イカレ女記者役の夢主ver.(MHA:敵連合夢) 07




(side渡我寄り)




 訓練は思った以上に楽しかった。4×4ラウンドあった鬼ごっこはあっという間に終わり、渡我たちは庭先でぐったりと倒れ込んだ。

「面白かった!!」

 泥と汗に塗れながらも、女は太陽のように笑っている。その笑顔はどこか不気味だが、素敵で、渡我は釣られて笑った。

「そして! 三人に報告がありまーす!」
「なんですか?」
「今年の夏休みは、この四人で三重に旅行しに行きます! トラベル イン 三重! イエええええええイ!!」

 一人テンション高く雄叫びを上げる女に、疲れのあまりあぐらを組んで項垂れていた伊口が顔を上げた。

「それは…珍しいな…。お前、長期休暇はいつも取材行脚だろ…?」
「たまったま社長から四人分の旅行券を貰ってね! 伊口君と渡我ちゃんは、いつ頃ならいける? 二泊三日なんだけど」
「後で確認してみるわ…」
「私も!」



 そして旅行日当日。


 新幹線、電車と乗り換えて数時間。ホテル「ひまわり」に到着した渡我は、思い切り背伸びをした。夏だが、ホテルを囲む森林のおかげで涼しい。
 彼女の背後では、他三人がトランクを引いている。

「じゃ、私はチェックインやってくるから、適当によろ!」
「私、ショッピングモール行ってきます!」
「オッケー、連絡事項あったらスマホに送るわ!」

 渡我のスマホには、およそ二万円分がチャージされており、財布にも三万ほど入っている。今日は観光の予定もないので、ホテル使用のバスに乗り、彼女は三重で一番大きなショッピングモールへ向かうつもりだ。

「夕方には戻れよー!」

 そう言って手を振る伊口に、意気揚々と手を振り返した。

 お目当てのショッピングモールは、夏休みとあって人が多かった。渡我と同じ観光客もおり、三重の名産品などを興味深げに見ている。

 中でも彼女が気になったのは、小さな鞠と鈴が連なった、組紐の装飾品だ。
 奥のほうにあった店先のフックハンガーにぶら下がるその品を、そっと手に取る。

「それ、伊賀組紐って言うんです!」

 ひょっこりと視界に映り込んだのは、茶色いボブヘアに丸い顔の女の子だ。店の名前の入ったエプロンからして、この店のバイト。年は渡我と同じくらいか。
 売れなくて困っていたのだろう。女の子は組紐の魅力を一生懸命に語ってくる。身振り手振りを使って作り方を説明する姿は、とても可愛らしかった。

「店員さん、カアイイね」
「え!? あ、その、ありがとう!」
「お名前、麗日っていうの?」

 胸のネームプレートにそう書かれている。人気の少ない店内の会計カウンターで、「可愛い」と言われた麗日は顔を赤くした。

「うん。麗日お茶子って言います! お客さんは?」
「お茶子ちゃん、カアいい名前。私は渡我被身子! ヒミコって呼んでねお茶子ちゃん!」

 自分の悪い癖だ。可愛い人を見るとすぐに好きになってしまう。

「ね、ね、この後時間ある? 私ね、今旅行中なの! お茶子ちゃん、ここの人? 良かったら案内して欲しいのです」
「え、あ、ええっとお…」

 両手を握ってグイグイ距離を詰めてくる渡我に、麗日は瞼を持ち上げ苦笑いする。その姿すら可愛くて、渡我の笑みは深まった。

 すると、渡我の頭を緑色の手がチョップした。

「こらトガ。店員が困ってるだろ」

 伊口だ。彼は特にショッピングモールに用はなかったのだが、渡我がやらかさないか心配でやってきたのだ。案の定予想が当たり、呆れるばかりである。

「行くぞ。トゥワイスたちが待ってる」
「や! もっとお茶子ちゃんとお話ししたい!」
「暴れんな!」

 ジタバタ暴れる渡我を押さえつつ、伊口は麗日に会釈する。怒涛の展開に呆然とする彼女に向かって、渡我はにっこり手を振った。

「いつか、また会おうね! お茶子ちゃん!」

 会計カウンターには値段分の硬貨が数枚。渡我の手には、真っ赤な鞠の伊賀組紐が揺れていた。




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(side女記者)






