギラギラとした苛烈な赤い視線と、容赦のない罵詈雑言は、尚も健在であった。そんな爆豪に対して、敵連合はうんざりと呆れながらも、感心していた。「元気が有り余りすぎているにも程があるだろ!」と。



「ん…」



ギャンギャンと吠える爆豪の騒がしい声のせいか、薬の効き目が切れたのか、摩耶が目を覚ます。

それに気付いた爆豪が、摩耶に声を掛ける。



「摩耶!!!」

「……っ、き?」



ぼんやりとしながらも、声のした方へ、摩耶が顔を向けようとするのを、荼毘は大きな手で摩耶の顎を掴んで制して、この3日間で手慣れたように、睡眠薬を口に含み、流れるように摩耶へとキスをし、口移しでソレを飲ませる。



「!?!??」

「ふ、ぅ…っんン……」



あまりにもこの場にそぐわない行為と、時折もれるくぐもった摩耶の初めて聞く声を目の当たりにして、爆豪の頭が一瞬、フリーズする。



「っっっ!テメェ!ぶっ殺してやるッ!!!」



しかし、すぐに正気を取り戻して、暴れながら、荼毘に怒鳴る。

爆豪の怒号に、連合の奴等からの黄色い声に、荼毘は眉を顰めつつ、チラリと目だけで爆豪を見た後、何を思ったのか、長い口づけの末、わざとらしく、ちゅっと生々しいリップ音を立てて、摩耶の唇を解放した。



「ただ睡眠薬を飲ませただけだ。××××した訳でもねぇんだから、そう怒んなよ。な?」(伏字:××××(セッ×ス)した訳でもねぇんだから)



爆豪に向かって、小馬鹿にするような笑みを浮かべて、荼毘は言う。



「でも、またお前が騒いで、コイツが起きたら…もう1度、飲ませることになっちまうなァ?」

「!!」



即効性のある睡眠薬が入った小瓶を、カランカランと音を鳴らすようにして軽く振る。

同時に、再び眠った摩耶の、ほんのりと色づいていて、更に荼毘の唇と重ね合わせたせいで、いっそう潤(ウル)んだ小さな唇を強調するように、親指のはらでゆっくりと、なぞる。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」



そして、その脅しは、効果覿面だった。

爆豪は荼毘を先程よりヤバくなった目付きで睨みつけながら、悔しそうにギリギリと歯を食いしばって、静かになった。



「そうそう、そのまま聞き分けのいい素直なイイコでいてくれ。」



爆豪は静かになったが、連合の連中は静かにならなかった。



「ぇ?マウント取って牽制したのかしら?アレ」

「うるさかったから、黙らせただけじゃ?」

「ロリコンはどっちだよ(呆)」

「卑猥な脅しだ!」「いいや、健全さ!」

「荼毘、トゥワイス、未成年も居るんだから××××とか卑猥とかそう言う発言は、やめておきなね」(伏字:未成年も居るんだから××××(セッ×ス)とか卑猥とかそう言う発言は)

「は?×××を×××に×××してナカで何回も×すとか露骨に言わなかっただけマシだろ」(伏字:×××(性器)を×××(性器)に×××(生×メ)してナカで何回も×(出)す)

「こらっ荼毘!」

「×××は駄目だ!ゴムしろよ荼毘!」「避妊はんたーい!」(伏字:×××(生×メ)は駄目だ!)

「ちょっと、下品な言葉やめなさいよ。スピナーが赤面して、視線を右往左往に彷徨わせて困ってるじゃない…うふっ、初心よねぇ。かわいい♡」

「どこがだよ。トカゲ野郎の照れた顔なんざ、キモイだけだろ」

「トカゲはダメだ!スピナーだ!!」

「キャー!荼毘君、恋バナしましょう!」

「うるせェ黙れ、イカレ女。燃やすぞ。」

「じゃあ、いいです。爆豪君としますので!爆豪君、恋バナしましょう!」



もう誰もかもが煩くて適わない。

邪推するマグネも、話に乗るトゥワイスも、諫(イサ)めながらも面白がってるMr.コンプレスも、下ネタに赤面して困ってるスピナーも、見当違いではしゃぐトガも、呆れつつ文句を垂れる死柄木も、それらのやり取りを和やかに眺める黒霧も、



「うるせぇぞッ、修学旅行生かなんかか!?クソ雑魚敵共!!ソイツが起きんだろぅが!!!」

「いや、お前が1番うるせェよ。マジで起きんぞ、コイツ。」



爆豪も荼毘も含めて……―――。。。



「(うぜぇな、どいつもこいつも。)」



そう心の中では文句を垂れるくせして、口元が僅かばかり吊り上がっていたいたのは、周りも含めて、本人も気付いてはいない。










―――― ★ ――――











「不思議なもんだよなあ…何故奴らが責められる!?奴らは少ーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つある!お前らは完璧でいろって!?現代ヒーローってのは堅苦っしいなァ、爆豪くんよ!」

「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」

「人の命を金や自己顕示に変換する異様、それをルールでギチギチと守る社会、敗北者を慰める所か責め立てる国民。俺たちの戦いは"問い"。ヒーローとは、正義とは何か、この社会が本当に正しいのか、一人一人に考えてもらう!」



