神野の悪夢編 08




「摩耶!」「尋木少女!」「小娘!」『摩耶ちゃん!』『摩耶!』『尋木!』『尋木さん!』『摩耶さん!』



荼毘、オールマイト、グラントリノ、テレビ中継で見ていた緑谷、爆豪、轟、八百万、心操をはじめとするC組の皆が悲痛な声で摩耶の名を叫ぶ。

自分の身を案じる声が届く届かないに関係なく、摩耶は生温かい血が、利き腕を、片足を、左の肩を、どっぷりと濡らした時、刺された箇所から焼けつくような痛みが走っていくのを感じた。

ズキズキとした灼熱(シャクネツ)の痛みに耐えられず、摩耶はズルズルと崩れ落ちていく……がしかし、そうしてそのまま地面に倒れることは、巨悪の手によって、許されなかった。

突き刺さっている凶器の元凶であるオール・フォー・ワンの指先に、ぐいっ!と体が引き寄せられていく。怪我を負った箇所の痛みがゆっくり、しかし確実に、広がっていく。

ローブが自分の血で染まっていくのを見つめたときから、もう摩耶の目は霞みはじめていた。近付いていくオール・フォー・ワンが、ぼんやりとした暗色の渦の中に消え去りつつあった。



「チッ!」

「何をする気だ?荼毘」



オール・フォー・ワンに向かって個性を使おうとする荼毘に、死柄木がすぐに五指で触れられるよう手を構える。



「此処に来ること、あいつを助けることは許可したが、先生の邪魔をすることを許した覚えはないぞ」

「……ヂィ゙ッ!」



物凄い舌打ちと共に、荼毘が個性を奮おうとして振り上げた手を下ろした。それに倣(ナラ)って、死柄木も手を下ろした。

死柄木と荼毘の一触即発にヒヤヒヤした敵連合の面々だったが、大人しく荼毘が引いた御蔭で、なんとか組織崩壊は免(マヌガ)れたようで、一安心する。



「五分経ったな、戻るぞ。」



そして、周りの目がオール・フォー・ワンたちに集中してる今のうちに、黒霧が再び開いたゲートを潜(クグ)って、戦場から人知れずに撤退して行った。



「さすがは“選ばれし者のパートナー”!そして、本当に良い“力”だね。魔法は!…やはり僕らのもとへ来て欲しいな、ーーーッ!?」



突如、悲痛な叫び声があがった。

摩耶でもヒーローでも、増してや、一般人の被災者でもない。

それは今、余裕たっぷりに喋っていた筈のオール・フォー・ワンのただ1人のものだった。

オール・フォー・ワンは激しい苦痛でうなり声を上げながら、体を丸め、摩耶を貫く指先を見た……みるみるうちに指先をつたって、手首にまでも、火ぶくれが出来た。


摩耶には、分かった。

オール・フォー・ワンは、ヴォルデモートと同様に、摩耶の皮膚に触接、触れることはできないのだ。


17歳になるまで、摩耶を守り続けていた、母親の“愛の護り”。

どういう理屈か知らないが、体が17歳未満まで若返ったことで、“愛の護り”が復活していたらしい。


摩耶に触れれば、ひどい痛みに責めさいなまれる……クィレルの時のように、しがみつき、痛みのあまり個性を使うことができないようにする。―――それしか道は無い。

摩耶は、力を振り絞って、手を伸ばし、オール・フォー・ワンの腕を捕まえ、力の限り強くしがみついた。



「あ゙あ゙あ゙ア゙ア゙ァ゙!!!」



オール・フォー・ワンがまた恐ろしい悲鳴をあげ、摩耶を振りほどこうしたが、激痛で力が入らないし、個性を使うのもままならない。

2人を見る者たちの目に、摩耶が触れているオール・フォー・ワンの腕が、真っ赤に焼けただれ、皮がベロリとむけ、やがて、灰のようになり、なくなっていく様を驚きの表情で見ていた。