 三重県に旅行しに行ったら、渡我ちゃんがお友達を作ったと言うのだが、伊口君の話では一方的にマシンガントークかましていただけらしい。
 「誰の癖が移ったのやら」と口にしたら、「お前だろ」と総ツッコミを食らった。解せぬ。 

 とはいえ、渡我ちゃんが自分の「好き」を表に出せるようになったのはデカい。日々の訓練の賜物か、それとも何気ない日常が生きているのか。

「まあ兎にも角にも、健やかに育っておくれ〜」

 その方が、私は楽しいから。




 秋の酒はほろ酔◯に限る。オレンジ味のそれを口の中で転がしながら、私はだらしなく屋敷の庭のベンチにもたれかかっていた。

 すると、奥の方から人がやってきて、私の缶を見るなり笑う。

「また先に飲んでんのか」
「迫さーん! そのとーり!!」

 何を隠そう飲兵衛とは私のこと! 客人が来る前に開けるのも一興!
 ふわふわした思考の中で空いてる隣を叩く。肩をすくめた迫さんは、ビール缶片手に隣に座った。彼は出会った時と同様、バーテンダーのような格好をしていて、お洒落にあけた缶をクイと傾ける。

 コンプなんたらとかいう芸名で活動しているらしい彼は、渡我ちゃんに出会う前、居酒屋の帰りに遭遇して招いた。
 それから年に何度か家を訪れては、用意している酒とつまみを摘んで帰っていく。さながら近所のおっちゃん。

 彼の見せるマジックは素晴らしいものばかりで、ほろ酔◯を飲みながら観覧するのが一種の楽しみになっていた。今日も片手でトランプを移動させるマジックを見せてくれ、私は大喜びで拍手をする。

「今日はマグネは来ないのかい?」

 チータラをつまんだ迫さんに、私は首を横に振った。

「なんか忙しいんだってえ! すごいよねええデザイナー!!」

 マグ姉こと引石さんは、電車の中で痴漢をぶちのめそうとした私を止めてくれた恩人である。あの時は本当に危なかった。あのままだったら私は刑務所行きだった。標的が渡我ちゃんだったからね、そりゃ怒るわ。
 お礼として家に招待したら気に入ってくれたようで、迫さんと度々遊びに来る。

 ちなみに、引石さんが本当にデザイナーなのか、迫さんが本当にマジシャンなのかは分からない。けれど、家に危害を加える気がなさそうなので招待している。

 来る者拒まず、去る者追わず。グレーゾーンも良しとしよう。

「んでえ、迫さんは私になんか聞きたいことでもあんのお?」
「当たり」

 にいと口端を持ち上げる迫さんに、私はぐでりと首を縦に振る。

「嬢ちゃんは、この記事について知ってるかい?」
「えー?」

 酔った頭で見てみると、なるほど見慣れた記事だった。

「最近、巷で流行りのヴィラン狩りねー。正体不明、彼の戦闘した後には焼け跡が残るーってやつ。去年から数えるとお、三十件以上?」
「俺は、ヒーロー崩れの仕業だと思うんだが、どう思う?」
「えっとねえ!」

 ヴィラン狩りの記事は大体記憶している。ヒーローが駆けつける前に、アングラに潜むヴィランを片っ端から倒している人。ネットではヴィジランテとして賞賛されることが多い。ダークヒーローっぽいもんね。

「靴の跡からしてえ、成人男性でしょお? んでもって、倒されたヴィランはきちんとロープでぐるぐるまきにされてるからあ、私怨ではなーい。でも何発か殴られてるし、地面が若干削られてるっぽいからあ、戦闘はあった。ヒーロー志望にしては杜撰な行動お。
 つまりはー、力試し!」
「力試し?」
「そ。より強い人間を探して力試ししてるんじゃなあい?」
「そうか。ヒーローよりもヴィランの方が、言わずもがな容赦なく攻撃してくるし、正当防衛の理由も作りやすい」
「うんうん。それでー」

 またほろ酔◯を飲む。甘い味が広がって心地いい。「飲み過ぎじゃない? 下戸なのに」と迫さんはチェイサーをくれる。
 勢いよく喉に流し込んで、話の続きを。
 秋の穏やかな日差しの中では、舌もよく回る。 

「焼け跡は、火系の個性だからでえ、ヒーローが駆けつけない内にってことは、高火力で一気にやっちゃう感じだろうねえ。だから、その分炎の色も…」

 そこまで考えて、ピンと来た。

 ヴィラン狩りが出たのは、去年の三月ごろ。奴が失踪したのもそのくらいの時期だった。
 ヴィランに何を思っているかは知らないが、他者を傷つけることに躊躇する人間じゃない。
 トドメの、攻撃に使用しているだろう蒼炎。

 ここから導き出されたことに、酔いが一気に冷める。





 ーーヴィラン狩り、荼毘じゃね??