死柄木が歌うように言う。



「俺たちは勝つつもりだ。君も勝つのは好きだろ。」

「……」

「おい荼毘、ソイツ寄越せ」

「は?……………壊すなよ」



数秒の睨み合いの後、渋々、摩耶を死柄木に渡す。



「ついでに荼毘、拘束を外せ」

「は?暴れるぞ、こいつ」

「いいんだよ、対等に扱わなきゃな。スカウトだもの。それに、この状況で暴れて勝てるかどうか分からないような男じゃないだろ?雄英生」



チラッと、腕の中の摩耶へと視線をやった後、再び爆豪へと視線を移す。

スカウトなんてもんじゃない。これは脅しと同じだ。答えなんてイエスしか求めていない。



「トゥワイス外せ」

「はァ俺!?嫌だし!」



そう言いながらも渋々とトゥワイスは動き始める。爆豪の元へ行くと、しゃがんで拘束を外していく。



「強引な手段だったのは謝るよ……けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの暴徒じゃねえのをわかってくれ。君を拐ったのは偶々じゃねえ。ここにいる者事情は違えど、人に、ルールに、ヒーローに縛られ…苦しんだ。君ならそれをーーー…」



その一瞬だった。彼は自由になった手を戸惑いなく死柄木に向け、爆破させた。死柄木の顔に引っ付いていた手が弾け飛ぶ。同時に死柄木の腕から、摩耶をぶん取る。



「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ…!馬鹿は要約できねーから話が長ェ!要は"嫌がらせしてえから仲間になってください"だろ!?無駄だよ」



素早く腕の中に収めた摩耶の天辺からつま先までザっと視線を滑らせ、彼女の身に怪我が無いかを確認していく。怪我が無い事を確認した後、爆豪は、ゆらりと顔をあげる。



「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねえ」



決して消える事のない強い光が宿っている瞳で、敵連合を睨む。

確かに、言動は粗暴で、ヒーローよりヴィランっぽいが…。それでも、きっと、爆豪は、根っからのヒーローだ。



「後、指1本でもコイツに触れてみろ!そン時は俺がぶっ殺してやるからなぁ!オィ!特にそこの気色悪いツギハギ野郎!!テメェだよ」



ビッ!と、人差し指を荼毘に向けて、牽制する爆豪。





目を白黒とさせながら周囲を見渡してみれば、破壊されてボロボロな姿になった工場のような建物が見えた。そして、目の前にはマスクを被った大男が立っていた。


「また失敗したね弔」


彼は静かにのべた。その静けさとは裏腹に、爆豪は目の前の男がただならぬ存在であることを察した。生き物としての本能が、叫んでいる。彼は危ないと。


「でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り戻した。この子もね…君が大切なコマだと考え判断したからだ。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ」



もしかして、彼こそが死柄木の言う"先生"なのだろうか。その話ぶり、ひしひしと伝わってくる重圧感、瞬きさえもできないくらいの恐怖に襲われる感覚。間違いなくそうだと、爆豪は不思議と確信した。

周囲のヒーローは皆再起不能で倒れている、対峙するだけでも恐ろしかった。



「全ては君のためにある」



けれど、隣で『――けて、助…け…て』小さな呟きを、この耳は確りと拾う。

夢の中とはいえ、魘されながら、救いを求める摩耶の声を聞き、爆豪は自分の全ての力を振り絞るように立ち上がった。



「てめえか敵のボスは、ぶっっ殺す!!」

「威勢がいいのは嫌いじゃァないが」



じわり、じわりと自身の汗腺から湧き出るニトロの源を握る。

否、何処からとも無く現れた平和の象徴は大きな土埃を起こして巨悪の前に立ちはだかった。



「全て返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!!」

「また僕を殺すか、オールマイト」



オールマイトとオールフォーワンの闘い。

男はオールマイトの拳を弾く。その威力やなんと凄まじいことか。

思わず固唾を飲み込んだ…等の余裕なんてある訳がなくて、その衝撃は、周囲さえも巻き込み、爆豪と摩耶を含めた回りはあまりの衝撃により軽く吹き飛ばされた。


「オールマイト!!」


摩耶を庇いながら、爆豪が叫び声をあげる。あのオールマイトが攻撃を受けて、吹き飛ばされたのだ。あの完全無欠の最強のヒーローが。信じられない気持ちになる。あのオールマイトがって、夢でも見ているかのような心地に爆豪はなる。



「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。だから……ここは逃げろ弔。その子達を連れて」



男の手が黒い何かに覆われたかと思えば、それは黒霧に伸びていった。刃のようにそれは黒霧の身に突き刺さる。

すると、不思議なことに気を失っているはずの黒霧から、黒い靄のようなものが広がっていった。彼の個性だ。

ワープゲートが出来上がった。マスクの男の個性なのか分からないが、黒霧の個性を強制的に発動させたらしい。  



「さあ、行け」

「先生は……!」



崩れた建物の中から、オールマイトが勢いよく飛び出してくる。あの攻撃を受けて、ああも動けるなんて。流石オールマイトだ。



「常に考えろ弔。君はまだまだ成長出来るんだ」



そして、オールマイトとマスクの男の猛攻がぶつかりあった。常人にはついていけぬほど凄まじい戦闘だ。

近づくことさえも許されない。爆豪は摩耶を抱き締めながら、少し離れたところで呆然と眺めることしか出来なかった。



「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを止めてくれてる間に!コマ持ってよ」



だが、呆然としたままではいられない。爆豪の前には立ちはだかる敵連合。

敵連合のメンバー達の目が爆豪と摩耶に集中した。マスクの男がオールマイトを引き留めている間に、爆豪と摩耶を何がなんでも連れて逃げ出すつもりらしい。

オールマイトの邪魔にならないよう、うまく逃げたい。だが、摩耶を抱えて守りながら、6人相手にそれは、正直言って、無理がある。どうすれば、どうすればいい。爆豪がすべきことは。爆豪は考える。


「ッ…クッソがぁ!!」


摩耶を自分の背後に庇い、両手を構える。

結局、これしか思い付かなかった。いや…これしか出来なかった、が正しい。





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解せぬ花