しかし、その腕への“浸食”が他へ及ぶ直前に、オール・フォー・ワンは渾身の力で、肩から腕を切り離した。

摩耶は、固く握っていた腕が支えをなくし、消え去ると同時に、重力に従って、落ちて行った。

下へ……下へ……下へ……―――――



「尋木少女!!大丈夫かい!?って、そんな訳ないか!酷い怪我だ!!」



オールマイトが飛び出し、両手を伸ばして、落下してくる摩耶を、難なく受け止める。掴んでいた腕は当然、無い。

涙で、ぼんやりとした摩耶の視界の端で、真紅の影が、スッと横切って、オールマイトの肩に留まったのが見えた。



「フォークス」



摩耶はもつれる舌で呟いた。



「ディメンターは?……そう、ありがとう。君は本当に素晴らしかったよ、フォークス。」



摩耶の問いかけに、一声、鳴いて答えるフォークス。

その答えに安心して賞賛を贈ると、巨悪の爪が貫いていた左の肩の傷に、フォークスがその美しい頭を近付けるのを、摩耶は感じた。



「ダンブルドアに…ハリーたちに、伝えてくれない?『ありがとう』と『ごめん』って」

「尋木少女!諦めてはいけない!しっかりしなさい!」



オールマイトは、そうは言いつつも、分かっていた。非常に危険な状態だ。いますぐ治療をしなければ、死んでしまう。

この鳥にさえ“それ”がわかるらしい。傷口を見ながら、真珠のような涙をポロポロと、そのつややかな羽毛を伝って傷口へと滴り落としながら、泣いていた。



「腕の再生ができない…何故だ!?」



なくなった腕の方の肩を押さえながら、突然、オール・フォー・ワンが声をあげた。


「何をした!?答えろ、尋木 摩耶!!」

「貴方じゃ、無理よ。私に触れなかったのが、それを証明してる。」

「無理だと!?触れなかったから、なんだと言うのだ!何をしたか言えと言ったんだ、僕はッ!」

「杖からは、断片的にしか情報を得ていないのね。でも、もし全てを知っていたとしても……―――ヴォルデモートと同じで理解することも打ち勝つことも出来やしないんでしょうね…。」

「僕は、完璧な魔王になるべき強者だ!不可能なことなど、ありはしない!!」



オール・フォー・ワンが、吠える。



「リドルと一緒で、可哀想な人。」



摩耶が大声で言ったわけでもないのに、水を打ったような静けさの中で、その声はトランペットのように鳴り響いた。



「……は、?」



オール・フォー・ワンは聞き間違いかと思った。それか、いっそ冗談ならよかった。

それなのに、あまりに透徹した、その眼差しは、無粋な嘘や邪推な冗談なんか、カケラもない。



「この僕が?哀れだと??」



今、死にかけているのは摩耶の方だ。それは、誰が見ても、火を見るよりも明らかだ。

腕が亡くなろうとも、オール・フォー・ワンは、まだ次のオールマイトとの戦いを行える程度には、余力を残している。

それなのに、負けて死に逝く弱者に哀れまれている理由が分からないし、その凪いで透き通った瞳は…弟のそれと酷似していた。



「(違う、違う!弟の目とは違う!弟は…与一はッ!)ーーーー 僕をそんな目で見るなッ!!与一!!!」

「誰よ!?私は、尋木 摩耶よ!!」

「何故お前は思い通りにならない?ただ僕はお前が欲しいだけなのに!何故、拒む?こんなにも、この僕が、求めてやっているというのに!!」

「尋木少女!あ、安静にしとかないと!!君は重症なんだ…か、ら?」



そこで、オールマイトは奇怪(オカ)しな事に気付く。

何故、先程よりも元気なのだろう?と疑問に思う。

大怪我をして瀕死の筈の少女が、先程よりもスラスラハキハキと流暢(リュウチョウ)に言葉を喋っている。



「(あれ?よく見ると、怪我が塞がってないか??)」



摩耶の左の肩と利き腕の傷口の周りが、ぐるりと真珠のような涙で覆われていた。しかも、その傷さえ消えている。

いつの間にか、フォークスはオールマイトの肩から降りて、摩耶の足にその頭を休めている。その足の傷も、肩と腕の傷同様、消えていた。




「私はただ、帰りたいだけなのに…ッ!!」

「無事に、送り届けるよ」

「…ぇ?」

「私はヒーローだからね。困っている人は、放って置けないんだ。」

「……ふふっ。出久と勝己の気持ちが、今なら、良く分かります。」



そして、オールマイトとオール・フォー・ワンの戦いへ…!!

その前に…、杖を振り、呼び寄せ呪文のアクシオで、辺り一帯から、ありったけのチョコレートを搔き集める。



「ディメンターの影響から回復するためのものです!食べて下さい!!元気になるから!」



と皆に呼びかけて、チョコレートを食べるよう促(ウナガ)す。






「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!!」



浮遊呪文を唱え、あたりの瓦礫やその下に居た人たち諸共、浮かび上がらせる。

駆け付けたエッジショット等の他のヒーローが浮かせた人々を助け、回収する。


そうして、なんやかんやで、オールマイトが勝った。





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解せぬ花