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(side他)



 あの家を出てから一年は経っただろうか。
 目の前のヴィラン共を焼きながら、荼毘は月を見上げた。

 ここでヴィランを殺してもいいが、それではあの家に戻れなくなる。
 衣食住も金も揃っているあの家は便利なので、壊れるまで使い潰したい。

「テメえ…噂のヴィラン狩り…!!」

 まるで、ヒーロー殺しステインのような呼び名。奴の意思を引き継ぐという、一週目で被っていた皮が、姿を変えて降りてきたらしい。

 負け犬の遠吠えに、笑いがこみあげる。ついついヴィランを燃やしそうになったものの、何発か蹴り気絶させる程度に収めて拘束した。

 死柄木の指示ではない。そもそも、荼毘が彼と共に行動するのはステインが現れた後である。それまでは、このアンダーグラウンドでじっくり力試しをさせてもらうつもりだ。

 一週目と違い、今回の連合にはトガ、スピナー、トゥワイスは参加しない。
 トゥワイスは家にやってきてから自首をして、数年かけて足を洗った。
 二週目ヴィラン連合の戦力増加が期待できないからこそ、ルートを辿るためには鍛えておく必要がある。

「つっても、俺は飾りだ。後はリーダーがどう動くか、だなあ」

 ニヤニヤと口角を上げる。
 何故だか楽しくて仕方がない。エンデヴァーに向けていた執着ほどではないが、それとはまた別の高揚感に浸っている。

 焦凍は今頃、炎司に強烈な恨みを抱いているだろう。夏雄と冬美は学校か。冷は病院にいて、炎司は相変わらずNo.1にご熱心。
 荼毘だけが、一週目の家族の結末を知っている。果たして、二週目はどうなるのだろうか。今度のネタバラシは地味だから、あまりショックを与えられないかもしれないな。それすら、ただ思うだけで興味は薄いが。

 一週目に使っていた、夜の廃ビル。
 結合跡の残る自身の胸の皮膚に、荼毘は親指を食い込ませる。

「赫灼熱拳・鱗」

 瞬間、心臓の奥から冷気が湧き上がる。それに合わせて炎熱を出し、心臓を中心に、熱気と冷気を循環させる。それぞれの炎は相互に安寧を齎らし、荼毘の中心で青々と輝いた。

 一週目、死に際になってできた技。二週目では、あの家の山で片鱗を掴み、今ようやく形になった。
 鈍化した体は熱を感じづらく、双方の出力の調整が難しい。

 一週目の焦凍ほど安定はしていなかった。

 けれど、荼毘はもう、己の炎に焼かれない。

「リーダーを協力させた甲斐があったな」

 習得前、どう足掻いても感覚だけでは無理だと判断し、文字通り直接見るために死柄木に心臓の辺りの皮膚を崩してもらったのだ。
 おかげで死にかけたが、ヤブ医者のおかげで一命を取り止め、こうして鱗を掴んだ。
 ただ、心臓部に負荷をかけた後遺症か、血圧が若干下がり、動きが鈍くなっている。そこをどうカバーするかが、今後の課題となるだろう。

 妙な気分だ。

 強くなる。やっていることは一週目と同じなのに、一週目とは違う感情があった。
 
 執念に燃えていた心臓が、鎮火を経てゆっくりと動き始めたような気さえする。

 蒼炎に身を委ねれば、足は勝手にワルツを奏でる。引き攣った四肢の皮膚の下で生きている肉の躍動が、網膜に焼きつく誰かの笑顔が、音に乗って踊り出す。

 翳った月が降りてきた。月光が荼毘の影を映し出す。


 ーーただ今は、この感覚に溺れていたい。

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解せぬ花